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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
19/21

旅人の正体

「本当にもう大丈夫なんですの!!??」


翌日、私の部屋に集まり皆で身体を休めていた。


「僕は大丈夫です、もりちくんも」

「私の苦手な治療魔法までありがとうございます。またヴェンちゃんに助けられちゃいましたね」

「私はまだ身体が…うぅぅぅ」


その後、ヴェンちゃんが神晶を用いた治療してくれたおかげで私は無事回復。しかし、それでもまだ、全身が痛みで張り巡らされている。


「……こりゃまた一段と暴れたな」

「あなたは?」


渋い声の正体は、生地の傷んだローブを身にまとった男性だった。ヴェンちゃんが連れて来たっぽいし…異世界人だろうか。


「前から調べていた異世界人ですわぁ!ささ、自己紹介を!」

「ありがとう、マシュリタントさん。俺はマウレス、【マベリー】という星から来た。神晶保有者として、君たちに力を貸したい」

「それはそれは…これで更に戦力アップを望めますね。これで神晶保有者は四人。デインズを含めて五人ですか」

「期待されているところ申し訳ないが、俺の神晶はあんまり戦闘向きじゃないぞ??」

「あらそうですの??そういえばまだ神晶について詳しく聞いていませんでしたわね!」


マウレスさんはフードを取る。程よく伸びた顎髭あごひげ、黒髪短髪のいわゆるイケおじだ。マウレスさんは持っていた神晶を披露してくれる。灰色……時に銀色に発光する、落ち着く色合いの神晶だ。


「【叡智えいちの神晶】だ。そのままだな、物知りになれる神晶って認識でいいさ」

「一ついいですか?」

「おう、坊主。どうした?」

「具体的に、どのようにして能力を使うんですか??」

「具体的にってか…そうだな、嬢ちゃんの神晶貸してみな」

「え、はい…これです」

「例えば、だが」


そういうと私の神晶を掴み、そっとまぶたを下す。特に光に包まれるわけでもなく…。


「なるほどな…【夢の神晶】か…」

「な、なんで分かったんですか!?」


神晶に名前が書いているはずがなく。色の違いしかない神晶を、触れるだけで!?


「触れられるものなら大体分析できる。能力は…夢が現実になる、と…この場合の夢というのはその場で作った目標などでも神晶は作用するとな…。中々面白い代物だな」

「能力まで…」

「お、まだあるな。これは…なんだ??」


マウレスさんは不可解な表情を浮かべると、淡々と語りだす。


「【始まりの神晶】【終わりの神晶】が混ざり合って、誕生したもの…」

「初めて聞く名前の神晶ですね………ヴェンちゃん、知っていますか?」

「い、いえ。ワタクシも知りませんわ」

「始まりと終わり、切っても切れない関係の言葉だ。この神晶の深い意図は分からないが…嬢ちゃん、悪いことは言わねぇ。あんまり神晶の力を使いすぎるなよ。代償……しっぺ返しを食らうことになるぞ」

「…こ、怖いんですけど」


はいよ、と神晶を返してくれる。謎は深まるばかりだが、それよりも私には気になることがあった。そう…究極の質問があった。


「あの…つかぬことをお聞きしますが、ほんとに何でも分かるんですか?」

「ん?まぁ、叡智の神晶の力を超えるものや、コンピュータなんかの複雑なモノ以外ならだいたいな」

「ならこれはッ……どうですか…?」

「これは…本か??」


スッと一冊の本…否、化学のワークを渡す。


「化学の問題になってますよね、その答えって分かりますか?」

「ん、あぁ…上から順に物理変化、化学変化、熱運動…」

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!革命だぁぁぁ!!」

「…ってどうした嬢ちゃん?」

「王寺さん、神晶の使い方間違えているよ…」

「文葉ちゃんったら!!化学なら私がいるのに!!もう~~!!」


叡智の神晶がほしい!!!これがあれば勉強しなくていい!!!!


「あ、あのマウレスさん!」

「な、なんだ?」

「次のテスト……叡智の神晶を貸してくれませんか!!??」

「おう、いいぜ。ほらよ」

「ひゃっほーい!!!」

「「だめです!」わよ!」


私の喜びの舞も束の間。香さんとヴェンちゃんに止められてしまった。


「えー、なんでさ~」

「それはまぁ、王寺さんに勉強を…学ぶことを目的として頑張ってほしいからじゃないかな?」


うるさいこの金髪野郎!!なんて気持ちを押し殺し、ポーカーフェイス…できない!!!ギロッ。


「そう顔に出されると、流石に僕も怖いよ…」

「まぁ、いいさ。また借りたいときに言いな。いつでも貸すぜ。じゃあ、顔合わせも済んだし、今日はここら辺で失礼するぜ」

「そうですか、ではまたの機会に会いましょう」

「また知恵を貸していただけるとありがたいですわぁ!!」

「おう、じゃあな。あ、坊主」

「僕ですか?」

「そうだ。男一人、頑張れよ!」

「…ッッッ!!はい!!!」


なんだかあの二人で謎の友情が芽生えて…。それはさておき、夢の神晶がもとは始まりの神晶と終わりの神晶…???香さんは夢の神晶の過去を見たって言ってたけど…二十年以上前は分からないんだったっけ…。それなら、夢の神晶の誕生は更に前の話になる。初代アングレカムや先代のアングレカムはそのことを知っているのか?また、他の神晶にも名称の変更や、能力の変換があるのだろうか?多くの疑問が私の思考を奪う。


「はぁ……」

「悩んだ顔してどうしたんだい?」

「いや~、分からないんだよ…アングレカムとか、神晶とかさ」

「分からなくていいと思いますよ。もしかすると、秘密を知ってしまったが最後…………」

「や、やめてくださいよ!!!んな、無茶苦茶な!神様が私たちに力預けといて、この力はなんですか?って聞いたら始末?なんだそれぇぇぇぇ!!!!神様、私の前に出てこいやぁぁ!!」

「お、落ち着いてくださいまし!文葉さん!!!」

「うぉぉぉぉ!急に怒りが湧いてきたぁぁぁ!!」

「まぁまぁ……怒りはよいものを生みませんよ」

「香さん!!止めないでください!!私には感じます!!今!神は見ている!!!!いや、ガン見している!!!!!私が情けなく地面に這いつくばり、疑念と哀しみに押しつぶされているこの姿を奴らは観ている!!!」





「…………これはまた面白い子ですね」

「あぁ……こんな幼い子たちに神晶が回ってしまうとはな……」

「モラド…あなたはこの状況…………どう考えますか?」

「ふむ、私が思うにかなめはやはり【夢の神晶】の保有者である、王寺文葉だろう。しかし今回のアングレカムは異例も異例。歴代のアングレカムは神晶をたった一人で保持していたが、今回は一人一つときた。我々の時間もさほどない…………。これを機に新しく…吐故納新とこのうしんとでも言うべきか。一人一つの、今のスタイルを今後も取り入れていいのではないだろうか」


私の返答に不満そうにメベルは答える。


「そうですか……私ははっきり言うと今のアングレカムに未来はないと考えています。それこそ十一代目のアングレカムが、そもそも誕生しないかもしれませんよ。時間がないこの現状では、次の継承者を無理やりでも探した方が得策だと私は思います。それに目的がバラバラすぎます。デインズは宇宙一の力を欲し、王寺文葉たちは本来の目的である継承を旨とした力の保持、もりちという生命体は全面的に協力するわけでもなく、何がしたいのかさっぱりです。やはり、保有者は一人で統一すべきでしょう」

「そうかもしれんが……」

「メベルの言いたいことも分かるわ!」


普段の豪快とは程遠い、それはもう丁寧に扉を開けて現れたのは我らがリーダー、【マルク】。


「けどね、私はモラドの眼を知っている。その中でも神晶の継承にかける想いは誰よりも強い。…多分、今回で神晶の継承を区切ろうとしているんじゃないかな?継承の権利は私とモラドにのみある。やっとモラドがリーダーになる時が来たんだよ」


マルクは私の発言を見据えていたかのように代弁してくれる。


「ッッ!!!!!!モラドあなたどういうことなんですか!!??なぜそのことを黙っていたのですか!!??」

「…………すまない、もうマルクは十分頑張った。私は彼女を楽にさせてあげたいんだ」

「だからってそんな急に!!……いいえ、そんなことさせませんよ?マルクはまだリーダーの座を譲ってはいけない……!!!継承だって続けます!!!それが無理なら私が……!!」

「それはだめだよ、メベル」

「くっ……!」

「継承の有無は私とモラドしか決められない…これは絶対事項だ」

「で、でも……継承を中断して、力を取り戻すということはすなわち……」

「そう、私は死ぬ。けど、私の代わりにモラドがいるんだ。だから……ね?」

「そ、それでも……それでも……!私はまだあなたを失いたくない…………ッ!」


メベルがらしくない涙を浮かべる。そんな彼女に私はなるべく優しく諭す。


「何も継承の中断イコール、マルクの死ではない」

「………え??」

「モラド、どういうこと?」


メベル、マルク共に不可思議な表情を浮かべた。私は焦らせないように、落ち着いて淡々と説明する。


「今回のアングレカムは十人、自然の神晶の欠片を含めると十四人もいる。一人一人が潜在能力を解放しきれば、我々のパワーを超える可能性だってある。アングレカム全員と我々なら、【奴ら】に立ち向かえるかもしれん」

「つまり、神晶の回収は奴を倒した後…………?」

「そうだ、さすればマルクが狙われることもなく、我々にも力が返ってくる。賭け要素が強いがな」

「そんな危険なこと…」


説明を聞いてなお不安になったのか、メベルの表情は曇る。

マルクはというと、逆に笑みを浮かべ、高らかな声で謳う。


「ふふふ、面白いじゃないその賭け。ねぇメベル。私はモラドを信じる。幾年いくねんもの時を神晶が流れ、万物の理をも超えることを可能にし、瑕疵かしすらをも捨て去る!それはモラドのおかげ。…だから私は信じる。……メベルはそうじゃないの?」

「私は…………私もモラドを信じるわ。ごめんなさい、取り乱してしまって」

「構わないさ、私も作戦を隠していてすまなかった……」

「あはは、それじゃあ気を取り直して……ファイト!アングレカム!!えいえいおー!」


仲睦まじく微笑む私たち。私の思惑通りに行くといいが……。頼むぞ……王寺文葉…………!!!!!!


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