もりちだよ
私は今、可愛い生物と一緒にいつもの洞穴で香さんたちを待っています。この子はもりち。愛くるしいまんまるボディにクリクリお目目。あとはこの可愛い三角帽子!これがもりちのチャームポイント!……見た目はこんなに可愛いんだけど…。
「ふみは…ふみは…!」
「ん~?どうしたの??まさか…また香さんは危険だ〜とか言うんでしょ」
「ぎくっ……」
「……どうなの?」
もりちは、ジト~っと目を逸らす。気遣いは嬉しいんだけど、香さんは絶対にそんな危険人物じゃない。理由は明確にある。それは私が一度、香さんに命を救われているからだ。
「あ、あのね…やっぱりあいつは……」
「おーい、王寺さーん」
「あ、中川……と香さん」
「ぇえ!?」
校舎側から歩いてくる二人は中川と香さんだ。
もりちは香さんを危険視するあまり、顔を合わせたくなさそうだ。すぐに私の背中に隠れる。
「さぁ、もりちどうするの?香さんと仲良くするの?しないの?」
「ぐぬぬぅぅ……はぁ………するよ…」
「よく言った!」
「あれ文葉ちゃん、その可愛いお餅は…?」
「もりち!!僕はもりちだよ!」
「わぁ、喋った!?この子、王寺さんの友達かい?」
「この子はもりち、こんな可愛い見た目して、実は神晶……っていたたたたぁ!?」
「はぐぅぅぅ!!」
もりちが私の右腕に噛み付く。私の会話は遮られ、怒る暇もなく耳打ちをしてきた。
「し〜!そのことは言わないで!!」
やはり香さんを危険視…ある意味嫌っているといっても過言じゃない。しかし今回は香さんたちともりちを仲良くさせることが目的だ。
「あの……」
まずい、香さんがもりちを疑った目で見つめる。
「もりち!早く自己紹介して…!」
私が耳打ちで急かし、もりちを誘導する。
「…っは!?…こほん、改めまして僕はもりち…そう!もりちだよ!!君たちの事情は知っているよ……デインズを倒すんでしょっ」
「可愛い顔して、物騒な事知ってるんですね。怪しい……」
「でも、一人でも多く仲間がいた方がいいんじゃないですか?」
よし!よく言ってくれた中川!あとは香さんが了承してくれれば…!
香さんは腕組みをし、少し考えた後…。
「…まぁいいでしょう。マスコットキャラも必要ですからね。私は渡野香、よろしくねもりちくん!」
「うあわぁ!?」
自己紹介を終えると香さんは急にもりちの身体を持って、頬を擦り付ける。全く…先が読めない人だ…。
「僕は中川直樹。よろしくね、もりちくん」
「私は…知ってるだろうけど、王寺文葉。よろしく、もりち!」
「…そろそろ離してくれるかな??」
「おっと、これは失礼。可愛かったからつい…てへっ!!」
てへ、だって…可愛い~~!!
そんな感情を押し殺し、私はポーカーフェイスをものにする。
「…過剰な愛をありがとう……僕も皆の力になれるように頑張るよ!」
「それで、もりちは何か力がつかえるの?私まだ聞いてなかったや」
「あぁ!魔法は得意さ!早速見せてあげるよ!!」
三人の注目を浴びながら、もりちはその場でステップを踏み出した。右、左、右、左と足踏みをし、そのリズムが次第に速くなり、ついにもりちは叫ぶ。
「…よっよっよっよっ!……別次元!!」
空間に歪みが生じ、辺り一帯がキラキラと姿を変えていく。
そこは……私たちがさっきいた洞穴だった。
あれ…??
中川たちも頭にはてなを浮かべて周りを見渡す。
「ここは、さっきいた場所とは違う別世界さ。これが僕の力、別次元。こっちの世界じゃ暴れても暴れても暴れたりないと思うよ。こっちで壊したものは現実世界じゃ何の影響も……ないっ!!」
「へぇ…すごいね…」
「私には到底真似できない芸当です…」
「もりち、ここにいる間って外に声は聞こえないの?」
「そうだよ〜この空間はあっちとコンタクトは取れないからね〜。それじゃあ解除〜っ……これで元の世界だよ」
「ほーん、あ!ここなら思いっきり特訓できるんじゃないですか?」
「それはいいですね。ですが特訓時にもりちくんがこの場にいることが絶対条件ですが……」
「僕は全然大丈夫だよ!言ったでしょ!皆の力になるって!」
もりちは本心なんだろうか。なにはともあれ、もりちと香さんが仲良くなれた……のかな??
「ではもりちくん、特訓のお付き合いも含めて今後ともよろしくお願いしますね」
「うん、よろしくね!!」
もりちの笑顔が何事もなかったかのようにことを進める。
「ちなみに、もりちくんって他の魔法とかは使えるのかな?」
「…つ、使えないよ!」
「え、もりち他の魔法使えないんだ」
「使える!使えるよ!!」
「もりちくんはこの世界の住人なんですか?」
「…そ、そうだよ!」
「ふーん…もりち、ここの世界の生き物なんだね」
「違うよ!異世界からきたよ!」
「そ、それじゃあ…もりちくん、デインズについてはどれくらい知ってるのかな?」
「全然知らな…」
「ジーーー……」
もりちをじっくり、それはなめまわすように眺める。額に汗をかくもりち。なんで香さんたちの問いかけに嘘つくんだ。
「………デインズは僕も最近知ったんだ。どこで知ったかは言えないけど、確かあの個体だけは神晶保有者になる前から知能が高かったんだ。最初は星のエネルギーを奪う、それだけが目的でアングレカムと対峙して、星のエネルギーの代わりに神晶を獲得したんだけど…」
「だけど…?」
もりちは口角を下げてしまい、表情を曇らせ、発言をためらう。
「…だけど、奴が偶然掴んだ神晶…それが最悪なんだ。一つ一つがとんでもない力を秘めている神晶の中でも、最も残虐な神晶…それは……………【破壊】なんだ」
ズドンッッッッッッッッッッ!!!!
洞穴の入り口付近で土煙をあげながら【何か】、いや、【誰か】が着陸した。
この張り詰めた空気…。間違いない、奴だ。
「ふみは…逃げて…ふみはだけでも」
もりちは私に耳打ちする。もりちはどこかたどたどしく、焦っているようにみえた。
「あれは…まさか!?」
「………」
中川も気づいたらしい。
香さんは気付いているだろう。さっきから真剣な眼差しだ。
「………デインズ…ッ」
香さんのボソッと呟いた一言に一同が恐怖に震え上がる。
「ぬぅう…」
見えた…デインズが煙から徐々に姿を現す。非常に芳しくない状況だ。ヴェンちゃんは異世界人の調査のことで遠出をしているので不在だ。
もりちのこの震えようからするに…恐怖が勝り、思う存分戦えないだろう。まずいまずいまずいまずいまずいまずい…。私の焦りが…緊張感がピークに達する。
「もりち、落ち着いて」
「ふ、仲間が増えたのか…」
「ひぃッ!」
デインズの鋭い眼光がもりちに向けられる。
「………ついに再戦の時が来たぞ。今度こそ、皆殺しだ」
そういうと、デインズはその異形な容姿を変形させていく。それが禍々しく、おぞましかった。
「ぬわぁぁあぁ……!!」
大きく、強く、威圧感が増していくかと思いきや、異様に長かった腕が縮んでいき、数本の触手が消え、スラっとした人型に変形した。人型といっても、爪や牙は鋭く、背は二メートルはあるだろうか。私は知っている。異形のモノが人型になった時、間違いなく強い。変形を終えたデインズは、にぃっと口角をあげて言う。
「……始末してやる」