4話
やっと彼女が死んだことを忘れられそうだった頃。彼女の学校の生徒が私の家を訪ねてきた。複数人いるであろう女子の声が聞こえてくる。
「ねぇ、こいつマジで出てこなくない?」
「それなー?こんな暑い中、外に放置とかひどいんですけどー!」
「それなー!ギャハハハ!」
なんて下品な声で笑いながら、さも当然のようにドアガチャをしてくるギャル達。
当然、私は彼女らに住所を教えた覚えも無ければ、彼女との面識もない。それなのに、なぜ家を探し当てられているのだろうか。軽く言うのなら個人情報保護ができていない。私の個人情報はどこから漏れたんだなんてことを思いながら彼女らが去って行くのを待つ。めんどくさいのとつるむのは嫌だし、今日は母親も家にいて扉をあけられてしまっては困るため、出来るならさっさと帰ってほしかった。
そんなことを思って三分ほど待つと彼女らは帰っていった。そんなに長い時間も待てないとは、ずいぶんせっかちなんだなと思いながら、また作業を再開した。まあ、こんな真夏の中、外にずっといたらきっと夏バテで倒れてしまうだろう。帰るのが賢明な判断である。
そんな最中にいきなり、外から焦げたような匂いがしてくる。様子が気になり外を見ると自分の家の庭が燃えていた…なんてことはなく、次いでキッチンから母親の「あっ、魚が焦げた!」という声が聞こえてきた。なんと紛らわしいなんて思いながら母のもとへ向かうと、真っ黒焦げの魚を箸で持つ母が居た。とは言いつつももう炭になっているためボロボロと崩れてしまっている。
そんな矢先に、うちの中で地響きが起きた。ガスなどは幸い先程のうちに止めていたようで使っていなかったため、幸運にも火事が起きることはなかった。また、あの事件の時と同じだろうか。だがしかし、この前の事件の時とは打って変わって、クジラの声は聞こえなかった。もしかして、本当に地震なのかもしれないと思い始めた。というかそう願いたかった。そうで無いと、周りで起きた事象の理由が私のせいになってしまう。何故だかわからないがそんな気がした。
「最近こういうの多いわねえ…。」
「そ、そうかなぁ」
「ええ、最近よく何もないのに家の中のものが震え始めたり落ちたりするのよ…。なんでかしら…」
そう言って、首をかしげる母に私は「全てもしかしたら自分のせいなのかもしれない」なんていう事実を伝えることはさすがにできなかった。クジラの声なんて聞こえなかったというのが賢明な判断だ。だから、私は何も言わない。きっとそれが正解だから。なんて思っていたら、母は先程の訪問者について言及をしてきた。
「そういえばさっきの子たちは誰だったのかしら、流里はあんな子たちとお友達なわけ無いと思ったから開けなかったけど、大丈夫よね?」
「うん…!大丈夫だよ!」
こういう時の母親の勘の鋭さには助けられる。私と彼女らの間には何の関係もない。だから、言っていることも間違っていない。
「というか…さっきのクジラの声は何だったのかしら。普段は聞こえないのに変ねぇ…」
「えっ、お母さん聞こえたの?」
「え?ええ、聞こえたけど。」
いきなりのことに、頭の中が混乱し始める。何故母に聞こえるのだろうか。母と彼女の間に何か接点はあっただろうか。と、頭の中で疑問が浮かび続ける。なぜ彼女の家族には聞こえないのに最も疎遠だったであろう母に聞こえるのだろうか。それ以前に、さっき私の耳には届かなかったクジラの声が、母の耳には聞こえていたのはなぜなのだろうか。頭の中は疑問にあふれていた。ただ、私の理解力が無いせいなのかもしれないが、私はこの現状をしっかりとは理解できていなかった。
「どうしたの流里。顔色悪いけど大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
「そう?それならいいけど。まぁ疲れてるならちゃんと休みなさいよ」
「うん、ありがとう」
そう言って、母にも休めと言われたので今日は一足先に休むことにした。最近しっかり休んでいたはずなのに、ベッドに寝転がった瞬間に眠気に襲われる。眠気に従うように目をつむってから記憶はない。




