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第一幕 8 平穏

熱い歓声を浴びた私は、その場の雰囲気に呑まれ剣を掲げた。


「う、打ち取ったり!」


「うおぉぉぉ!!!」


この大合唱はしばらく続いたらしい。

熱が治ってきたと思ったら、私たちはもみくちゃにされた。


「2人がそんなに強かったなんて思わなかった!」


「あの回転するやつどうやったの?」


「2人ともかっこよかった!」


「え、ぅあ…ぇえい! 逃げるが勝ち! 行くよ、リアス!」


「えっ?いやちょっとまっt」


そうして大量の冒険者に追いかけながら村長が貸してくれた家まで走っていくのだった……。

日も暮れてきたので、寝る準備を始める。

始めるのだが…案内された時は気づかなかったが、この家、ベッドが一つしかないじゃないか。


「私が床で寝るよ」


「? なんで? 一緒に寝ればよくない?」


「そんなことしたら私が死んじゃう…!」


「私と添い寝するの……嫌?」


また上目遣いをしてくる。

アリシアに百万ダメージ!

自分で言うのもなんだが私、これに弱すぎると思うんだ……。

…リアスは分かってやっているのではないだろうか。


「嫌じゃないです…」


結局、押し負けてしまった。

そうして迎えたドキドキの添い寝タイム。

案の定、緊張で眠れる気がしなかった。

(…リアスの体、あったかいな)


「…リアス、まだ起きてる?」


「うん」


「ねぇリアス、これからの予定なんだけど…」


「うん」


「私は王国を目指そうと思うんだけど…リアスはどうする?」


「私もついていくよ。行く宛もないしね」


「そっか」


短い会話が終わり、気まずい沈黙が流れる。

自分の中で今回の戦いの反省会をする。

今日の戦いで、私はリアスに任せてしまっていたところがあった。

いくら竜だとしても、リアスはまだこんなに小さな女の子だ。

いずれはリアスよりもっと強くなって、リアスが戦わなくたっていいようにならなくちゃ。


「んぅ…」


(ひぁっ⁈)

寝返りを打ったリアスにひしと抱きつかれる。

変な声が出そうになった。

(…やっぱり勝つのは無理かもな…)

そんなくだらないことを考えているうちに、意識は闇の中へと落ちていく。

__________________

『なあオリビア、知識のインプットをした方がいいとおもんだが』


『やっぱりそうだよね。んー、何入れる?』


『やっぱり種族別魔物図鑑初級は入れたいよね』


『戦闘スキルもいるんじゃねぇか?』


『おっけー。…おっしできた』


『…てかもう中級ってついてるやつ全部入れちゃおうよ』


『んー、もうそれでいいか!チャチャっと終わらせるよ~。さっき入れたやつを保護術式で保護してから〜、リベラ、中級全部お願い』


『本当にやるんだ。まぁいいけど。……はい、どうぞ』


『ありがと。…うわ、重っ。さっきの保護魔法のとこを選択魔法で一括選択して…全体を条件付きでまとめて、中級全部〜イン! これで終わりだね。疲れた〜』


『お疲れ様。はいお茶』


『ありがと』


『なあオルクス、これやる意味あったか?」


『当然だよ、カルメラ。もしこの子が起きた時、なんの知識も無くて、起きた時目の前に竜とかいたら、最悪壊れるよ?大丈夫なようには造ったんだけど。それに、ある程度の知識はないと不思議がられるしね』


『時代が進めば必要とされる知識も変わると思うんだが』


『……しーらない!』


『こいつ逃げやがった!』


_______________________


微睡の中から浮上する意識を手繰り寄せるように、体がゆすられる。


「…ァ シア、起きて。パリスさんが朝ごはん持ってきてくれたよ」


「ん〜、あと5分…」


「…シ〜ア〜? そっちがその気なら、えいっ」


「眩しっ!」


リアスに布団を引き剥がされる。

まだ日が上りきっていない朝の空気は少し肌寒い。

窓から差し込む朝の挨拶が私の目をつっつく。

ぼんやりした意識がだんだんはっきりとしていく。


「おはようリアス…ふぁ…」


「はい、おはよう。朝だよ。ご飯だよ」


「リアスは元気だねぇ」


「ふふーん」


体を起こし、リアスの頭を撫でる。

さらさらふわふわの手触りが気持ちいい。

リアスも満更ではなさそうだ。

重い腰を上げて、軽く伸びをする。


「ちょっと顔洗ってくるね」


「私もいく」


ベッドの脇に置いてある靴に足を入れる。

木製の椅子にかけられていたローブを身にま纏い、家から出る。

こんな朝早くでもやはり起きている人はいるようで、井戸から水を汲んでいる人やら、店を準備している人、ここで買って食べる人のために朝ごはんを大量に準備している人。

焼きたてのパンの芳香が鼻に入ってくる。

井戸で話している主婦たちの声がかすかに耳に入ってくる。

このくらいの生活音が一番心地いい。

そんなことを考えながら、顔を洗うために井戸へ向かう。


「おはようございます」


はじめに私が話しかけた相手は、私やリアスと歳の近そうな、ザ•村娘だった。

必要最低限の装飾を施された麻色のワンピースを着ている。

私が挨拶したのを聞いてぺこり、とリアスがお辞儀をする。


「ああ、おはようございます。アリシアさんにリアスさん。昨日は本当にありがとうございました」


「大したことはしていないよ。みんな無事でよかった」


「私の兄も、昨日の戦いに参加していたんです。絶体絶命のところを、お二人に助けてもらったと。兄を助けていただいて本当にありがとうございます。感謝してもしきれません」


おそらく昨日のあの冒険者だろう。


「私はセリナと申します。」


「これはご丁寧に。しばらくの間、よろしくお願いしますね」


その後、他愛のない話をして時間を潰した。

そうして少し時間を置いた後、私たちは本来の目的地である井戸にいた。

井戸の横に置いてある桶を拾い、井戸に落とす。

ぴちゃん、と音がする。

少し待って水が汲めたことを確認すると、重くなった桶を手繰り寄せる。

中の水を両手で掬い上げ、勢いよく顔に被る。

冷たい水は私の頭を起こすには十分だった。

私がやったのを見て、リアスも真似をする。

ぱしゃっ


「ちべたっ」


「ふふっ」


昨日のことが嘘みたいな穏やかな朝だった。


「朝ごはん、食べに行こっか」


「ん、分かった」


忘れられていた朝ごはんを食べるため、私たちは家に向かうのだった。


「いただきます」


「いただきます」


今日の朝ごはんは、パンとバターにサラダやミルクなどがあった。

木製のフォークを掴み、サラダを掬い上げる。

キャベツやにんじんなどを使ったサラダは、さっぱりしていて美味しかった。

狐色に焼けたパンをちぎって、バターと一緒に食べる。

よく焼けたパンは麦のいい香りがしていて、バターによくあった。

木製のコップに入った搾りたてのミルクで喉を潤す。

リアスも美味しそうに食べている。

誰かと食べる食事は美味しい。

幸せなひとときを過ごした後は、食材への感謝を忘れない。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


穏やかな朝だった。

戦闘シーンでもないのに前より長い…

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