僕はもりち
特訓を初めて二ヶ月が経とうとしていた。
今日も今日とてこの猛暑の中で特訓だ。
「うぅ〜…六月の暑さじゃない…」
「まぁ、あと一週間もすれば七月だし…。それにしても暑いね。スポーツドリンクでも飲むかい?」
「ちょーだい……暑いったらありゃしないよぉ…………………ん…………うまいッッッ!!!!」
汗だく…という程ではないが、じわじわくる暑さだ。昨日そんなに暑くなかったのにぃぃ!心の叫びは無慈悲にも、私の体温を上昇させ、より発汗させた。
「確かに今日は異常なまでに暑いですね……無理はいけません、今日の特訓はこれくらいにしましょう。時間もありますし、駅前のパフェでも奢りますよ」
「やったぁぁ〜!!」
「先生、ありがとうございます!」
「あ、教室に忘れ物したかも……先行っててください…」
「いえいえ、すぐそこで待ってますよ」
「もちろん、僕も待ってるよ!」
時刻は十七時過ぎ。校舎に生徒はいないようだ。職員室から鍵を受け取り、一年一組の教室へ向かう。桜花高校の廊下は無駄に長く、足音がよく響く。何とも言えない爽快感に身を任せ、私は突っ走った。
「………あった…」
自分のロッカーに置き忘れていった、今日の課題としてやらなければならない一冊のノートを手に取る。
「よし、鍵閉めたし………おっけー」
「………ふみは…!」
「!!」
どこからか私の名前が呼ばれた。誰もいないはずの廊下。静けさが私の身体を震わせる。夕焼けで赤く染まる廊下。ホラーかな?やめてくれ、あんまり好きじゃないだ…!
「………ふみは………ここ……ここ」
「…どこ?」
ビクビク怯える私は、声の主を探す。よく見ると窓際に小さな丸っこいのが跳ねていた。白色の三十センチぐらいのまんまるの生物。それに頭には紺色と黄色の三角帽子……?
「………………君は……君も、異世界からきたのかな?」
「…うん…そうだよ」
大きな瞳に、一頭身。それに、見た目に反して少年のような声だ。
「………ふみは………聞いて!…………あ、…あの人は信じちゃだめだよ……危険すぎるよ」
「あいつ…………?……デインズのことかな?」
「……デインズ……?あぁ、あいつか…」
「君もデインズを倒そうとしてるの?じゃあ私たちに協力してよ!仲間は多い方が私も安心できるし」
「違うよ…違うよふみは…………………デインズなんて可愛いものさ…僕が言ってるのは…」
その生物は周りを見渡すと、コソコソと私に話す。警戒するかのように声量が下がる。
「………ほらっ、あそこにいるでしょ…あの人だよあの人…」
「あの人って……………香さん????」
「そうだ、香って名前だったね。【時間の神晶】の保有者で合ってるよね」
「そうだけど………」
「香……彼女は危険人物だよ…香の力には気をつけて…そのうち周りの人間を滅ぼしかねないんだよ…」
「……………」
急な出来事に声がでない。どこか人間味のあるその声色。だれかを想うような、真剣な眼差し。この子の言うことを信用してもいいのか???
「信じられないよね、僕の話なんか…けど分かってほしい。僕はもりち、神晶の保有者だよ」
「神晶保有者!?」
「また、ふみはの前に現れるね。僕は……デインズを君たちと倒したい。利害は一致しているんだ。よく考えて行動してね…」
「あ!待って!!!」
「時間の神晶には気をつけて……時の理には…………」
もりちは忽然と姿を消した。不気味…ではなかったが、彼も神晶保有者だ。仲間になれば戦力にはなるだろう。……けど、なんで私の名前を知ってたんだ…?
それにあのデインズが可愛いもんだって………??
「すみません、お待たせしました」
「忘れ物が見つかってよかったね!」
「全然待っていませんよ、さぁ行きましょうか」
「…はい」
もりちに言われた香さんは危険…どういう意図かはまだ分からないけど、少なくともこの人は命を張って、私を助けてくれた。それは事実だ。もりちの言葉が脳裏によぎり…つい口走る。
「香さん…あの……」
「うん?なんですか?」
「………やっぱりなんでもないです…さ!行きましょ!」
気がかりだが、今はまだ言えない。もりちのことは追々話してみよう。