第33話 最愛の人なき式
30話から先は、話のキーになってくる話がどんどん出てきます。
この話もそうです。
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オレはどこにいるんだ……? 思い出せるのは、そこからだ。
5歳で死んだ「あん時」からヒロシは暗闇の中にいた。しばらくふわふわとさまよった。と、何かにぶつかった。
窓だーー。
眼下に映る景色の中で、皆、ヒロシを囲んで泣いていた。しかし、その泣いている人の中に、あの人の姿はなかった。
やっぱり、オレが死んでも来なかったな……。やっぱりオレのことなんかどうでもよかったんだな……。
悲しみとも虚しさとも言えない感情がこみあげてきて、でも、小児がんという病に蝕まれた心はもう乾ききっていて、涙すら出てこない。
と、一際大きい声が聞こえた。
「うわあああああん、ヒロシ―ぃ――!!」
「馬鹿野郎、倫太郎、お前、男じゃろ!? 泣くんじゃねえ! たかが弟が死んだくらいで!!」
そう言いながら、祖父、畑中 茂も「ずびーっ」と鼻をすする音を立てている。
「じっちゃんだって泣いてんじゃん!? うわあああ」
尚も、泣きながら5つ年上の兄、倫太郎が言った。
「馬鹿野郎、俺はちいとじゃ、ちぃと!!」
また「ずびーっ」と鼻をすする音。
「それより、夢ちゃんはどうしたのかしら、まだかしら……。もうすぐ出棺の時刻だというのに……」
オロオロと、叔母、神田聖子が言う。
「あいつはな、あの薄情者の娘じゃ!! 来ないに決まっとろう!!」
「その言い方はないわ、お父さん。いくら姉さんの子だからって。夢ちゃんはヒロシちゃんのために修行に入ったのよ!? お父さん、お父さんが反対しても、私は夢ちゃんに電報したの。だから来るって、信じてるわ」
聖子がまくしたてるように言うと、茂はそっぽを向いた。
「ああそうか、なら、好きにせい!!」
その時だった。「スパァ―――――ン!!」とふすまの開く音が盛大にした。だれかがヅカヅカと入ってくる。ヒロシからは後ろ姿しか見えない。しかしその姿にはっとする。
……あれは。あの姿は……。
……母ちゃん!?
遠い昔に見た母の後ろ姿とそっくりだった。
「姉さん!?」
聖子の声に、突っ伏して泣いていた倫太郎が顔を上げた。
「お母ちゃん!?」
皆驚いて、涙が引っ込んでしまったようだ。
「違うわ、皆。あたし、夢よ…。ああ、何てこと。何てことをするの神様は……。あたし、やっと3年間の修行をして、免許皆伝になって、あなたを治してあげられると思ったのに……。あなたの為に、霊感術師になったのに……っ。どうしてあなたが死んでしまうのよ……」
そう言って、後ろ姿が母にそっくりだが、声が少し違う姉、畑中 夢はヒロシの棺桶の前で泣き崩れた。
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