8話
周りの椅子や机が倒れていく。さっき、彼らが直したあの光景はもうここにはない。それが申し訳なくて、そしてこれ以上迷惑をかけたくなくて、私はまた逃げた。逃げても何も変わらないことなんて分かっているし、我ながら逃げすぎだとは思っている。でも、今はここから逃げ出したかった。
ここまで来てみてと思う。実は私の居場所なんてどこにもなくて、今まで一緒にいた友達なんかも私のことを嫌っていたんじゃないかって。自分が悪いと分かっているのに、やっぱり心の裏側でそんなことないと思いたい自分がいるのだ。実は私のせいではなく、クラスメイトのせいではないかと思っても、クジラの装飾品を持っているクラスメイトなんて私の周辺にはいないし、生憎彼女と深いかかわりがあったのかもしれないと取れる人物はこの学校にはいない。だからこそすべて自分のせいだと実感させられて、私は現実逃避をしたくなる。彼女の呪いはきっと私への罰なのだ。今まで彼女を大切にしてこなかった私への。
そう思いながら走って、走って、気が付けば昔よく彼女と話したあの橋にたどり着いた。彼女の持病が落ち着いて一緒に中学校に通っていた頃、放課後によく一緒に行った橋に。これもまた彼女からのメッセージなのだろうか。と思って、橋の手すりの上に立つ。この橋は人通りも少なく、ここから飛び降りたとして誰にも気づかれない。そう思っているのに、あと一歩を踏み出すのは難しかった。
「ごめん。ごめんね…紫苑」
そう呟く癖に、今ここで死ぬ勇気が私には無かった。死んだら両親が悲しむんだろうな。紫苑にも怒られちゃうかも。なんて思っていたら、いきなり後ろから引っ張られて、気が付けば道路の上に尻もちをついていた。誰かに見られたという焦りで、今すぐにその場から逃げようとするも、立ち上がった瞬間に手首を掴まれる。振り向くとそこにはスーツを着た男性がいた。今はまだ十時頃だ。そんな時間帯にここを歩いているということは、彼は就活中なのだろうか。それにしては老けて見えるな。と考えていると、彼は口を開いた。
「何やってるの君!危ないでしょう!落ちたらどうするんだ!」
「……?」
「……?じゃないから!身投げなんかしたら親御さんが悲しむよ!気をつけなさい!」
「…!ごめんなさい…」
これ以上長引くのも嫌で、とりあえず謝る。これできっと満足して、分かったのなら良いとでも言って帰ってくれると思ったのに、彼はそうでは無かった。
「てか君、学生さんじゃないの?こんな時間帯にこんなところ歩いてていいの?学校は?」
男性はいきなり、私を質問詰めにしてきた。一歩後ろに引くが、先程から腕を掴まれているため、その場から走り去ることも出来ない。叫ぼうにも、今叫んだところで意味が無い気がして、叫べない。冷や汗が流れてくる。体が固まって、どうしたらいいのかすら分からなかった。




