第19話 その名は
お上、今度は小さくなる。しかしその結果は……?
次回、とうとう20話です。まだ20話。まだまだ続きます。
いつもありがとうございます。
よろしくお願いいたします。
「そんな、小さなこと?」
ジャック・リーはダニエルに向き直りながら、問うた。
「下界を夜闇ではなく、光で満たすのが俺ら天界人の仕事だ。それをあろうことかダニエル、お前は……!!」
エレミーが、いまにもダニエルに掴みかかりそうなジャックを、左手で制した。
「ジャック、そこまでよ」
「何でだよ!? こいつは何も知らずにのうのうと人間を……。 おまけに、青葉ちゃんまで殺しかけたんだぞ!!」
「輪廻転生の法則を忘れたの? 魂は別の個体を持つたびに、一度前の個体の記憶――前世の記憶ともいうわね――をリセットされるのよ。ダニエルさんだって……」
ダニエルは黙って、夫婦のケンカを見ていた。ダニエルに先ほどまであった怒りのような感情は、既にどこかへ行ってしまっている。
「おい、ダニエル、何か言うことはないのか!? お前、当事者だろ!?」
いきなり、ジャックがダニエルに水を向けた。
「私は……私は死神です」
「だから『生かし神』だって言ってるだろ!? いい加減覚えてくれ!」
ジャックは吐き捨てるように言った。
「まあまあ」
ここでお上が口を出した。
「生かし神が自分のことを『死神』だと思うのも無理なかろう? 今まで死神じゃったんじゃから。よし、わしが生かし神の頭の中に入って、脳の意識を書き換えちゃる。ちょっと待っとれよ」
お上はそう言うと、見るのが困難なほど小さな光になった。よく見るとその小さな光は、ダニエルの鼻の穴から吸い込まれていった。
3人とも、お上がダニエルの脳をいじっている間は何も言わなかった。
「これ、とこれかな? おーい、脳のシナプスを繋ぎ終わったぞ。生かし神、口を開けてくれい!」
ダニエルはお上に言われたとおりに口を開けた。しゅるーんと滑るようにお上が口から出てきて、たちまち大きくなった。
「どっこらしょ」
掛け声をかけながらお上がゆっくりと立つ。
「さて、訊くがの、生かし神、そなたは何じゃ?」
「私、私は……。 ハタナカ……ヒロシ……?」
自分で言っておいて、誰のことを言っているのか、ダニエルにはさっぱりわからない。
「おっと、その名前はじゃの……。 繋ぎ間違えたか?」
何故かお上が慌てたように言った。
「もういい!」
ジャックがいきなり叫んだ。
「青葉ちゃんが心配だ!! 青葉ちゃんの所に行ってくらあ!」
ジャックはいらいらしながら、手元の端末のウィンドウをドアのように大きくすると、その中に飛び込んだ。と思ったら、「バリバリバリ!」と音がしてジャックが吹っ飛んでひっくり返った。
「痛え……」
禿げ頭を本当に痛そうにさすりながら、ジャックが呻いた。
ダニエルも針を針山に戻し、自分の端末で同じようにした。しかし、ウィンドウに青葉の姿がないどころか、ウィンドウ自体が真っ黒だった。試しに、他の場所に合わせてみる。しかし他の場所は大丈夫なようだ。
「困りましたね……」
ダニエルは頭を抱えて呟いた。
「どうしたんじゃ?」
お上が訊いた。
「青葉のところに行けないようです。扉が、閉ざされてしまっている……」
最後までお読みくださいましてありがとうございました!!




