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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
12/21

秘密の花園

「ここが…映画…館…ッ!!!」

「ヴェンちゃん、時間的にあちらの三本なら最初から観れそうですよ」

「ホラーものと…サスペンスものと…恋愛ものか…。どれも面白そうだね、ヴェンちゃん、どうす…る…」

「ふぁぁ……………………」


王寺さんが呼びかけた、ヴェンちゃんの視線の先は…。

王子様風の女性と小柄な女性が手を取り合っているポスターの、【百合が咲いた日】というタイトルの映画だった。明らかに一つだけ、他とは違うオーラを放っていた。


「ヴェンちゃん…あれが観たいの…?」

「え、あぁ!?……………………」


赤面してコクンコクンと頷く。


「ヴェンちゃんが望むなら何でも!私、ポップコーン買ってくるね~」

「ふむ。十分後に上映時間なので、あと少しだけ待ちましょうか。では、私はチケットを買ってきます」

「あ、僕がチケット買ってきますよ」

「そうですか?まぁ私、一応教師なので。生徒にお金を使わせるわけにはいきませんので…」


そう言うと先生は、肩にかけていた小さなカバンから、財布らしきものを取り出す。


「いえいえ、お昼もご馳走になってしまったのでここは僕が払いますよ」

「ありがとうございます、そこまで言うなら、お願いしますね。またご馳走しますよ」

「いえいえ、それではレディーたちはこの辺で腰掛けて待っていてくださいね」


映画のポスターが張り出されているところに、四人ほど座れるベンチがいくつかあったので、先生とヴェンちゃんにそこで待機してもらうことにした。


「それじゃあ、ヴェンちゃん、私ともう少しここで待ってましょうか」

「わ、分かりましたわ!」

「…?どうかしましたか?」

「……その、何から何まで…ありがとうございますわ」

「ふふ、そういうのは気にしなくていいんですよ」

「で、でも…皆さん…優しすぎますわぁ」

「あれ、中川はどこに行ったんですか?」

「チケットを買いに……ほら、帰ってきましたよ」


手早くチケットを買ったのだが、僕が早足で戻ってきたよりも早く、王寺さんは既に戻ってきていた。


「お待たせしました」

「ささ、少し早いですが行きますか」


渡野先生、王寺さん、ヴェンちゃん、僕の順で中央付近の座席に座る。

王寺さんはポップコーンが進むようで、上映開始数分でポップコーンを食べ終わっていた。映画のストーリーは、学園の王子様【女子】のあずさと、内気な性格のゆずの恋愛ストーリーだった。いつも中庭のベンチで一人、昼食を済ますゆずは、いつものベンチに人がいたことから校舎裏で昼食を取ろうとする。するとそこには学園の王子様であるあずさの姿が。学園の王子様は、普段はキザに振舞っているが実は人見知りだった。あずさは、他の女子とは違って、フレンドリーに接してくるゆずに惹かれていく…というまさかの、王子様が恋する側の話だった。天然な王子様にゆずが鋭いツッコミをするギャグシーンに、雨の日の帰り道、ゆずが濡れて下着が透けてしまうなどのお色気シーン……とそれほど過激な内容ではなかった。一部を除いて。

物語は終盤、あずさの部屋にゆずが学校帰りに遊びに来ていた。


「今日は両親いないんだ〜。ゆずちゃん、そこに座っていいよ」

「ありがと…あずさの部屋綺麗だね」

「君ほどじゃないさ。それにしても今日はちょっと暑いね~、着替えるね」

「…うん」

「よっと…」


ゆずがスッと立ち上がる。

あずさが制服のブレザーをハンガーにかけ、ブラウスを脱ごうとすると、ゆずが後ろからブラウスの裾を引っ張る。


「こっちきて…」

「ん?どうした…わぁ!?」

「………………………っ!!??」


ヴェンちゃんが口元に手を添えて瞳孔を開く。

スクリーンにはゆずが、あずさを押し倒すシーンが映されていた。


「……なんて大胆…」


ヴェンちゃんがボソッと呟く。そして物語はクライマックスへ。

ゆずがあずさの制服のボタンを一つ…また一つと外していく。

そして、あずさの胸に手を当てると、あずさは淫らな声をあげた。


「ん!…ゆずちゃん…??」

「私…ずっと我慢してたのに、そんな色っぽいの見せられたら……我慢できないよ…ちゅっ」

「ん〜〜!?っ!、??」

「両親がいないって…そんなの…こういうこと、したかったからでしょ?」

「ち、ちが!」

「ふ〜ん、嘘ついちゃう悪い子には…お・し・お・き♡」

「あ…あぁ…んっ!」


キスシーンが始まり、激しく舌を絡め合うシーンに入ると、あずさの部屋に飾られていた一輪の百合の花にピントが合う。次のシーンでは夜が明けていた。その後、告白などは特になく、より一層二人の仲が深まったようで、日常シーンでエンドロールへ入った。


「うぅぅう……」

「結構大人の映画だったね…ヴェンちゃん大丈夫??」

「なかなか興味深い話でしたわ…ま、まさかあそこまで…え、えええ、え、えっちだったとは…」

「大人向けの作品でしたね。中川くんは大丈夫でしたか?」

「えぇ、恋愛ストーリーとしてはかなり面白かったですね。キスシーンだって、実はゆずの方が想いが強かったことや、攻守逆転、ゆずが責める側だったとは…」

「結構よく観てますね…」

「あはは、中川真面目だね。じゃあ最後は中川が行きたいところ行こうよ!」

「僕はいいよ、皆と一緒に過ごせただけで幸せさ」

「遠慮はいりませんよ、中川さんもぜひ」

「最後まで付き合いますわよ!!」

「そ、そこまでいうなら…」


三人の圧に押され、僕もわがままを言ってみることにした。


「…ねぇ、どこにも行かなくてほんとに良かったの?」


僕が選んだわがまま…それは、皆んなと歩いて一緒に帰ることだ。


「僕が皆を送っていく…こうすれば少しでも長く一緒にいられるだろう?」

「ふふ、中川さんはロマンチストなんですね」

「いえいえ、すみませんね、僕のわがままに付き合わせてしまって」

「小さなわがままですよ、荷物までもってもらって…ありがとうございます」


先生が小さく会釈したので、僕も会釈で返す。


「紳士たるもの、最後までしっかり務めを果たします!」

「はは、何だそれ」

「素敵な心構えだと思いますわよ、これからもよろしくお願いしますわ!」

「こちらこそ、これからもよろしくお願いします!」


王寺さん宅に到着後、ふと何か気配を感じた。


「ふみは……やっと見つけたよっ!!」


声が聞こえたような気がして、背後に目を向ける。


「中川、どうかした?」

「…ううん、大丈夫だ。じゃあまたね、今日はありがとう」

「うん。こっちそ、さんきゅっ」


王寺さんからスマイルを受け取り、帰路に着く。

友達とお出かけする。なんてないことかもしれないが、僕にとっては初めて感覚だった。

皆んなのおかげで、今日は僕の夢が叶った。四人の空間を最後まで堪能し、帰宅してからも、写真を見返しながら悦に浸った。


「ふみは…ぼくはあきらめないよ………っ!」


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