魔法の概念
後日。例の喫茶店前にて。
「響子さん、こんにちは」
「こ、こんにちは。ず、随分と早いわね…」
「響子さんと会うために、今日は予定を早めてきました!」
「そう……それじゃあ人目につかない場所に行きましょうか」
私がそう言うと、王寺さんはモジモジしだす。え、なにその恥じらい…何か変なこと言ったっけ…?
「そ、そんな人目につかないところなんて……うふふっふへへへ…」
「……っは!違うよ!?変な意味じゃないわよ!!??それ私が捕まっちゃうでしょ!!??それに私たち女の子同士……だよ?」
「ふふ、分かってますよ」
いたずらっ子風に笑う王寺さん。くぅ…またからかわれたわ…ッ!
「とりあえず…公園とかでいいですか?」
「も、もう……前のところね、いいわよ、そこに行きましょう」
王寺さんの提案を素直に受け入れ、二人で公園へ足を運ぶ。
「あ、魔法を教える前に…魔法の概念って知ってるかしら??」
「魔法の概念…??」
不思議そうな表情を浮かべる…ということは、恐らく知らないのだろう。
当然と言えば当然…。自分たちの世界にないものの概念なんて知らないわよね。
「教えてあげるわね。魔法を使う上では重要だからよく聞いてね」
「…は、はい!!」
「まず、魔法は強さによって階級分けされているの。一階級から十階級まで。さらに十階級で表せないレベルの魔法を真階級と呼ばれているの。ここまでは知ってるかしら?」
「い、いえ…初めて聞きました」
「知らないのも無理はないわ。…私のいた世界では、この魔力階級こそが強さとしての証。今日は王寺さんの階級も測定してあげるわね」
「ありがとうございます!楽しみですねー!」
「ふふ、そんなに気を張らなくてもいいわよ」
「そ、そうですか?……あ、着きましたよ!」
「人は……いなさそうね…よし」
ここで王寺さんの魔力階級を知れるのはかなり有益だ。
私と比べてどれだけ戦力差があるのかが明確に分かる。
ものの五分で到着した公園の、中央付近で足を止めて会話をふる。
「さ、まずは魔力測定からやってみる?」
「お願いします…!」
「肩の力抜いてねー」
魔力の流れを意識し、王寺さんと向き合う。みるみる王寺さんの魔力を感じる…。一階級…二階級……。しかし、私の予想とは裏腹に、そこで数値の上昇はストップした。
「…………二階級…かしら」
「そ、それってどれくらいなんですか??」
「うーん、日常で魔法を使うのに適している程度ね…例えばライターの火だったり、のどが渇いたときに飲む水を、コップ一杯分出したりとか」
「あはは…やっぱりその程度なんですね……」
「ま、まぁこの世界の人のほとんどは魔法なんて使えないし…?すごいと思うわよ!」
「…そうですかぁ?……ちなみに響子さんは何階級なんですか?」
やっぱり教えないといけないわよね…。王寺さん、今はまだ階級を測定できないようだけど、今後できるようになるかもしれない。嘘の階級を教えてもバレちゃうのは時間の問題だし…。
「…………七階級よ」
「……な、七!?それってすごいんじゃあ…??」
「…そんなことないわよ。いくら七階級って言っても私、戦うのとか苦手だし…」
「それでもすごいことですよ!!ちなみにどんな魔法が使えるんですか??」
ぐいぐいと王寺さんは距離を縮める。その熱意に負けてしまい、私はすんなりと答えてしまう。
「ち、近いわよ!例えば…強力な破壊魔法とか…??」
「教えてください!!!」
「教えないわよ!!!??」
危ない危ない。とてもじゃないがそんな魔法をこの子に教えるわけにはいかない。敵をパワーアップさせてどうするの私!!
「ちぇーー…」
「そ、それに…仮に教えても使えないわよ?魔力階級足りてないし…」
「た、たしかに」
「と、とりあえず、二階級でできる魔法…雷の攻撃魔法はどうかしら?」
「それかっこいいですね!早速お願いします!!!」
まぁ雷魔法って言っても、ちょっと強い静電気くらいだけど。
「じゃあ、まずは人差し指を前に突き出してちょうだい」
「……こうですか?」
「そうね。次に雷を…電気を指先にイメージするの。そして、強く【願う】…電気を放出することを…ね」
「強く…強く………………はぁ!!!!!」
「ひゃ!!??」
刹那、王寺さんの指先から放たれた電気…いや、雷は公園の遊具を塵とした。
おかしいわ…。二階級の力を遥かに凌駕した魔法…まるで父さんの魔法……。
「……………再生…」
「わぁ!すみません!!遊具が……って、あれ??直ってる…」
私の魔法で遊具は新品同様に再生された。それよりも気になるのはあの威力。
………父さん程ではないかもしれないけど、少なくとも殺傷能力はある攻撃魔法だった。
「…王寺さん、今の魔法って……」
「……あぁ〜………たぶんこれですね…」
「…それは……!」
彼女が首元から取り出したネックレス…神晶だ。能力は知らなかったが、まさか魔力を底上げする神晶なのだろうか…?しかし、私が神晶について知っていると何かと面倒だ。ここは知らないフリをして…。慎重に……。
「な、何かしら…?」
「【夢の神晶】っていうんですけど、夢に描いたこと…強く願ったことが現実になる力があるんです。それで電気を放出することを強く願ったので、威力が増したのかと…」
「…正直言って規格外ね…今の魔法……。とてもじゃないけど、二階級では放てない威力だったわ…」
「そ、そうですか??えへへー褒められちゃったぁ」
「…すごいことよ。誇ってもいいわ」
私は驚愕のあまり、しばらくその場を動けなかった。あの魔法が放出された瞬間、階級が一気に上昇した。数値で言えば六……。神晶の力…いえ、夢の神晶の力でしょうね。願えば思い通りになる力。時間の神晶よりも危険かもしれないわね…。
「私にも魔法の才能があったんだ…ッ!!」
「それは言いすぎよ」
「なら見せてもらいましょうか…本物の魔法を」
「だから言ってるでしょう?私は特に………………あ」
攻撃魔法は苦手だが…………一つ。王寺さんを驚かすのにいい魔法を思いついた。
王寺さんにちょいちょいと、手招きし、王寺さんの手の甲に、そっと手を置く。
「………………?響子さん??」
「よく空を観ててね………星河一天!」
「空って……ッッッ!!??」
空を見上げる王寺さんの横顔ときたら、それはそれは満足のいくものだった。
お昼時、見上げる空には星の川。
これはこの世界の住人には、とてもじゃないが体験できない奇跡だろう。
「星が………………こんなに………………」
「ふふ、私の一番好きな魔法よ」
「なんだか……すごく………………すごいですね…………」
「すごいしか言ってないじゃない」
「だって……こんな幻想的な世界…………………あっ」
「は~いおしまい!どうだったかしら?七階級の実力は」
「なんだかこう………………………………すごかったですッッッ!!!!」
「もう、それしか言わないんだから……ありがとね」
王寺さんの心はまだ幻想の中だ。
ものの数秒でふと我に返ったのか、目を輝かせて迫ってきた。
「っは!響子さん、私も今の魔法、使えるように頑張ります!!!」
「あら、言ってくれるわね。七の壁は大きいわよ?ついてこれるのかしら」
「精進します!!」
夕日が沈み、夜の帳が下りて来る頃。王寺さんに別れを告げ、急ぎ足で帰路に着く。すぐさま私は、父さんの部屋の扉を叩き、今日の出来事を伝えた。
「ふむ…夢の神晶か…」
「うん、夢…目標を強く願えば、それが思い通りに、現実になる力よ」
「神晶…我々が思っていた以上に厄介かつ強力かもしれんな……」
「で、でも今は順調よ!?だから私………私まだできるわ…!!」
父さんの考え込む姿に、つい焦ってしまい、声を荒げてしまう。
「……誰もお前を責めとらんよ。良き情報を入手してきてくれた。引き続き頑張ってくれ」
「…っ!!………ありがとう、父さん…明日も頑張るわ。おやすみなさい」
「…おやすみ」
父さんは私を久しぶりに褒めてくれた。そう、私が欲しかったのはこれだ。褒めてほしかったのだ。愛情が欲しかったのだ。王寺さん………とんでもない力を秘めているようだけど、まだまだ才能が開花していない。このチャンスを逃すまいと、私は新しい計画を立て始めた。
「聞いていたか。タナカ」
「はい」
「響子には悪いが………ゆっくりでいい。後は任せたぞ、他の三人にも伝えてくれ」
「…………了解です。失礼します」
「………………神高会四天王とも呼べる力、どこまで進むもんかな……」