ヤツの襲来
「え、」
まさかの単語に衝撃を受け、それ以上言葉が出てこなかった。
【デインズ】…私たちが保有する神晶のうちの一つと、先代のアングレカムの命を奪った宇宙人。星の侵略者と呼ばれるほど、デインズは数々の星を襲い、そのエネルギーを糧として生きているらしい。
「この特徴的な猫背、背丈や腕が長いところから…これはデインズです…。こんな平穏な学校の周辺に滞在していたとは…………ッハ!?ここに来る前に地球から感じ取った神晶の気配…三つのうち、最後の一つって…まさかデインズ………!?」
「……香さん、大丈夫ですか??」
「……えぇ、とりあえず彼の後を追いましょう。話はその途中で」
「は、はい!」
「今日、デインズを全力で叩きます…ッ!」
香さんが拳を強く握りしめて力んでいる姿に私も影響を受け、身体に今までにないくらいの緊張感が走った。
「ぬぅぅ……騒がしい…」
地球…この星の名だ。他の星と違い自然が多く、生物も多い。
ヤツの結晶……神晶と言ったか…。これを手に入れてから知能が上がった。私に頭脳が芽生えたのだ。それに、底知れないパワーを感じる。
これで神の力を我が手中に……………収めてはいないか。
おそらく、現在の私では神晶の力を最大限発揮できるほどの器がないのだろう。…だからこそ残りの神晶を手に入れて完全にならなくては……。
「…そろそろ行くか」
陽が沈んでから行動を起こした方が効率が良い。邪魔者がいないからな。
私は迅速かつ着実に強くなるためにこの方法を選択した。
毎度のこと、この時間になると身体を起こし、【図書室】なるところへ向かう。知恵の宝庫だ。ここは学舎付近の洞穴。
偶然辿り着いた場所のすぐそばに図書室があるのは幸運だった。
ガサッ…。
葉を踏みしめる音に、私は身を潜める。最近、人間がこの近くをよく通るようになった気が……否、気ではなく、確実に、だ。
「…こっちか?」
光を放つ魔道具を持った男が一人、私の目には映った。
今までの人間は洞穴手前で、異様さに気付き引き返すのだが、
この男はずけずけと足を踏み入れて来た。
今すぐに噛み殺してやっても良いが、それは賢いやり方ではない。
他の個体とは違い、私は人間になれる存在。人間を超える存在なのだ。
冷静に作戦を実行するのだ。
「うーん……大きさ的にあんまり隠れられないと思うんだけどなぁ…ほんとに化け物なんているのか…?」
その発言は耳を疑った。そいつは私を探していたのだ。この星では私のような外見をした生命体は存在しないらしい。人間が物珍しさに私の姿を確認しに来たのか…?私を始末しにきた………には貧弱すぎる。男が洞穴の奥へ歩み寄ってくる音だけが響く。私は己の作戦のために、目の前を通りかかった男を呼び止めた。
「……お前」
「っ!!??」
「……誰の差金かは知らんが………ここにきた以上、お前を利用させてもらう………死にたく…ないよな?」
「………」
硬直しきった様子を見るに、恐怖で動けないようだ。私は腰をその場に下ろし、砕けた口調で話す。
「声が出ないか…まぁいい、聞け。私はこの見た目故に、人目につかぬよう、夜間に出歩いている。しかし、最近お前のような奴が夜間にうろちょろいるものでな…迂闊に外に出られんのだ。喰い殺しても構わないのだが、それが大事になっては困る」
一通りの説明をし、私の言葉を理解できていることを確認する。書物で読んだことによって言語学習も完璧だ。
「そこでだ。私の代わりに書物をもってこい。学舎の図書室からだ」
「……書物?」
「そうだ、この星の知識はまだ薄くてな。私にとって知識こそ最大の武器になるのだ。お前たちに馴染むためには、尚更必要だ」
「…………でもッ」
ドンッ!!と、予想外の反論に私は、壁を大きく揺らすために叩く。この際、恐怖で支配しようが関係ない。
「でも………なんだ?お前に拒否権はない、拒否すれば……………チッ」
後少しというところで、私はこの星で初めて【力】を感じる生物を目にした。………私と同じだ。それだけが脳裏によぎった。
「ふふ……まさかこんなに近くにいるとはな……………神晶保有者……いや、アングレカムと言うべきか………?」
「……やはり知っていましたか………初めまして。そういうあなたはデインズ………アングレカムの敵…!」
「ふはは、何を言うか。目がついていないのか、はたまた視野が極端に狭いのか…。これが見えないのか?今の私は神晶保有者……お前たちと同じアングレカムだぞ。……それを敵だと?仲間になる運命ではないのか」
私は手首に巻いていた、紫色に輝く神晶をわざわざ外し、手のひらに乗せてやつらに見せた。
「仲間になった後はどうするんですか?私たちを裏切って殺す。神晶を強奪。そして力を独占する…そういう未来しかみえませんね」
「殺すだと?違う、違うぞ。仲間になった暁には、まずはそうだな…平等な世界を実現するための協力をしよう。我々は神に選ばれし戦士。神として全てを均等に保つ必要がある。私たちは仲間…だからな………くくっ、協力してくれるよな………?」
「あなた随分とおしゃべりなんですね。平等な世界?神として?自分勝手な思想を押し付けないでください。アングレカムの本当の目的は神の力を保有し続け、その時が来れば神に力を返す。そういう役目のはずです」
「力を返すだと…??」
「えぇ、教えてあげましょう。考えを改めなおすんですね。文葉ちゃんもよく聞いていてください」
「…は、はい!!」
その女は私に対して恐怖するわけでも、逆上するわけでもなく、淡々と説明を始めた。私の知らないことだ、いったん…聞いておこう。
「アングレカムとは神の力を保有するために選ばれた代表の名です。事の始まりは、この世界の神が何を思ったのか己の力を結晶に凝縮し、神晶という形で下界の者に無作為で譲渡し、神は言いました。[その時が来るまで、この力を保有し続けるのだ]と……その力は先代たちによって継承され続けました。しかし、先代…九代目の保有を邪魔した張本人こそ、あなた…デインズです。なんとか我々が確保しましたが、強引な継承によって神晶が消滅していた可能性だってありました。なのであなたはアングレカムの敵です。最も神聖な儀式である継承を邪魔したからです、分かりましたか?」
「…そう聞けば私が悪い………なんて言うとでも思ったのか??神晶を全て我が手中に収める…さすれば万事解決…そして宇宙……いや、神ともども支配してくれよう!!」
「だから言ったではないですか、あなたが仲間になる未来なんてきませんよ」
女が神晶に触れ、私に向かって攻撃を仕掛けようとする。
が………。
「攻撃してもいいのか?ふっ、こっちには人質が………っ!?」
「この子ですか?」
私の懐に存在したはずの男が気づけば女のすぐ側に移動していた。これはヤツの能力か?しかし何が起きた?くっ、私の頭脳もまだまだだ……ッ!!!
「…貴様何をした!?」
「何をした、と言われても…見たまんまですが…さぁ中川さん、文葉ちゃんの元へ」
「渡野先生…事情は分かりませんが、お気をつけて!」
「さ、中川!離れるよ!」
「王寺さん………うん!分かったよ…ッ!」
「くっ、逃がさんぞ…!!」
やっと目の前に現れた神晶保有者。この絶好の機会を逃すわけにはいかない。今までのことを徒労で終わらせるわけにはいかない!!!私は全宇宙の覇者となるのだ……!!!!!!!!!!!!!!