第18話 針の問題
霊体が治ると人間も治っていく。これは真実だそうです。
何でも、見えない世界から発生して、
それが3次元に出てくるみたいです。
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よろしくお願いいたします。
「話が、違うんじゃないですか?」
端末のウィンドウから顔を上げたダニエルが、震える声で言った。
「ほうじゃな。ちょっと想定外じゃったの」
お上も、困ったような顔をした。
青葉は、松葉杖の男を近づけまいとして、左手を突き出した。結果、男に憑いていた死神は消えた。しかしそれが、男の命の灯まで消してしまった。
「おっかしいなあ。俺がやった時には、そうはならんけどなあ?」
ジャック・リーが横で首を傾げた。
「『やった』というのは何を?」
ダニエルは訊いた。
「ほうじゃ。何じゃ?」
お上も乗っかった。
ジャックは作務衣のたもとからメスを取り出した。それが、青白い炎に包まれていく。
「俺が、死神に取り憑かれた人間相手に、術を使った時は、人間はちゃんと生きてたんすけど」
「本当じゃな?」
お上は訝しげに、少し暗く大きくなって、ジャックを見下ろした。ジャックは慌てたように言った。
「本当、本当ですって!」
エレミーも、うんうんと首を縦に振っている。
「あれですよ。死神に取り憑かれた、生きている人間相手に、このメスを刺しても、これは人間本体ではなく、霊体を治療するものなので、直接は人間の体に傷がついたりしないことは、お上もご存じでしょう?」
エレミーが説明した。
「ほうじゃな。霊体も治ると人間本体も治っていくからの。霊体を治すのが霊医の仕事じゃからの」
「そういうものなんですか。知りませんでした」
ダニエルは、そう言った後、「うーん」と唸った。
「考えられることとしては」
エレミーがふと右手を挙げた。
「何じゃの、エレミーよ?」
「坂巻青葉に刺した注射器の針です。あれが原因かも」
「何故ですか?」
「あの針はもともと、我々が回収した、死神の武器だったからです。我々には、人間の体に直接働きかける道具というものは、それまで存在しなかったのです。熟考の末、元死神の持っていた鎌を加工したものを、注射器の針に採用しました。それが、いけなかったのかもしれません」
そこまで聞くと、お上は「ふう」と息を漏らした。
「つまり、わしらはわしらで、人間の体に直接作用するものを作り出さねばならないと……。ほういうことじゃな?」
「そういうことですわ」
ダニエルは鞄から針山を取り出し、その針を一本抜いて、皆に見せた。
「これも人間を殺すための武器です。この針が使われているから、青葉は、死神に取り憑かれた人間を殺す能力を持ってしまった、ということですか?」
「ほうじゃな」
お上が頷いた。
「そんな、小さなことで、あんな小さな子に、取り返しのつかないことを、させたのですか?」
ダニエルの声は次第に怒りを帯びていった。
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