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白流す鯨  作者: 菜奈
16/19

16話

それだけで彼女が紫苑であると信じるのは流石に申し訳ないが、あの手紙はきっと彼女と私との間でのみ共有された手紙であろうから、ここは信じることにした。

「どう?信じてくれた?」

「うん、とりあえずは信じるよ…」

「だよね!信じずにはいられないもんね!」

 食い気味に言われて、彼女はこんな性格だったかなと少し考えてみる。まあきっと、私に見せていなかっただけで彼女は本来、学校ではこんな性格だったのだろう、ともう居ない彼女のことを考えてみる。いや、正しくは今ここに居るから居ないとは言えないのだが。

「久しぶり紫苑」

「うん。久しぶり流里…いや、正しくは鯨子だったかな」

「よく覚えてたね」

 私の本来の名前は牧田鯨子。色々あって、現在は両親と友達から流里と呼んでもらっている。理由は鯨子という名前が嫌いだったからというだけだ。鯨という言葉には合わないとても貧弱そうな見た目をいじられてきたのもあったりするが、これは私が自分に対して納得させるための言い訳でしかないだろう。

 そんな中で私のことを一貫して私を鯨子と呼ぶのは今目の前で「当たり前じゃん」と無邪気に笑っている紫苑と昔一緒に居た母親だけだった。

「ねぇ、なんでずっと白を流し続けてるの?」

「…白?」

 彼女の言った『白』の意味がつかめない。地震のことを言っているのだとしたら何かが違う気がするし、だからと言って呪いだとかほかの最近周辺で起きた出来事を当てはめてみてもすっと落ちてくるものは見つからなかった。

「そう、白だよ」

「白って何…?」

「知らなかったの?あなたがいつも流してくれてるじゃない。地震を起こして、クラスメイトを消して。今まであなたと世界を苦しめていった人たちは消えて、あなたは幸せじゃない?私がその呪いと一緒にいたときはそんなことはできなかったから、心から尊敬するよ。やっぱり、名前に鯨って入ってたのが理由かな?」

 そう言って、彼女は微笑む。その笑顔に不思議な気持ち悪さを覚えながらも私にはどうすることもできなかった、

「そう、だったんだ…」

「何、不服…?鯨子からしたら幸せだったんじゃないの?だって、あなたにとって不都合な者たちは全部消えていったんだから……ね?」

きっと死んだ後の彼女は私がどんな目にあって、私の心にどれだけの黒を流されたかは知らないのだろう。

「そんなことなかったよ。本当に不安になった。私が弱いだけかもだけど……私に呪いをうつしたって言ってたけど…ほんと?」

「…ごめんね、鯨子」

 少しの沈黙の後、彼女から謝罪を告げられる。信じたくはなかったがこうして現実味の増していくこの感覚が、仕方がないとはいえども、私を絶望させる。

「なんで、私に…?」

「ほら、私学校に友達いなかったからさ!おのずと鯨子しかうつせる人がいなかったんだ。申し訳なかったと思ってる。ごめんね」

「そっか」

「もしかしたら、今の私も鯨子からしたら邪魔なのかな?」

「…っそんな訳!」

 そうは言えどもやっぱりどこか思ってしまっている自分が居て、否定しきることはできなかった。

「ねぇ、鯨子。私ね、鯨子の事すごい好きだったんだ。親なんて全然見舞いに来ない上に私の治療費すらも変なものに使ったくらいに見捨てられてたのに、そんな中で暇じゃないはずなのに月に二、三回も来てくれてた鯨子が好きだったよ。例え鯨子に嫌われてたとしても…ね」

 そう言う彼女は先ほどの〝小森茉弥〟の姿ではなく、しっかりと〝花韮紫苑〟の姿をしていた。

「ねぇ、なんで私あんなペンダントを作ったと思う?」

「なんでだろう…予想もつかないや」

 首をかしげ、半笑いでそう言った私に彼女は呆れ気味に少し溜めて告げた。

「それはね、あの呪いの制御のためだよ…」

「制御…?」

 頭の中が混乱している、呪いの制御とはいったい何の話なのか私には皆目見当もつかなかった。そんなことは気にせず彼女は解説し始める。

「そう、制御。鯨子にうつしてしまった呪いはしっかり制御しないと、こんな感じで鯨子が嫌だと思ってしまったものが勝手に消えてしまうんだよね。だから…あのペンダントを送ったんだけど…残念ながら付けてはくれないんだね。残念…というか本当にやばいかも…」

「ごめん…」

「とりあえずお願いだから、明日以降あのペンダントをしっかり付けて。そうじゃないと、もう危ない。今ならまだ戻れるから。」

「うん。分かった。でも、あれ少し濁っちゃったんだけど…大丈夫かな…」

 そう告げた瞬間に彼女の顔色が変わる。鬼の形相で彼女は私に聞いてきた。

「えっ、濁ったって何色に黒?それとも別の色?」

「え、えっと、灰色っぽいけど…」

「…ならいいや…」

 安堵した表情で少しずつ薄れていく彼女の姿。それに驚きながら、彼女の手をつかもうとするもその手は空を切る。

「ちょっと待ってよ、紫苑!」

「ごめん…話すの忘れてたね。私もう死んでるじゃん?だからさ、時間に限りがあって…もうそろそろ帰らなきゃなんだ…。でも、久しぶりに話せてよかったよ。ありがとう。お願いだから…ペンダントだけはつけてね。きっと今ならまだ大丈夫なはずだから。」

「…っありがとう。うん…分かった…!」

 その声を聞いて微笑んだのを最後に彼女の姿は見えなくなった。そこでやっと我に返って、教室に戻り時計を見上げる。時計は既に午後の15時を回っていた。私はどれだけあの場で話していたのだろうか。教室を出る前の時刻なんか覚えてるわけもなく。ただ私は荷物をまとめて、帰路についた。どうせ、私以外そこ居ないのだからさぼってしまえばいいと自分でも思う。それでも、私の体は毎日登下校を繰り返していた。

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