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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
18/21

恐怖の克服

デインズによる襲撃に、私たちは一言も声を出せなかった。狭い場所で戦うのは得策じゃない…。身動きひとつ取れない私たちに代わって、香さんが一歩前へ出て口を開く。


「……あなたはこの二ヶ月、何も仕掛けてこなかった…。それはこの星で何か変化があったからではないのですか?そう…心の変化が」

阿呆あほう、単純に回復を待っていただけだ。それに時間稼ぎなどと同じ手が二度も通じると思っているのかッッッ!!!!!!」


デインズの先制攻撃。奴自身もパワーアップしたようだが、それは私たちも同じ。デインズの動きをこの目で捉えることができた。


「く、やはりお前たちも強くなっていたか…」

「あなたも想像以上に…ッ!!」


重い一撃を軽々と受け止めた香さんは、お返しと言わんばかりに重い拳を繰り出す。


「良い拳だな」

「それはどうも…ッ!!」


お互いのパンチが、一発一発ぶつかり合うたびに洞穴全体が揺れている。

目で追えたとしても、凄まじい力同士の衝突に違いはない。

私は目が離せなかった。


「皆さんは早く外へ!!」

「け、けどこの状況じゃ…」

「いいから早く!」

「分かりました…!行くよ、中川、もりち!」

「あぁ…ッ!」

「うん!!」


戦闘中の二人を迂回するようにして脱出を試みるが、やはりデインズに目をつけられた。


「させるかぁぁ!!」

「あなたの相手はこっちですよ!!」


危機一髪。香さんがデインズを洞穴の奥へと殴り飛ばした!

途端とてつもない崩壊音が聞こえたが、振り向かずにものの十秒程度で入り口に辿り着いた。


「中川さん!!【リゲル】を召喚してください!!」

「りょ、了解です!!…召喚サモンリゲル!!!」


香さんの声はすぐに私たちの元へ届き、中川は迷うことなく返事と同時にリゲルを異空間から取り出した。


「分かってますよねッ……!」

「ッ!はい!!!はぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「もりち、私にくっついてな!」

「う、うん。あっ!中川のあれは!?」


中川の全身がほのかに光り、剣先の輝きが増す。


「リゲルの力を上手く扱えてるっぽいな」

「りげる?」

「あいつの持ってる剣だよ。自身の魔力をパワーに変換する。そしてそれをチャージアンドファイヤで放つことができるんだ」

「アングレカムでもない人間にそんな力があるなんて……」

「そ、そんなことより香さん!無事で…っておぉっと!?」


気がつけば、すぐ横に香さんが立っていた。デインズを上手く奥まで誘い込めたらしい。


「大丈夫ですよ…ふふ、先手必勝…最初から必殺技を使ってはいけない…なんてルールはありませんよ!!」


香さんと合流直後、デインズが洞穴の奥から歩いてくるのが目視できた。一人取り残されたデインズに向かって中川は前進する。


「…ッ!!」

「もう遅いさ!【炎帝斬えんていざん】ッ!!!!!!」


デインズは何かを察したかのように緊急脱出を試みるが、時すでに遅し。中川の振るったリゲルの刃先から火花が飛び散ったかと思うと、炎の斬撃が空間を切り裂く。


「…ぐあぁ!?」


もろに直撃した!!ヴェンちゃんから教わった新技!!これは手ごたえありなんじゃないか!?


「ぐぅ……ふふ、そうでなくては面白くない!」

「あいつまさか、僕の攻撃をわざと喰らったのか!?」


火の粉が舞う中、デインズは恐ろしい笑みを浮かべる。この戦いを楽しんでいるのか…。せ、戦闘狂だぁ!


「…貴様ぁ!」


突如デインズが声を荒げた。

中川も負けじと威勢よく返す。


「な、なんだ!!!」

「この前は能力も何もないただの人間だと思って眼中になかったが…この成長速度…貴様何者だ」

「…な、中川なかがわ直樹なおきだ…!」

「ナオキ……いい一撃だったぞ…褒めてやろう。神晶保有者ではない貴様にしては大したものだ」

「…そりゃどうも」


こいつ…ッ!何呑気に自己紹介してるんだ!!!


「何相手待ってんだよ!?」

「……え?」


私の大声に振り向いて返事をする中川。間抜けな顔しやがって!!!


「……ふぅ、時間稼ぎはできたかな?」

「なっ!?卑怯だぞ!!」


デインズの切り傷が徐々にえていく。火傷のような跡も綺麗さっぱり消えたところで、デインズは再び恐怖の笑みを浮かべる。


「まずい中川!!戻ってこい!!!」

「限定解放!【タイム・オブ・ゼニス】ッッ!!!!!」


刹那。デインズは、中川がいたはずの場所で右拳を突き上げていた。

あまりの威力に、洞穴全体が大きく揺れている。


「……………確かに貫いた。なぜだ。今の速度は神晶の力だぞ。神晶を持たぬ貴様がなぜこの速度についてこれる。どうなっているのだ」

「え、ええぇ!?あれ…?」


中川、デインズ共に混乱していた。中川は私の隣に立っている。この急な位置移動…な、なんだ!?デインズはすぐに体勢を立て直し、次の一手に出る。


「ふっ…フンッ!!!!!!」

「あ…!!」


私たちを一掃しようとデインズが、一気に距離を縮め、拳を振りかざす。その拳は死を体現していた。一瞬だが握り拳がとても巨大に……。


「…あれ??」

「あれ、僕たちなんでグラウンドに…」

「もりちくん!!」

「は、はい!!??」

「早速ですみませんが、私たちとデインズしか入れないように限定し、別次元アナザー・ディメンションを展開してください!!!!!!!」


香さんの怒声だけがグラウンドに響く。


「あ、別次元アナザー・ディメンション!!!」


キラキラカラカラという反射音とともに、辺りが不思議な空間に包まれる。


「そうだ!今はもりちくんがいるから学校内でも存分に戦えるんだ!」

「ありがとうございます…ぐっ!?」

「香さん!?」

「す、すみません。時間を連続で止めすぎました…」


そうか…!さっきからデインズの攻撃が、私たちに触れることがなかったのは香さんが時間を止め、私たちの位置を動かしていたからだったからだ。しかし、私の脳内で一つの疑問が浮かぶ。


「あ、あれ。確か香さんは二秒しか止められないはずなんじゃ…??」

「ふふ、魔力や体力を膨大に使用することで…停止時間の延長、身体能力を強化していたんです…十秒もあれば十分です…」

「時間を止めるなんて荒業…僕たちには想像できないほど、膨大な力を使っているはずだ。ここは僕たちでなんとかしよう…ッ!!」

「うっ……すみませんが、少し回復させてください…。ヴェンちゃんがいない今、なんとか乗り切るしかありません。信じていますよ……」


香さんはゆっくりとまぶたを下ろす。意識を失ってしまった美人教師を背に、私たちは覚悟を決めた。


「ふぅぅ…どこに行ったかと思えば貴様………………かおりといったな。瞬間移動…単純だが厄介だな」


デインズは時間停止について、聞こえていなかったようだ。けど、ここからどうする!?また香さんに命を張らせるわけにはいかないし…。


「そ、そうだ中川!」

「なんだい、あまり時間はないようだよ…」

「私が一か八か、奴の気を引くよ。どうにかして、奴の隙を晒して見せる…その瞬間を突くんだ。合図は私に任せて。それまでは手を出さないで、一撃に力を溜めておいて」

「危険は承知…だよね。よし、分かった!神晶の力、見せておくれよ!」

「あぁ、任せときな!もりちはできそうだったら援護を!!」

「ま、任せて!」

「ほう?今度は貴様が相手か…。その面構え…神晶の力をある程度、扱えるようになったか…」


香さんの方針は、全力を初めから出すこと…だ。しかし諸刃の剣…。失敗すれば勝ち目はない。この状況で私が取るべき行動は一つ。奴に知られていないこの能力を使って、不意を突くことだ!


「貴様、その輝きは!?」

「真っ向勝負だ!!限定解放!【ドリーム・ワールド】!!!」

「何!?」


服の中に潜めていた夢の神晶を取り出し、力を解放する。神晶は自ら私の首に掛かり、ネックレスとなった。デインズが歩みを止め、少し警戒を強める。その顔を見るたびに身体が震える。しかし、恐怖で支配されるほど私は甘くないッ!!

強く…強く願う…。デインズと同等の腕力ッ!!!!デインズと同等の俊敏さをッ!!!


「まさか向かってくるとはな…殴り合いもまた一興…」

「おりゃぁぁッッッ!!!」

「!?…ぐっ…なんてパワーだ!?……しかしッッ!!」

「くっ、はぁぁ!!!!」


私とデインズの打撃の攻防が始まる。私、戦える…!デインズのパワーをこの身体でッ!しかし、疲労で身体が悲鳴を上げるのも時間の問題だ。代償……夢が大きければ大きいほど、疲労感が大きくなる。前回神晶を使用した際は激しい筋肉痛程度で済んだが、デインズのパワーをこの体で扱うのは余程負荷がかかるのか、疲労がつま先から私の身体を包むように込み上げてくる。


「貴様、この前とは別人だな!!!」

「ぐぬッ!!!」

「話す余裕はないようだな…!!!!フンッ!!!!!!」

「がはぁ!!!!!!」

「王寺さん!!!」

「ふみは!!!」


校舎に吹っ飛ばされたことでデインズと距離を置くことができたが、想像以上のダメージだ。

瓦礫の中から身を起こすと、腹部、右腕、左脚にズキズキと痛みが走る。

前の私なら死んでいただろう。


「いってて……そうか、まだタフさが足りなかったか」

「王寺さん!気をつけて!!」


中川の声にハッとし、視線を上げるとそこにはデインズの姿があった。


「ふっ、どうやら肉体がついていかないようだな」

「こっちはただのJKなんでね…」

「じぇーけー?それは何だ?」

「は?あんたJK知らないの!?」

「何かの隠語か…?」

「違うわ!!女子高生だよ!!」


デインズと穏やかな会話が進む。

香さんが言っていた心の変化は、本当にあるかもしれない。私はデインズに訴えかける。


「…で、あんたやっぱりなんかあったんじゃないの?この前までただの殺戮マシーンみたいな感じだったのに」

「笑わせるな。貴様らアングレカムや神のことなど、今後一切認める気はない。私の踏み台だ」

「じゃあどうしてこんなに呑気にお喋りするのかな?」

「…人間の感情を知りたい、ただそれだけだ」


デインズにはやはり、人間のような好奇心が生まれているようだった。その顔つきは、とても敵とは思えないような、それは誰かのためなのではないかと思えてくるほどだった。


「貴様と話をしていると、何か掴めるものがあるかと思ったが…時間の無駄だったか」

「ま、待って話を!」

「いいや、待たないさ」

「くッ!!」


だめだったか!?仕方ない!!強く願え!もっとパワフルに!もっとスピーディーに!もっとタフネスに!!私の願いは一瞬にして、神晶から身体に伝わった。


「神晶を何度使おうと同じだ!!!」

「ふぅ……はぁ!!」

「うがぁ!!??」


デインズの攻撃を冷静に受け流し、カウンターを入れる。重い一撃がデインズの腹部にヒットし、グラウンドに叩き返した!!


「チッ…まだそんな力があったか、ならこちらも神晶を……何!?」

「【ひかり呪縛じゅばく】!!この時を待ってたんだ!」


もりちの使用した魔法によって、地面から拘束具のようなものが出現し、デインズの足首と手首の動きを封じる。今がチャンスだ!


「ふみはは今の攻撃で限界のはず…ッ!ふみは!動いちゃダメだ!!死んじゃうよ!!」

「大丈夫だよもりち…私はこう見えても結構頑丈なんだ。それにまだ出し切ってないッ!!」


もりちの忠告を無視して私は更に願いを浮かべる。

デインズと同じじゃない…デインズ以上のパワーを私に…この一撃を奴に!!!!

私は校舎を破壊しつつも、デインズめがけて跳躍する。


「ぐぁああ!!??」


ぐらっとした、激痛が私の身体を巡る。今の一蹴りで私の身体は限界を迎えたようだ。あと一撃……手なんて使えなくてもいい…ッ!!奴に膝をつかせることができればそれでッッ!!!!


「王寺さんッ!!」

「くっ…まだいける!!」

「貴様何を…!?」


デインズが拘束具を解こうと必死だが、どうやらもりちの魔法はそう簡単に解けないらしい。視線がぶつかり、ここぞとばかりに私は右肩を大きく前方へ突き出し、壊れた両足で空中の、あるはずのない面……いわば空気の壁を蹴る。両足をぶらぶらと揺らしながらデインズの頭頂部めがけて落下する!!


「中川ぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!!!」

「がっぁぁぁああ!!??」


ガコンッッッ。


私の右肩とデインズの頭部が衝突する。

デインズが膝を着き、声には出していないが相当なダメージを負ったのだろう。硬直したまま……言葉一つ……………出ていない。よし……後は…………中川あいつが…………。


「なか…がわ……」

「ありがとう、王寺さん…!はぁッ!!!」


僕は力を最大限高め、最大出力で一直線。デインズめがけてリゲルを投擲とうてきする。これは全魔力を込めた一投だ!


「惜しい」

「!!!」


土煙から奴の声が聞こえる。僕の手元にリゲルはない。恐怖だけが増幅する。


「あと少しでも意識を取り戻すのが遅ければ、私とて危なかった」

「あ!僕の魔法が!」

「なんで…なぜだ!王寺さんの攻撃は確実に入ったのに!」

「あぁ、確かに体当たりをくらったことで、一瞬意識はとんだが、一瞬だ。意識さえ戻れば神晶を使い、拘束を解き、あのつるぎを受け止めることなど容易いことさ」

「くっ……!!!」


リゲルは弾かれたのか、デインズの足元に転がっている。それだけじゃない。少しずつだが別次元アナザー・ディメンションが解除されている。もりちくんの意識が限界なのか!!


「中川…僕もそろそろ限界だ…」

「不可解な空間だと思っていたが、正体はその小さいのか」

「ここまで……か…」

「ようやく分かったか…なら…………!!!???」


デインズが再び身体を硬直させる。視線は僕ではない、全く別方向だった。一瞬だ。一瞬だけ、制服が視界に映った。……あれは、この学校の制服?


「………………今日はもういい……」

「何!?」

「死に急ぐことはない。私が本気を出さずとも、お前たちに勝てることが分かったのだ…もう一人、本命がいないがな」

「……どういう風の吹き回しだ…ッ!」

「しつこいぞ、私は帰る。運がよかったな、次がお前たちの最後だ」

「……………………」


僕に構うことなく、デインズは背を向け校外へ跳躍し離脱する。幸か不幸か、僕たちは助かった。助かったが……。


「王寺さん!!先生!!もりちくん!!」


意識を失った三人に必死に呼びかけると、先生のまぶたがピクピクと動き始めた。


「……ッ、助かりました中川君。デインズは………なんとかなったようですね。後は任せてください」

「先生は無理をなさらないでください!」

「もう十分ですよ。意識はしっかりしています」


先生は時の世界に入って行ったかと思うとすぐに出てきた。

その後、もりちくんに神晶をかざすと、例の如く意識は回復したが…王寺さんは回復しなかった。


「ふむ……文葉ちゃんは時間を早めますか………いやしかし…」

「ふみは!ふみは!」

「大丈夫ですよ、もりちくん。文葉ちゃんは強いですから」

「ほんとだ、呼吸はしっかりしている。ただ眠っているだけだね」

「良かったぁぁ……………」


王寺さんに、もたれかかるように座り込むもりちくん。安堵に包まれたその表情は、自然と僕の心も安心させた。


「それにしても……デインズはなぜ退いたのでしょうか?中川君は何か分かりますか?」

「…おそらく、自分の姿を見られたくない人物が、偶然近くにいたんだと思います。そしてその人物は……桜花おうか高校の制服を着ていました。顔までは見えませんでしたが…」

「見当もつきませんね。デインズが避けたがる謎の生徒……………」


今後デインズに対する有効打になるかもしれない。模索しておいて損はないだろう。


「危険人物かもしれませんね……」


先生は怪訝けげんそうな顔でそう呟いた。


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