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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
2/21

夢の神晶

通学路。私にとっては当たり前の道。今日も今日とて、日常が過ぎ去るはずだった。


「あの、すみません」

「どうしましたか…?」


後方から声をかけられ、反射的に反応してしまう。


「あなた…王寺おうじ文葉ふみはさん、ですよね」

「…そうですけど」


白衣に身を包んだその女性は、どこか不思議な雰囲気…というより怪しい。

キリッとしたその目は私に何かを訴えかけているようだった。


「私は渡野わたりのかおりと言います。研究員として働いていました。…こうして、あなたと話すのは久し……初めてですね……本題に入りましょう。私達と一緒に世界を救ってください!大袈裟ではなく、この世界が危険なんです!」

「嫌です」

「………え」


そりゃそうでしょ。私の反応が予想外だった…みたいな態度はやめてほしいが…。

一旦、理由わけを聞こう。


「……なんで私なんですか?」

「…あなたも拾いましたよね?神晶しんしょうを」

「神晶…??」

「こういう、宝石が付いているネックレスです」


女性は首元に着けてあったチェーンを引っ張ると、確かにそれはネックレスで、青い宝石が一つ付いていた。


「あ、それって…」


私はそのネックレスを見るや否や、鞄をガソゴソと漁る。見覚えがあったからだ。


「…あった」

「ん、それは…ちょっといいですか?」


女性は私の取り出したネックレス…神晶?を、まじまじと凝視する。

しかしなぜか不可解な表情を浮かべていた。


「んー、どうしたものでしょうか…」

「あのー、そろそろ家に帰ってもいいですか…?」

「そうですね、話は帰ってからゆっくりしましょうか」

「え、ついてくるんですか」


と言いつつも、家に連れてきてしまった。

帰りしな、しれっと聞いたのだが…彼女は未来からやってきたそうだ。

未来人…?は、んなばかな。

私は心の中でそう呟いた。


「ただいま〜」

「お邪魔します」

「お帰りなさい、あれ…………友達?」


いつも通り、母親が出迎えてくれる。だが今回はいつも通りではない未来人がいるが…。


「文葉さんの友人の渡野わたりのかおりです。文葉さんにはいつもお世話になっています」

「へぇ~入学してまだ一ヶ月も経ってないのに…。あの文葉がまぁ……。あ!ゆっくりしてってね〜」

「ありがとうございます。失礼します」


適応能力高いなこの人。私に友達が少ないことをいじられ、渡野さんの視線が気になるが…。母親に軽く挨拶を済ませ、二階の自室に彼女を招く。


「どうぞ…」

「どうも」

「その辺に座ってください」

「お気遣い、感謝です」


普通の部屋。そう、誰が何と言おうと普通の部屋だ。面白味の一つもない…はずなのだが、私を尻目に、渡野さんはそのキリっとした綺麗な目を光らせる。

何もない…………よ…ね……ふぁっ!!!!???


「わっ…!?………………どうしたんですか?」

「す、すみませんびっくりさせちゃって…」

「い、いえ………」


目を逸らされる。彼女なりの気遣いだろう。なにせ私が必死にベッドに飛びつき…いや、ベッドの上に置かれていた、うさぎのぬいぐるみに飛びついて掩蔽えんぺいしたのだから。


「…可愛いうさぎさんですね…ぴょんちゃん…でしたっけ…」

「なんで知ってるんですか!!??…あ、いや、今のは違くて…」


やってしまった…。幻滅される…かな??

友達…そもそも家族以外をこの部屋に入れたことがない私にとって、お気にのぬいぐるみをわざわざ目の届かない所に隠す必要がなかったんだ。


「幻滅しませんよ…ふふ、ほんとに何も変わってませんね。文葉ちゃんは」

「ちゃ、ちゃん?」

「お堅いのは無しでいきましょう。私のことも香でいいですよ。それと、そんなに隠さなくてもいいですよ。私は文葉ちゃんのことは大体知ってますから!」

「ほ、ほんとになんで???」

「ふふ、なんででしょうね。…話を戻しますが、神晶をもう一度見せてもらえますか…?」

「あ!…話逸らしちゃってすみません…」

「いえいえ、可愛いので結構ですよ」

「か、!?」


ふふ、と、いたずらっぽく笑う香さん。ほんと調子狂うぜ。

香さんなりに緊張をほぐす為のテクニックだろうか…少し見習おう。


「…あ、あんまりからかわないでくださいね……それで、これなんですけど」


そう言うと、私は例のネックレスを部屋の中央にある勉強机に置く。


「これをどこで見つけましたか?」

「…学校の帰り道…というより、学校の門を出てすぐ見つけました。道路の端に落ちてましたよ」


捨てるには勿体無いほど綺麗で、遺失物の可能性もあったので、後で交番に届けようと持っていたのだ。


「ふむふむ……やはり今日だったようですね」

「すみません、これって一体何なんですか?」

「この桃色の輝きを放つ宝石は、【夢の神晶】です」

「夢の神晶……??」

「起源を辿りましょう…………神晶というのは、神の力を十個の結晶に分けたモノです。それは代々受け継がれてきた力で、先代…前の神晶の持ち主は【デインズ】という地球外生命体との戦争の果てに敗れ、神晶を一つ奪われてしまったのです。デインズは今もなおその生命力を維持し続けています。その脅威は再び現れると私は思っています。………そこで、残り九個の神晶の保有者と協力し、デインズを倒そうと私は考えているんです」


香さんは落ち着いた声で丁寧に教えてくれる。


「と言うことは、現在私は…神の力を…?」

「そう言うことになります。神の力とは言いますが、まだ力の扱いに慣れていない私達にとっては…それほど強大な力は扱えないようです」


神の力やらデインズやらで非現実的すぎるが、ここは【夢】の世界なのか…?

普通の女子高生の私には世界を救うなんて荷が重すぎるが…。


「ちなみに私の神晶は、【時間の神晶】といいます。時の流れに介入したり、時間の逆行などもでき、今回は時間の神晶を用いてこの時代までやってきました」

「なるほど………と、とりあえず、私は何をすればいいんですか?目的を明確にしたほうが今後動きやすいので……」

「あら、随分と乗り気になってくれましたね」

「それはまぁ…自分でもよく分からないです。自分で言うのもなんですけど、私…かなり面倒くさがりなんです。責任感なんて言葉なんて知らない。知りたくもない…そんな私が珍しく心を惹かれている…この神晶という力に魅力を感じているのかもしれません」

「…………正義の心。文葉ちゃんにはあるのかもしれませんね」


香さんは優しく、子どもを励ますかのように言う。


「…先程の質問ですが…そうですね、最優先は神晶保有者を探すこと。次に重要なのはデインズの対策、ですね」

「…でも、そんなにすぐに見つかりますかね?かなり時間がかかりそう…」

「安心してください。神晶保有者は見ればだいだい分かるんです。人間にはできないことができますから…まぁ最悪世界中を脅しでもすれば見つかるかと……」

「やめてくださいね!!怖いこと言わないでくださいよ…!!」

「ふふ、冗談はさておき…文葉ちゃんも他の神晶保有者と会えば分かりますよ」


見れば分かる…香さんの発言に疑問が浮かぶ。


「…あれ、それならどうして私が神晶保有者だと分かったんですか?私、いつも通り学校から帰ってただけなんですけど…」


今日、私はなんらおかしなこと、目立ったことはしていなかった。


「それは私の神晶の力を使用したんです。気まぐれに発動した力が過去を見せてくれました」

「過去…ですか?でもそれじゃあ答えになってないような…」

「過去と言っても文葉ちゃんの過去ではありません」


香さんは私に向かって人差し指を突き出したかと思うと、その先端は机の上に向かう。そして……………。


「あなたが見つけた神晶……………【夢の神晶】の過去です」


先代とデインズの戦闘の最中…夢の神晶は先代の故郷、【リペル】という星の地で人々を守っていた。

先代は、百は超えるであろうデインズを一人で倒し、まさに最後の一体というときに事態は逆転し、デインズの腕が先代の胸を一直線に貫いた…と……。


「これが私の見た過去で、この事柄は事実です。そして、デインズは神晶しんしょうを強奪、先代は勝ち目がないと判断したらしく、これ以上奪われまいと九つの神晶を、その身を犠牲にし別次元へと転送しました。それがいまここにあるわけですね」

「改めて聞くと剣と魔法の世界…ゲームやアニメの話みたいですね…」

「初めて見たり、聞いたりすれば誰もがそう感じるでしょう。…私はこの力を使い始めて三ヶ月、そろそろこの非現実にも慣れてきました」


香さんは少し得意げな顔をして言う。


「三ヶ月…というと、人によって神晶を拾った時期が違うんですね…」

「そうですね、私は三ヶ月前、文葉ちゃんは今日…地球には三つの神晶があるはず…なのですが、あと一つの神晶がどうも今日よりも更に過去らしく、探すのが難しいんですよね」

「更に過去って…どれくらいなんですか?」

「………………ここから十年は前ですかね」

「え…香さんって一体いくつなんですか?」

「二十六歳です」

「えぇ…?…ええぇ!!??」


ショートボブの艶やかな黒髪、その可憐さから、私と同年代と勝手に思っていたが…。十歳も年上!?

言われてみれば…美少女というより、美人という言葉が似合うような…。


「さ、まだまだ聞きたいこともあると思いますが、私はそろそろおいとましますね」

「あ…はい!」


香さんは席を立ち、スッと後ろに一歩下がる。

部屋の扉とは反対方向に向かって立つ意味を、理解するのに数秒かかった。


「では、また明日からよろしくお願いします」

「こちらこそ…………って、えぇぇ!?」


空間が歪んで…??空間の裂け目から何本、何十本も白光した線が見える。

…これは魔法!ファンタジー世界のアレ!!?


「…あぁ、これは時の流れです。ここに入って明日に移動するわけですね、はい」

「は、はぁ…」

「あ、最後に一つ。私たち神晶保有者には名前があります」

「…名前ですか?」

「えぇ…神晶を保有する代表者…つまり、神晶に選ばれた戦士。その名は…【アングレカム】。私たちはそう呼ばれるそうです」

「アングレカム………」

「まぁ、アングレカムと言われれば私たちのこと。そういう認識でいいですよ。では」

「き、気を付けて…ください……」


一礼し、その場を去る香さん。そこには何事もなかったかのように、いつもの私の部屋。その後、何回か神晶と睨めっこし、ゆっくりと床に就いた。


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