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白流す鯨  作者: 菜奈
18/19

18話

 ここはどこだろうか、だなんて考えてみる。私が通っていた場所とは違って、私も通いたかった校舎。私は紫苑と同じ高校を目指していた。幼少期から、私と紫苑は幼馴染で高校も同じ場所に行きたかった。その学校の偏差値は高く、紫苑は合格レベルだったが、私は最後まで挑戦レベルのままだった。

『なぁ紫苑。ちょっと課題見せてくれよ。てか、代わりにやってくれよ』

『えっ、うん…!いいよ…!』

『え!じゃあ、私もー!』

『え、あ、うん…!了解』

 そう言って五、六人から課題を押し付けられている紫苑の姿がそこにある。


いきなり、視界が暗転して見覚えのある部屋が見える。彼女は涙を流しながら押し付けられた課題に取り組んでいた、彼女の時計の時間を確認すると既に4時を回っていた。耳を澄ましてみると咳も聞こえてきていた。

『ケホッ…あ、あと…木岡君の分だけ…早く…終わらせないと…』

 そう言いながら頑張って作業している彼女がスマホを操作して電話をかける。だが、相手は忙しかったようでほんの1分ほどで切れてしまった。

「電話の相手は誰だったんだろう」

 そのつぶやきは聞こえてないようだが、彼女はすぐに答えを言った。

『鯨子ちゃん…今日も忙しそうだったな。最近会えてないし…。ってあれ、なんか目の前が眩んで…』

 ドサッという音とともに彼女は椅子から落ちる。そういえばこの時、私は学校の疲れで忙しいと切ったなと思い返す。こうしてみると、申し訳なさが勝っていた。


 また視界が暗転して、次に見えたのは病院のベッドの上だった。彼女のもとにお見舞いに来る彼女の家族と、私。彼女の家族はすぐに帰っていったのに、なぜか私は面会終了時刻のギリギリまでいた。そんなに義理堅いわけではないが、気が付くとこの時間になっていたんだと思う。

 そして、そんな私が帰った後、彼女はおもむろに便箋を取り出して、何かを書き始めた。覗かずとも雰囲気で分かった。きっと私に送られてきたあの手紙だ。そこへいきなりクジラが現れる。彼女は鯨に優しさを含んだ瞳を向けて、優しい笑顔で会話をしていた。いや、会話をしているように見えただけだったのかもしれないがこの際、真偽などどうでもよかった。

『ねぇ、クジラさん。あなたは呪いだ言うのは分かっているけどね?一つだけお願いを聞いてほしいの。鯨子を守ってあげてほしいの』

 クジラが不思議そうな顔をした。まるで、なぜかと聞くかのように。

『私にはどうにもできないから。でもあなたは暴走しちゃうよね。だから、彼女に何かお守りというか、制御できるものを送るから、その子のことは最後まで守ってあげてね』

 そう言って優しく微笑む彼女にクジラは微笑み返した。

 その後、彼女は便箋を封筒に入れベッドから降りる。この時間はもう消灯時刻を過ぎていたようで変に見回りをする看護師も今は居ない。彼女はその状態で空へと登っていく。

『あーあ…まだ…死にたくなかったなぁ…どうせ…もう今後生きていける保証も無いけど…』

 自嘲気味に笑う彼女の目からは彼女の気持ちが涙となって流れる。その流れはとても儚かった。

『もう…耐えきれないな…ごめん…鯨子…』

 病院の屋上なら気づいた人が迎えに来ても良かったものを、彼女を迎えに行く者はいなかった。彼女の希望のままに全てのことが運んでいる。誰か止めるものが現れてくれたら、現実も変わっていただろうに。その予想ができなかったのは彼らの管理不足であったと思う。と、病院のせいにしてみたって現実が変わる訳では無い。事実、私がそこに出てくるなんてことは残念ながら起きなかった。


 そうして私はまた現実に戻ってくる過去に彼女に起こったことの要因。そして彼女の願いを聞いて私の心はひどく傷んだ。結局はすべて私のせいだったのだ。そう思いながら彼女のくれたクジラを身に着ける。きっと意味なんてないのは分かって居るし、意味があったとして私には理解できない。ならば、もうすべてそのままでいいのだ。両親が消えても、奏斗や優妃、紫苑に会えなくても。それは自分への報いで彼女からの思いやりだ、きっと。これ以上私は望んではいけない、そう言われている気がした。どれだけ優しい彼女でも私やクラスメイトに対しての恨みは強かったのだろう。だって、私は彼女はが頼ってくれていたのすらも気づかず無視していたのだから、ある意味因果応報なのかもしれない。もしもそうならば、私としても受け入れざるを得なかった。鯨から好かれていない理由は未だにつかめないでいるが大方私が鯨子という名前を認めてないから気に入られずにいるのだろう。

「ごめんなさいお母さん、紫苑。私しっかり鯨子って生きていくね」

 そう呟くとやっとクジラの濁りが消えた。なにかが変わったわけではないが、私の心の黒も流れていった気がした。今までずっと一緒に居て私のことを支えてくれていた紫苑に感謝をする。

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