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アングレカム  作者: ボイラーじゅんいち
11/21

神のお買い物

「もうすぐ待ち合わせ時間か…」

「おーい中川ー」


駅前でたたずむ僕を呼ぶ声。

声がした方向を見ると、二人の可憐な女性の姿があった。


「すみません、時間ギリギリでしたね」


この女性は渡野わたりの先生。普段、学校では白衣を着こなしているが、今日は大人の女性…そういった表現がぴったりの服装だ。派手過ぎずおしとやかな…美しい。


「いえ、僕も今来たばかりです!それにしても、王寺さんが誘ってくれるなんて珍しいよね」

「珍しいっていうか初めて誘うけどね」

「あはは、そう言われてみれば…そうだね」


こちらの女性は王寺おうじ文葉ふみはさん。僕にとってライバルであり、友人だ。彼女もまた、落ち着いた服装で女の子の雰囲気を漂わせていた。王寺さんは美しいよりも、あいらしい、という言葉が似合うだろう。


「え、なに…?」

「ん?あぁ、いや。二人の私服姿は新鮮だなって」

「いや、テスト勉強するときに見たでしょ」

「そうなんだけどね…。女性には褒めるが吉、だろう?」

「中川さんは紳士的ですね」

「いえいえ、日本男児たるもの女性には紳士的に…それが僕のモットーです!」

「皆さんお待たせしましたわぁ~!!」

「あ、ヴェンちゃん!!」


王寺さんが一番に反応する。オーラ…存在感が溢れ出る彼女は、ヴェント・マシュリタントさん。異世界からやってきた美少女だ。品がある振る舞いや、着こなしだって完璧と言えるだろう。夕映えを彷彿ほうふつとさせる赤い髪色に、炎ごとく煌めく赤い瞳が僕の胸を打つ。


「ヴェ!?そ、そうですわね…ワタクシ、ヴェンちゃんですものね…!」

「ヴェンちゃんも忙しいところ、今日は付き合っていただいてありがとうございます。それにしても

…今日もそのドレスなのですね……」

「あら、ワタクシ、このドレスを何着か所有していますので、今日ももちろん、正装ですわぁ!さぁ、早速ショッピング致しましょ!!」


よく考えれば、この状況。とても羨ましがられるのでは?こんなに美しい女性たちとほがらかな時を過ごせるのだから。そんな幸せな時間が壊れぬよう、彼女たちを守ることが僕の務めだ…!!何を隠そう、中川直樹、人生初のお出かけのお誘い…ッ!今日は大型のショッピングモールへ行くらしい。


「わぁ、この世界のお洋服屋さんって、内装もとっても綺麗ですわね!」

「さすがヴェンちゃん、目の付け所がいいですね!」

「そ、そうかしら!?」

「さぁさぁ、まずはこのお店から入りましょうっ」


ショッピングモール内にある洋服屋に入店。

渡野先生がいつにも増してテンションが高い。

普段は白衣しか着ていない分、洋服に興味があるのだろうか。


「文葉ちゃん、こういうのはどうですか?」

「…可愛いですけど、ちょっと大胆じゃないですか??」

「そうですか…ならもうちょっと露出度を増やしますか…」

「え、なんで!???」


前から思っていたが、渡野先生と王寺さんはかなり仲が良い。生徒と教師の垣根を超えた何かがあるのだろうか。


「中川さん中川さん」


皆んなを見守る僕に、先生が、興味津々な声色で話しかけてきた。


「どうされましたか?」

「中川さんはどういうのが好みなんですか?」

「それは……」


究極の選択…ッ!先生に対して、いや!レディーに対して失礼のないように…ッ!!

僕の思考回路はこの瞬間、いつもよりも何倍と働いた。

僕はキメ顔で先生に告げる。


「……今日の…今、先生が着ているような服は好みです」

「やーん、えっちー」

「な!なぜですか!!??」

「嘘です。そうなんですね、教師として、生徒の意見を聞いておこうかと」

「じょ、冗談なんですね…」


僕の最適解を軽くからかい、先生は再び物色する。


「文葉さん、こちらのお洋服はどうかしら??」

「わ、私?」


ヴェンちゃんは、それはもう年相応のはしゃぎっぷりだった。

王寺さんはヴェンちゃんの輝く眼差しに応えるために、僕同様、必死に思考回路を巡らせているようだった。


「えーと…その服でも十分魅力的だけど、ヴェンちゃんはもう少し明るめの服のほうが魅力が引き出される…はずッッッ!!」

「そ、そうかしら。参考にしてみますわ!」


王寺さんはヴェンちゃんに熱意を伝えると、僕と視線が合った。

するとテクテクとこちらに歩いてきた。


「ねぇねぇ、中川はどういうのが好みなの?」

「僕はそうだなぁ、」


ふ、対策済みさ、と言わんばかりのキメ顔で告げた。


「王寺さんが今日着てる服みたいなのが好きかな」

「…え、なに。あんた、口説いてるの?」

「な、なんでそうなるのさ…」


僕の戦法って、女性はあまり嬉しくないのかな…。

そこからというものの、何着か試着ショーが始まった。

王寺さんは、持ち前のスラっとしたスタイル…165cmある身長を活かしたジーンズのファッションだ。


「素敵だね、何かテーマとかあるのかい?」

「最近流行ってる服」


聞かないほうが良かったかな…。服については無頓着だと前々から聞いていたが………。まぁ魅力的なのは事実だ。

続いては渡野先生。黒く艶やかな髪に色合いが似ている、暗めの肩あきのトップス、デニムのショートパンツだ。教師にあまりこういう感情を抱くのはよくないかもしれないが、色気が溢れ出ていた。透き通るほど綺麗な肌が、大胆にも肩、太ももとその姿を露わにしていた。それに…引き締まった腰とは裏腹に、出ているところは出てるというか…やめよう。


「こういうの着てみたかったんです…!」

「お似合いです。街で見かけたら二度見しちゃいますね」

「うふふ、中川さん褒め上手ですね」


続いてのモデルはヴェンちゃん。


「ど、どうかしら……?」


普段はザ・お嬢様風の赤の装飾がメインのドレスを着ているのだが、今回は…!?


「ッハ!!!???立体感ある素材が魅力のフレアスカート!さり気ない透け感が色っぽい白のトップス!!極めつけはヒール!!!とことん可愛いを詰め込んでいる!!この破壊力!!!ぐはぁ!?」


王寺さんのキャラ崩壊とも言える饒舌じょうぜつな解説が入った。


「ふ、文葉さん!か、解説はやめてくださいまし!?」

「ヴェンちゃん…ドレス以外も中々…」

「僕も良いと思いますよ。上品で素敵です」

「…文葉さんに言われた通り、明るめにしてみたのですけど…」

「ヴェンちゃん…今日も最高に可愛いよ…ッ」

「ひゃ!…ひゃい……」


王寺さんがヴェンちゃんの顎をクイッと斜めに上げると、ボソッと囁く。

そのウィスパーボイスにヴェンちゃんの顔はそれはもう…乙女の顔だった。


「お買い上げありがとうございましたー」

「中川、ほんとに何も買わなくて良かったの?」

「大丈夫だよ、それに…僕にピッタリの服なんて、そうそうないよ」

「あんた、ナルシストだよね」

「それほどでも…ッ」


次に訪れたのはフードコートだ。

どうやらここは王寺さんが来たかった場所らしい。


「お~、美味しそ~~」

「文葉ちゃん、パフェ好きなんですね」

「スイーツと女の子には目がありませんから…!」

「後者は誇らなくてもいいと思うけど…」


ま、まさか王寺さん…女の子が好きなのか??いや、それを咎めるつもりはないが。


「ぱ、ぱふぇ?こちら、華やかな食べ物ですわね」

「パフェはフランス…という国から来ており、完璧という意味のパーフェクトが名前の由来ですね。完璧なデザートというだけあって、アイスクリームやフルーツ、ケーキにゼリー、シリアルやチョコレート、はたまた生クリームまでトッピングされているのが一般的なのだとか」

「香さん、詳しいのですね。ワタクシの世界にはなかった代物ですし…なんといってもパーフェクトと呼ばれるスイーツ…いざ勝負ですわ!!!」


ヴェンちゃんは恐る恐る一口。ゆっくりと口の中でその甘さを味わっている。


「…美味しいですわ……生クリームの上品な甘さに、ビターチョコの苦み……ッ!シリアルのカリカリ触感がたまりませんわぁ~!!」

「ふふ、美味しそうに食べますね。中川さん、私たちもいただきましょうか」

「そうですね!いただきます!!」

「ふぅ…美味しかった……ふぅ~」

「え、王寺さん早くない??」


王寺さんの食べていたパフェのグラスは、カランッというスプーンの音を立てて置かれていた。


「余は満足じょい~」

「キャラがおかしいよ王寺さん…」


お昼を軽く済ませ、次の目的地へと向かう。


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