プロローグ
「お前、まさか知性があるのか…?」
そこは、大気圏より大きく離れた場所…つまり宇宙空間だ。俺はそんな人類では生存を許されない世界に足を踏み入れていた。少し不安だったが、どうやら【神の力】と呼ばれるこの神晶は宇宙空間での生存を可能にしてくれるらしい。
そんな人類では到達できない力を所持している俺の前に対峙する奴の名は…【デインズ】。
星のエネルギーを生命力へと変換し、種の存続を図っている。
彼らからすればそれが生きる術なのだろうが、その度に星一つを更地に変えられては、こちらとしても黙って見ているわけにはいかない。それに今回は俺の星、【リペル】が標的ときた。
数で言えば数百程度。デインズの侵略が始まり、俺は一人で応戦した。一体一体の生命力がかなり強く、長い時間戦闘を強いられたが、星の侵略者といえども神晶の力の前では抗えなかったようだが………そこで問題が一つ。最後の一体がなかなかに朽ち果てない。粘り、耐え、逆境に抗っている。俺の力だって無限でなく、有限だ。それは未だにこの力を使いこなせていないからなのだが……。
【………】
沈黙が余計に恐怖を倍増させる。そのデインズは他の個体と違うのは明らかだ。無駄な咆哮が無いことや、俺の攻撃に逆上しない冷静さ。何より先程から俺の首にかけたネックレスを凝視している…いや、正確にはネックレスに付いている神晶に目を光らせているのだろう。
【ち…から…】
「なに……?お前たちはコミュニケーションに言語を用いないと聞いていたが…」
口を開いたと思えば、なんと言葉を話した。それも意味のある言葉だ。
俺はデインズと視線が合い、その鋭い眼光に問いかける。
「………力が欲しい……のか?まさかお前、これを知っているのか?」
俺は首元のネックレスのチェーン部分を引っ張る。その反動で三つの結晶…もとい、神晶が宝石のように輝く。神晶は全部で十個。そのうち七つの神晶は故郷を守るために、リペルの地に置いてきたのだ。
【…ちか…ら………………ッ】
デインズは俯き、口角をゆっくり上げる。それが不気味に感じた時には遅かった。
【………よこ…せッ!!!!!】
奴が身体を震わせた刹那。姿が残像のように消え、ネックレスに手を伸ばすデインズ……俺が見た景色はここからだった。
「ッッ!!!させるかぁ!!!」
【ガァァァア!!!!】
激しく力を消耗し、神晶の力を半分も失った俺にとって、この一瞬を予測することができなかった。
「……ぁあッ!!」
金属音が鳴り響いたかと思うと、ネックレスはちぎれ、残りの神晶が外れてしまった。小さな輝きを放つ神晶は宇宙空間に散乱する。これを全部失うわけにはいかない…!!!
「うぉぉぉッ!!!」
「グルガァァァァ!!!」
散乱する神晶二つのうち、一番近かった物を左手で掴みとった。俺が掴んだのはアクアブルーの輝きを放つ、時の流れに介入できる神晶……「時間の神晶」だった。神晶を手に取るやいなや、同じ神晶を掴みに来た背後から迫るデインズに対して右手を突き出し、詠唱を開始する。
「永遠にとき……がぁ…ッ」
詠唱を言い終わる前に、視界が歪む。右手に熱い感覚。デインズは俺の腕を嚙みちぎると、更には奴の腕が俺の胸を貫いた。デインズの超スピードは予想を凌駕したものだった。このままでは……命が…時が…止まってしまう……ッッッ!!!
【…グガッ!!??】
「くっ………うぅッッ!!」
デインズはもう一つ、宇宙空間に投げ出された神晶があることを確認し、貫いた腕を引っこめると…【一つ】の輝きに向かって一直線に駆け出した。時間の神晶は手元にある……それにネックレスがはち切れた際に、散乱した神晶は二つだ。
……というのも、チェーンから外れた神晶の一つは、運よく俺の胸ポケットに落下し、ふと胸ポケットを見ると、淡い輝きを放っていた。
【ぐるぁぁぁあぁっはっはっはっはっはっ!!!!!!】
「……!?」
【………………………これが……神の力……これが頭脳か…実に気分が良い………】
生物が何百年…何千年……はたまた何億年とかけて行う進化の過程を全て無かったものとし、デインズは変貌を遂げた。それが何を意味するのか…宇宙の危機だと俺は考えた。しかし、奴は流れ込む知力、生命力に呆然としていた。残りの神晶は俺の分も含めて九つ…ッ!今しかない!心の底から…ッ!!!…と、唱えるんだ…ッ!!!!
「とッ…、永遠に時を何度でもッ!!理は変化するッッ!!!!!!」
【…何ッ!!??】
詠唱が成功し、空間に亀裂が入る。次元の壁を破ることができたようだ。
デインズは遂に、その過剰なパワーによる硬直を解き、再び俺に触れようとするが、神々しい光が俺を包み、デインズを弾き返す。そのチャンスを、俺は一瞬たりとも見逃さなかった。
星を守っていた七つの神晶を瞬時に手元に引き寄せ…胸ポケットからも神晶を取り出し、計九つの神晶を次元の壁の先…次元の空間へ真っ先に放り投げ、直後に自分の身体を侵入させる。宇宙空間に散乱する俺の血溜まりの間に、デインズの姿が再び目に映る。それは何か話しているようにも思えた。
【…………次はないぞ…フッフッフッフッ…】
次元の空間で光に包まれている際に、自分の肉体にはもう後がないと悟った。次の世代に繋げること。それだけを考え、とにかく可能性のある星へ、宇宙へ、別次元へと俺は神の力を託した。
【……アングレカム…】
ありとあらゆる次元、空間、理を超越することに力を使い、神晶の輝きは激減…。それぞれ主人に手放された神晶は、どこへ向かったのか、何を望むのか……それは誰にも理解はできない。
ことの発端である【時間の神晶】のその後を追ってみよう……物語はいつもここから始まるのだ。
……どうやら地球と呼ばれる小さな星の、一人の女性が時間の神晶を手にしたらしい。その女性は研究員という職業柄、調べるのが得意らしく…神晶の力に触れ、ひとまずは力を扱うことに成功した…ようだな、よし。
しかし、今回の【アングレカム】に選ばれた人間は、戦う術を持たない種族らしい。そうなると神晶の力を使いこなすには時間がかかる。焦ることはない…と、言いたいところだが今回は、デインズという生命体が我々の予想を遥かに上回った変化を遂げた。
…頼みの綱は、【時間の神晶】の保有者と…確か………。
「ねー、私のパンツ知らないー?」
「………………」
「ちょっとー!!!無視しないでよーー!!」
「…………………」
「ねぇっ!!!モラド!!!あんたに言ってるんだけど!!!!!聞いてる!!??」
「……今、神晶の行方を観ているんだ…ちょっと黙っててくれないか…」
「あ、そうっ…じゃあメベルに聞い〜ちゃお!!」
………………なるほど、過去へ行くのか。……白衣に身に纏った研究員…渡野香は神晶を使って時間を巻き戻し、過去へ姿を消した。それが何を成すのか…我々にもまだ。
「ねぇ〜、メベルがモラドに聞けってさぁ〜!!」
「…………メベルのを借りたらどうだい…?女の子同士だろう?」
「あ!そうしよ!モラドちゃんさんきゅ〜」
「………………」
…………邪魔しないでくれ…。
…我々はただの傍観者ではない。神晶の行方を追い、その時がくれば手助けをするのが役目だ。
アングレカム……それは神の力、神の意志を託された代表…いわば戦士…。
今回で十代目。気づけば二桁に到達してしまった…。
継承される力がいつ途切れるか分からない…そんな不安を抱えながら、継承が成功したこの日を我々は………。
「モラドぉ〜〜〜!!!今日の夕飯は〜〜〜〜????」
「あぁもう!ちょっと黙っててくれよ!!!!!」
とにかく!!神晶保有者はデインズから宇宙の危機を救うんだ!!!頼んだぞ!!!!!!!
「………?…あれ、今神晶から声が……?」
時間の神晶が他の神晶を呼び寄せたことによって、運良く地球には三つの神晶が辿り着いた。
しかし…まさか神晶が辿り着いた先が時代そのものが違うとは……。
私、渡野香が向かうのは過去…!時間の神晶が正しければ、十一年前のこの時間に彼女………神晶保有者がいるはず…ッ。
時の流れに介入して五分ほど…白い光が私の顔を照らす。
そして…。
「ここが………」
なんてない道路…普遍的な住宅街…。腕時計を確認!
秒針がカタカタと動く様を見守り、運命の時が刻一刻と近づく。
彼女が通る十秒前……。
「…………うーん、教科書が重い…リュック買おっかな……」
来た。
ピンクブラウンの髪を、ヘアゴム一つで束ねたポニーテール。
桜花高校の制服。
極めつけはあのだるそうな表情…!
間違いない…彼女だ。
「……あの、すみません」
「どうしましたか…?」
「あなた…王寺文葉さんですよね?」
「そうですけど…」
私が来た十一年前の世界…四月二十四日…この日は、文葉が神晶を拾った日のはず。
長々と私が研究してきた、神晶のことを語っても理解してもらえないだろう。
なるべく端的に…分かりやすく…。
「私は渡野香と言います。研究員として働いていました。…こうして、あなたと話すのは久し……初めてですね……本題に入りましょう。私達と一緒に世界を救ってください!大袈裟ではなく、この世界が危険なんです!」
「嫌です」
「………え」
世界…いや宇宙の危機を救うために選ばれた私たち。
力の扱い方、仲間集めなど考えていた私の計画は早速破綻しかけた。
更新し続けます。