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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
6/21

特訓開始!

翌日の放課後。昨日と同じ洞穴ほらあな前に集合した。


「ねぇ、ほんとに良かったの?こんな大事に巻き込んじゃって…」

「勝手に行動した僕が悪いよ、王寺おうじさんが謝る事じゃないさ。それに、王寺さんとこうして肩を並べられるだけで、あぁ…巻き込まれて良かったなって思えるんだ」


中川は、あははと愛想笑いしながら言う。

時折見せる素の優しさがこいつを嫌いになりきれない理由だ。


「でも嬉しいよ。私だってただの一般人……神の力とか地球外生命体とか、一人じゃそんなのについていけないよ」

「…君からそんな言葉を聞いたのは初めてだ、やっぱり巻き込まれて良かった!」

「いや、良くはないでしょ」

「お二人さーん、やっほ〜」


私のツッコミの後、ひょこっと香さんが姿を現した。昨日までの出来事がなかったかのように、元気そうで何よりだ。


「…渡野先生こんにちは。本日からよろしくお願いします!」

「香さん、よろしくおねがいします」

「中川さんこんにちは。…むぅ、文葉ふみはちゃんはやっほ〜でしょ!もうつんつん!」

「えぇ……」


落ち着きがあるその表情からは考えられない動作だ。テンションが異様なのは間違いないが、そこにはツッコミたくない。……だって可愛いから!


「…あの今日からする…特訓メニューとは、一体何からするんですか?」


中川がおずおずと問う。緊張気味の声とは裏腹に、学ぼうとする姿勢が垣間見えた。


「……そうですね…まずは魔力に慣れる事…ではないでしょうか?私の魔力を少しだけお二人に流し込みます。その状態を普通、と感じることができれば、第一段階はクリアでしょう。では手を…」

「こうですか?」


私と中川は右手を香さんに向かって差し出す。香さんは自分の手を私たちの手の甲にそっと置き、目をつむる。するとみるみる身体に生命エネルギーが流れてくるのが分かる。気分が良く、高揚感があった。


「はい、これでどうですか?」


香さんは一歩後ろに退いて言う。私たちは初めての感覚に戸惑っていた。


「これ、変化って……」

「見た目に変化はありませんよ、例えば…思い切りその場でジャンプしてみてください」

「…………分かりました!…っうがぁ!?」

「ちょ、大丈夫?」


中川の跳躍によって天井の岩が少し崩れ、砂ぼこりが舞う。


「魔力の感覚がまだ分からないので、そうなるんですよね」

「あはは…でも、すごい身体能力ですね。頭を少しぶつけたぐらいじゃ傷にもならない!これが魔力…」

「確かに、ちょっと身軽になった気がします」

「お二人が呑み込みの早い人だと分かっていました。では次のステップです。とりあえず、魔法を使ってみましょう」

「魔法って…早くないですか?」

「ちなみに先生、何魔法を…??」


心配そうな声色の私を気にもかけずに、中川は少年のように目を輝かせている。

実はこいつ……結構なゲーマーなんだよな。

特にRPGゲーム。

だから、魔法とかファンタジー系が好きなんだろう。


「まずは…無難に火の魔法でしょうか。燃焼の三原則はご存じですよね?」

「知ってはいますが…その知識が何か関係するんですか?」

「いいえ、そうではありません。むしろ逆なんです。物が燃える概念などは考える必要はありません。とにかく手から火を出す…火が出るのが当たり前だと思うことが大事なんです。そう…このように」

「うわぁ!?」


香さんの右手から炎が!?


「…って、ライター並なんですね」

「いやいや!それでもかっこいいじゃないか!?手から火なんて…僕にはまるで魔法に見えるよ………」

「いや魔法だから」


こいつ………ボケたのか?天然か?目を輝かせている以上、ボケてはないか……。


「まぁ、魔法が使えるといってもせいぜいこの程度です。私も魔法に精通しているわけでもないので」

「これって攻撃とかにつかえたりは…」

「しないですね。正直魔法なんて日常で使えるかなー、っていうぐらいです。どちらかというと魔力によって強化された身体能力が重要です」

「デインズに私たちの打撃が通用しますかね」

「うーん、確かに王寺さんの言うとおり、僕たちの身体能力がいくら向上したところで、デインズには通用しない…では一体どんな意図が…」

「大きな力を扱うにはそれに見合った大きな器が必要です。魔力が常に流れている今の状態を、普通の感覚として体が受け入れられれば、中川さんならデインズ相手にも有効打を与えられるほどの能力を、文葉ちゃんなら神晶の力を扱えるようになると思います」

「なるほど…」

「有効打……先は長そうですね」


私が神晶の力を扱うには、まずはこの魔力に慣れろと…。

ということは、どうしても時間がかかる。センスも才能もこれといってない私にとって、険しい道のりになりそうだ。


「あ、そうそう。中川さんにはこれを差し上げます」

「…?どうも…」


香さんが中川に渡したのは一本のつるぎだった。

剣の類には詳しくはないが、そんな私でも一目見れば分かる。

殺傷能力のある真剣だ。


「それは有効打になるはずですよ」

「これは…夢にまでみた剣!名前はなんていうんですか!?」

「特に決まってないですよ、よければ命名をどうぞ」

「えぇ~、どうしよっかな~」

「……………………これどこから持ってきたんですか?」


中川が浮かれているうちにこそっと香さんに問う。

神晶の力を使えば盗めたり…………なんてね?

香さんの返答は、私の無粋な考えを超えるものだった。


「……私が作りました」

「!?」

「まぁレプリカですね、聖剣エクスカリバーを模したものです」

「えぇ…エクスカリバーってあの………………香さん、一体何者なんですか…」

「よし決めた!この剣は【リゲル】と名付けよう!!」


中川は欣喜雀躍きんきじゃくじゃくの笑みでそのリゲルとやらを斜め上に掲げた。


「へ~、名前の由来は?」

「ヒントは…僕さ!!!!」

「………なんで問題形式なんだよ。お茶目か」

「さぁ、王寺さん、先生!分かりますか?」

「ふむ………リゲル………星の名前でしょうか」

「ビンゴです!流石先生!」

「…ふふ。…冬のダイヤモンドを形成する恒星の一つですね」


言われてみればその剣は所々星のようにきらめいていた。

私だけがついていけていないこの状況………………。

中川こいつ、もしかして結構博識なのか?


「流石香さん、物知りですね」

「ふっふっふっ…先生ですからね。……では中川さんは今後…いえ、今日からそのリゲルを使って、魔力有りの状態で戦闘シミュレーションでもしましょうか。相手はこちら、デデン!剣豪ちゃん一号~」

「どこから出したんですか…」


木刀を二本持ったその機械仕掛けのメイドは、香さんによって電源を入れられると、目が光り、突然木刀を振り回し始めた。

あまりにも急だったもので、私も変な声をあげてしまう。


「ひゃっ!!!???」

「っと!?いきなりですか!!??」

「思い立ったが行動、これが成長の秘訣です、ブイ」


香さんは私に向かってピースしながら説明してくれる。

中川は剣豪ちゃん一号の猛攻に、ただ逃げることしかできず、とてもじゃないが

戦闘とは呼べなかった。


「ひぃぃぃ~、これが特訓一日目だなんて!!ブラックすぎる!!」

「ほら~、木刀ですが気を抜けば大怪我に繋がりますよ~」

「ほどほどに頑張れ~」

「では、文葉ちゃんはこちらを」

「あ、私の…」


香さんから受け取ったピンクの輝きを放つ結晶……【夢の神晶】だ。

そういや香さんに預けてたんだった。


「そういえば、夢の神晶って言っても…能力がよくわかりませんよね。ほら、香さんの【時間の神晶】って、時間に関する能力なんだなって分かるんですけど…」

「…それは…正直私にも分からないんです。神晶について、全ては把握していません。名称から能力を推定できるモノもあるのですが……………………」


神晶のついたネックレスを首に付ける私を一瞥いちべつし、香さんは言う。


「夢って…………ぷぷ」

「え、今笑いました?」

「笑ってないですよ」

「夢を馬鹿にしましたよね?」

「さぁさ。その神晶の力を引き出すこと、つまり精神統一が文葉ちゃんの特訓ねっ」

「誤魔化しましたよね?」

「さぁね~」


とりあえず言われた通り、精神を集中させてみる。こういう時は座禅か。

視界を閉ざし、暗闇の中で集中させる。洞穴から差し込んでくる光は微量で、目を閉じればほとんど真っ暗だ。意識を集中………………!!

夢か……………なんだろう。好きな夢を見られる能力…………とか?それはそれで嬉しいけど。

夢…夢…うーん、夢で見たことが現実になる能力………………とかはちょっと怖いな…。


「さ…私も調べものをしないといけませんね」


翌日、中川は走りすぎで全身筋肉痛。私は座禅のし過ぎで今日も足の痺れがとれないままだった。


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