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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
9/21

全力で

「さぁ…いつでもどうぞ」


香さんは、左手を隠すように後ろに回す。

あれは左手を使わないという意思表示だろうか。まぁ条件は中川と同じ……。


「では……遠慮なく行きますよ…ッ!」


まずは距離を詰めよう!

私は香さんに向かって一直線に突っ走る。調子が良い!!自分でも分かるぐらいに速いぞ!香さんが眼前に迫る。身体をゆらっと…ほんの一瞬、動かしたかと思うと……消失した。


「こっちですよ」


後方から声が聞こえた。これは【時間の神晶】の力…!てか香さんは神晶使うんだ!?


「神晶使うのずるくないですか!?」

「神晶の力を引き出す練習ですよ?神晶は当然使わせてもらいますよ、えっへん」

「……あざとい!許せん!フラッシュッ!!」


私は手から光魔法を放つ。光度で言えば懐中電灯ぐらいだが、懐中電灯の光であっても、直視するのは難しい。目眩しには十分だ。次こそは距離を詰め……!?


「目眩し……定石ともいえる素晴らしい戦法ですが…私には効きません」

「…え!?」

「時の流れに介入すれば目眩しも何も効きませんからね。いぇい。…よっと」


香さんは時の空間に身を潜め、光が弱まりだした頃に時の空間からひょこっと姿を現した。


「どうすれば……」

「…いいでしょう。さっきのはこういうこともできるんだよ、と実演したまでです。さぁ、近接戦にしましょうか」

「今度こそ…!!」


香さんがわざわざ私の射程内に入ってきた。余程近接戦に自信があるのか、力強く踏み込んでくる。すかさず私は、香さんの顔面に向かって躊躇ちゅうちょせず攻撃を仕掛けた!


「いいパンチです。ですが…少し遅いです」

「ハァ!フンッ!」


……ッ!すべて右手で受け止められてしまう。

なんだこの速度!?香さんの身体能力がここまで高いとは…!!!

シュッシュッシュッ!!!

何発撃ちこんでも深く当たらない。嫌気がさすほどの実力差だ。


「…もうパンチは終わり……ですか?」

「ふふふ……当たりませんからね」

「ではお次は私から…と言いたいところですが、まだあるようですね?」

「ぎくっ!?……さ、早速ですけど、香さんには秘密にしていたとっておき…見せてあげますよ!!!!」

「…とっておき……?」


私は香さんやヴェントさんの神晶の共通点を思い出す。時間の神晶……炎の神晶の共通点。ただ時間を操る?違う。ただ燃え盛る炎を放つ?これも違う。香さんは時を止めた。ヴェントさんは炎の竜巻を一瞬で作り上げた。少しだけだが、とっておきを使用している。では【夢の神晶】はどうだろう。能力がないのはまだ力を解放していないからだ。あの二つの神晶にあるなら夢の神晶にだってあるはずだ……そう、【限定解放】が。

私は神晶を深く握り、強く願う。

そして、全力であの言葉を叫んだ…!!


「………限定解放ッッ!!」

「とっておきって……まさかもうその段階に……ッ!?」

「今なんと言いましたの…ッ!?」

「【夢の神晶】よ!私に想いに応えて!!!」


私はこの二週間の瞑想めいそうで自分なりに結論を出した。夢の神晶とは…良い夢を見れるものではなく、見た夢を現実にするものでも無い。

…………………夢を叶えるもの、だと。


「今の私の目標ゆめは、香さんに勝つことだ!!!」

「この光……やりましたね文葉ちゃん!」

「……これが王寺さんの夢の神晶……」


神晶の輝きが頂点に達し、光が薄れていく。

香さんはきょとんとしていたが、私には分かる。私だけが分かるこの感覚。


「なっ!?時の空間が!!」


後方にあった時の空間が瞬く間に閉ざされた。


「っ!…時の流れに介入できない…??どういう原理で…」

「力が…湧いてくる…気がする!!!」

「まさか文葉ちゃんがここまでセンスの良い子だとは…私も嬉しいです。……さぁ、私も力を思いっきり使わせてもらいますよ」

「え?思いっきり?」


香さんはハンデキャップを捨て去り、澄ました顔ではなく、本来の凛々しい顔つきになった。


「…ヴェントさん、あの力は一体…」

「おそらく、夢の神晶の力は………ざっくり言えば、【自分が願ったことが現実になる】……そんな感じじゃないかしら…?」

「そんな強大な力……王寺さんが耐えられますかね」

「いいえ、全部が全部、叶えられるとは思えませんわ。例えば、世界を支配したい、などの夢は、壮大故に複雑。自分の力量を遥かに上回るものは、能力の対象外でしょうね。それに、大きな力には代償が伴いますわ。私たちが生身の人間であるが故に、身体にとんでもない負荷がかかるはずですわ」

「……??」

「行きますよ、香さんッ!」


私は強く願う…香さんに攻撃をヒットさせる!!ただ当てるだけじゃダメだ!!ダメージになる攻撃を!!!!ストレートで一線。右拳を香さん目掛けて打ち込む。


「!!神晶が使えない…ぐっ!!??」


受け止められてしまったが、どうやら時間の神晶は使えないようだ。その異様な感覚に戸惑ったのか、ガードが緩み、ダメージが入ったような素振りをみせる。

一番の武器の使用を制限された香さんがどうするのか。今だに未来ヴィジョンが見えてこないが、私はとにかく攻撃を続ける。


「ふふ、良い攻撃ですが胴体ばかり狙っていては大ダメージは与えられませんよ!!!!!そう………こうやるんですよ…ッ!!」

「ぐぶあぁ!!」


香さんの拳が私の顔面にクリーンヒット。目の前に数滴の血痕。

めっちゃ痛いよこれ!?

しかしこれがトリガーとなり、私は攻撃性が増した。興奮状態に入ったのか、鼻血なんてお構いなしに身体が動いた。


「じゃ、じゃあ私も遠慮なく…!!」

「うぶばぁ!?」

「中々…えぐい戦いですね…」

「ま、まぁ、あれ程度なら、最後はワタクシが回復させますから…。乙女の顔を傷つけあうのはどうかと思いますが……」


私は一撃を与えた後、すぐに香さんの背後に回り込み、バックドロップを決めようとガッチリホールドする。プロレス技だ。香さんのそのおっきなおっぱいが!!丁度引っかかって持ちやすいんですよぉぉぉぉ!!!


「せぇぇぇのぉぉぉぉっ!!」

「くっ!!させませんよ!」


後少しの所で逆に腕を掴まれ、香さんは柔道の背負い投げの体勢をとる。

踏ん張ろうとする私を軽々と持ち上げ、視界が天を仰ぐが……。


「がっ!?」


ギリギリで受け身を取り前転。すぐに立ち上がり、香さんにタックルを繰り出す。くらえ体重五十四キロ猛タックルを!!!!!!!!!!


「…フンッッッッ!!」

「なんのッッ!!」


香さんに踏ん張られ、私の腰回りを腕でホールドされる。


「せぇ~の…ッ!!!!」

「え!?ちからヤバッ!?」


そして……なんと真上の投げられてしまった。五メートルほど上空に飛ばされ、私は受け身を取ることに真っ先に思考が回った。


「…まだ終わりませんよ…ッ!限定解放!【タイム・オブ・ゼニス】ッ!!!…二秒、二秒の時間を!!」


瞬きをすると、そこに香さんの姿を確認できなかった。


「うんっっっ!!??」


落下しようとしている私の身体は空中で静止した。香さんが私の足首を掴んでいたのだ。時の空間から上半身のみを露出させて、足を取られてしまった。


「限定解放は使えるようですね。それに時の世界に入れるように…夢の神晶はもう限界ですか?」

「神晶が使えないからって負けませんよ!ハァッ!」


私はすぐに手を振りはらい、宙吊りになっていた状態から、地面に何とか着地する。


「…私の身体ならできる…もっと速く…ッ!!もっと高く…ッ!!!!」

「さぁ来なさい!!タイム・オブ・ゼニスッ!!!」


宙に浮いている香さん目掛けて踏み込んだ跳躍をした。夢の神晶のおかげか、香さんの顔面に拳が届き………。


「ぁあうぶ!?」

「手が滑ったようですね……ッ!」


まぶたを上げたと同時に、自分で自分の顔面を殴打するという不可解な事が起きた。

時止めか!!!???

更には、香さんに腹部を全力で蹴り飛ばされる。急加速によって、再び私は地面へ叩き戻された。


「げほッ……ぐ……うぅ」

「……………大丈夫ですか……?」


想像以上のダメージに悶えてしまう。香さんは地面に座り込む私に対して手を差し伸べる。流石にやり過ぎたと思ったのか、本心から心配しているようだった。しかし、私は興奮状態、自分でも止められない…。


「香さん…………」

「さ、立ってください、今日はここまでに……文葉ちゃん…?」

「捕まえましたよ…香さん。最後の抵抗です。死ぬ気で耐えてくださいね…ッ!」

「!?」


左手で香さんの腕を掴んだまま、右拳でぶん殴った。香さんは急いでガードをしたが、私はお構いなしに腕を振り切った!


「ぐ!?ぁああ!??」

「まだまだぁ!!」

「あのスピードはなんですの!?」


吹っ飛んだ香さんが地面に着くよりも早く、私は香さんの足首を掴み、そのまま…。


「限定解放!タイム・オブ・ゼニスッ!!!」

「!?」


気づけば香さんの拳が、私の顔面に迫っていた。

香さんの目はマジだ。この一撃は私の戦闘不能を意味していた。






「…………あれ?」

「あら!起きましたわね!私が言えたことではありませんが、やりすぎですわよっ!」


目を覚ますと、ヴェントさんの顔が視界いっぱいに映る。怒った顔も綺麗だ。


「あはは…すみません、つい…」

「文葉ちゃん、大丈夫ですか?」

「ま、まぁ……」


香さんが、私のそばに腰を下ろして言う。

ゆっくりと私の体を起こすのを手伝ってくれた。


「私が時間を戻しておきました。こうでもしない限り、女の子の顔は殴りませんよ」

「あ、ありがとうございます。で、でもほんと痛かったですよ!?最後の一撃なんて……」

「それはすみませんでした。私としたことが、本気になってしまいましたね」

「それ以外も痛かったですけどね…!!」


私はまだ少し痛む頬をさすりながら言う。

香さんはと言うと既にピンピンしていた。


「まぁ、何はともあれ、神晶の力を引き出すことに成功いたしましたわねっ!!」

「そ、そうですね!これが私の神晶…!」

「…う〜ん、力を引き出せたのはいいのですが。…代償はないのでしょうか。…こんなに強力なら何か一つくらいはありそうですが…。文葉ちゃん、身体にどこか異変はありませんか?」

「…それで言えば、時間を戻してもらったはずなのに…疲労感……?が残ってますね…」


時間の神晶で時間を戻してもらえれば、身体は戦う前に戻っているはずだが、疲労感が残っているということは、これが神晶で力を使った代償だろう。神晶の代償は同じ神晶の力でもカバーできないのか。


「おそらく、願った内容が大きければ大きほど、疲労感も大きくなる…とワタクシ、ヴェント・マシュリタントの頭脳が閃きましたわ!!!」


ヴェントさんがえっへん…と、得意げに教えてくれる。


「まぁ、この程度の疲労感であれば問題ないです。数時間もすればすっかり取れるかと」

「にして王寺さんすごいね!ついに神晶を使えたじゃないか!」

「中川だってすごいよ、あんな剣(さば)き、神速だって私には無理だ」

「お互いの良い所、もっと伸ばして行きましょう。デインズとの実戦でも役に立つかもしれません」

「…あ、そうですわ!デインズの居所を探すのも良いですけど、やっぱり新しい仲間が必要ではなくって?」


確かにデインズとの戦闘を円滑に運ぶには、私たちの戦力を上げることが必須だと思う。私たち個々が強くなるのはもちろんの事、仲間を増やす方を優先した方が安全にデインズを撃退できる。


「何か心当たるがあるんですか?」

「えぇ、同じく異世界人なら…この世界にいますわよ!!」

「え!?それは戦力アップ間違いなしですね!」

「では、ヴェントさんにそちらの件を任せてもよろしいですか?私はまだ調べたいことがありますので」

「構いませんことよ!ワタクシもできれば、デインズについて調べておきますわね、ではまたこれで!ごめんあそばせ〜!おーっほっほっほっほっほっほっ!」


ヴェントさんは高笑いと共に姿をくらました。

香さんの言う通り、実戦形式の特訓により、私たちは大幅にパワーアップできた。その達成感から満足げに帰宅しようとした私は、あるもう一つの恐怖に気づいてしまった。


「あ、まずい…」

「文葉ちゃんどうしましたか?」

「明日からテスト発表だ…」

「あー、そうだったね…。僕は一週間前から勉強をしていたからな…どうしよう…。王寺さんは勉強かい?」


王寺さんは勉強かい?じゃねぇよぉ!!!!

そうか。こいつは勉強できるタイプの嫌味野郎だったか。


「私は勉強できないんだよぉ…。それになんで五月上旬に中間テスト発表なんだよぉ!!!!!」

「あら、一般的には一学期中間テストとなれば五月中旬…普通じゃないんですか?」

「桜花高校の中間、期末テストは、まぁ、他の高校となんら変わりはありませんが、授業を短期間で詰め込んでいる分、テスト発表が明日の金曜日。テスト開始が来週の月曜日なんですよね」

「発表してから開始までの期間が短い、と…」

「嫌な説明ありがとさん王子…。あぁ嫌だ。テスト嫌だぁぁ!なんで詰め込んだ後にすぐテストしないんだよぉ!詰め込んだ意味ないじゃん!面倒くさい面倒くさい!!!!!」


さっきまでの戦闘による疲労感を忘れたかのように、地面を転げ回る私。


「お、落ち着きなよ」

「三日でどうやって勉強しろって言うんだよぉぉぉ」

「いや、そうならないために、ここ一週間の授業…ほとんど自習時間だったじゃないか。それに先生方も、結構範囲を教えてくれてたと思うんだけど…」

「うるせぇ!テスト発表するまで勉強はするもんじゃないの!!!」

「そこまで言うならやりましょう」

「……な、何をですか?」


転げ回る動きを止め、真面目なトーンで質問をぶつけた。

正直返事聞かなきゃよかった……。


「勉強会です!」


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