10話
そう言って、ファミレスの扉を開ける。その先の光景は言葉では言い表せない程ひどいものだった。
「……なにこれ……」
そうつぶやいた瞬間に後ろから目をふさがれる。それでも立ち込めてくる鉄の匂いに私は嫌でも現実を理解させられた。
「鼻を塞いじゃったら息できないから……ごめん…」
「…………だい…じょぶ……」
申し訳なさそうな声に私は曖昧な返ししかできなかった。何も見たくなくて目をつむる。それなのに目を塞がれる前の光景が瞼の裏に一つ一つ鮮明に浮かんできた。そのうち体の震えが収まらなくなり吐き気もしてきた。
「大丈夫…大丈夫だからね…」
そう言っている彼がなんでここまで冷静なのかも気になってきて、私にはそれすらも気持ちが悪くて、何もかもが戻ってきそうな感覚に耐えながら、私はそこに立ち尽くすしかできなかった。
「なんで…そんなに…冷静なの…?」
そう聞こうにも、聞いてしまったらすべてが壊れてしまう気がして、聞くこともできなかった。変に察しが良いとここから消えてしまう気がする。なんて考えていると、いきなり鉄の匂いが消えた。これで大丈夫という声が聞こえて目の前から手が消える。そこを見ると、先ほどまであったあの光景はどこかへ消えていて、そこには本来はこの状態だったのだろうというような光景が広がっていた。
「ごめんね…。変なもの見せちゃったね…」
「……あれ…何だったの…?」
「うーん…残念ながら説明はできないかな…」
「な…んで…」
どこまでも秘密の多い彼に違和感を覚える。そういえば昔からこうだった。何かあっても気が付けばなかったことになっていて、それに慣れていた昔の私はなんと環境適応能力が高かったのだろうかと心から疑問に思う。でも今は何もかもが違和感でどうしたらいいのかすらも分からなかった。
「ほら、気にしなくていいからおいで?」
「……ごめん…今日はもう帰るね…!」
「そっか、残念。まぁ、気をつけて帰りなよ?」
そう言う彼の瞳は先ほどとは違って見えた。何故なのかは分からないが、大方先ほどのあの事件のせいだろう。私もまたねと言って振り向く。その瞬間目の前が暗転した。
「早く目覚めてね。クジラさん…♪」




