3話
そんな事件から数か月が経ち、私自身もその事件を忘れようと思ってた時、私の元にまた一通の手紙が来た。送り主は意外にも彼女の母からだった。今更何の用かと思い、封筒を開いてみると中から紙が出てきた。あの人の意図なんか掴めなかったが、捨てるのも何か違う気がして、とりあえず一度読んでみることにした。
『拝啓 彼方流里様
お元気にされていますでしょうか?
もうそろそろ娘が死んでから数か月が経ち、
心も安定してまいりましたので部屋を掃除していたところ、
とあるものが見つかりましたので、
お送りいたします。
良ければお受け取りください。
敬具
花韮結城』
何かなんて入っていたかなと、見てみると彼女が書いたであろう文字が刻まれた小さなカードと共に何かが入っていて、少し傾けてみるとサラッという音とともにとシロナガスクジラのチャームが付いたペンダントが出てきた。そのカードには、『このクジラがあなたに幸運をもたらしますように。』と書かれていた。どこまでも彼女の優しさが見える文章だった。あの両親から生まれた子がここまで優しく育った理由がわからない。それくらい彼女はどこまでも優しくて素敵な人間だった。
よく見ると、そのクジラは彼女の手作りのようで少し歪な形をしていた。
これはいったい何で作ったのだろうか。レジンにしては出来すぎている気もするし、金属は彼女には扱いきれないだろう。そう思うと何で作られているのか疑問であった。調べてみたところ、プラスチック粘土で作られた物のようだった。だとしたら、彼女に作れても何もおかしくない。だが、そうだったとして、美術成績が2の彼女にここまでいいものを作れるだろうか。クジラは形の形成が難しい上に、作れたとして、それがシロナガスクジラだと判断させられるようにするのはまた至難の業である。そんな中で、ここまできれいな形を形成できているというのはとても異様なことだった。
これは、彼女の手製ではないんじゃないだろうか、そもそも私が勝手に勘違いしただけで誰も彼女が作ったとは言っていない。それかもしかしたら彼女がわざわざ美術の成績を下げるために不器用なふりをしていたのかもしれない。審議は誰にもわからないだろう。死人に口なしとは、まさにこのことである。彼女への疑問に答えられる人はもうこの世にはいない。その事実を突きつけられるたびに、私は彼女のことを思い出していた。
そんなことを思いながら彼女の書いた紙をよく見てみると、下のほうに小さな文字で『これは、私が作ったやつだよ。美術の成績低かったからこんなの作れるわけないってバカにしてるでしょ。実は私美術めちゃくちゃ得意なんだから!これは、頑張って作ったんだから大事にしてよね!』と、私の疑問を解決するような回答が書かれていた。
もしや、彼女は私が疑問に思うことが分かっていたのだろうか。彼女の思考はつくづく読めない。だが彼女のことだからきっと、私への優しさだろう。どこまでも優しい彼女のことだから、きっとそうだ。どれだけ人を憎んでいたとしても、きっと彼女はその人の幸せを願ってしまうのではないかと思わざるをえなかった。
彼女の優しさもここまで来ると少し異常に感じる。でも、それを彼女に言ったところで何も変わらないだろう。だって、あれはもう彼女の癖だから。私の干渉でどうにかなるものではない。それに彼女はもう既に雲の上に居るのだ、私にはどうにもできない。彼女が自分で変わろうと思わない限りは、どうにもならない。そう思う他なかった。
そう思っている間に脳内にあの葬式の時の光景が頭の中によみがえる。そして、彼女の学校生活はどのようなものだったのかと思う。彼女とは学校が離れていたので、彼女の周りがどうなっていたのかなんてわからないが、あの葬式の様子から見ていじめられていたのかもしれない。もしも彼女が私に相談しようとしていたら、私のせいで彼女が落ちてしまっていたのではないかと思い始めていた。そう思い始めた時から、頭の中で永遠にこのような考えが繰り返されていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。永遠にあなたを閉じ込めてごめんなさい。」
そう思い始めてから、彼女への謝罪が収まらなかった。それからある程度落ち着いてきた頃、彼女のくれたあのネックレスは色が変わっていて、先ほどまではどこか光っているような色だったのが、少し薄暗い色に濁っていた。




