紅茶
また別の日の堕落部。
「天倉さんは紅茶いかがですか?」
竜ヶ岬 梓にこう言われると悪い気がしてならない。
なんせ、家がいいところのお嬢様なのだから。
「いや僕、そんなに喉乾いてないので」
「でしたら、クッキーも一緒にいかがですか?」
「──そしたら、貰おうかな」
竜ヶ岬の純粋な笑顔に僕は押し負けた。
「霞ヶ原先輩も紅茶とクッキーいかがですか?」
「有難くいただこうかな」
こう、誰にも臆せず堂々としてるのは霞ヶ原先輩らしい。
「鶴見さんも──」
「アタシも貰うわ!」
紅茶の”こ”が聞こえるかどうかのタイミングで食い気味に返事をするのは鶴見らしい。
もはや、堂々としているとかの範疇から外れている。
そうこうしているうちに、紅茶とクッキーが僕らの手元に届く。
「ありがとう。いただきます」
僕は自分で違いの分かる男だと思っていたが、自販機に売ってる紅茶との違いすら分からない。
そりゃあ、テレビの芸能人も間違えるわけだ。
「ダージリン、しかもファーストフラッシュだろう。やはり美味しい紅茶は違うな」
霞ヶ原先輩は何でこんなことも分かるのだろうか。
これまでに人生を何周しているのか知りたいものである。
「そうね! 美味しいブランドの紅茶は違うわね」
鶴見は絶対に分かっていないだろう。
コンビニアイス、しかも高いやつを賭けてもいい。
「鶴見も紅茶詳しいのか。今度鶴見も紅茶淹れてくれよ」
これは致命傷になりうる攻撃だと僕は確信した。
コンビニプリン、しかも高いやつを賭けてもいい。
「いいわよ。竜ヶ岬さんにはいつもお世話になってるし、たまにはアタシがふるまうわ!」
「最近ロイヤルミルクティー淹れるのにハマってたからちょうどいいしね」
僕は賭けに負けてしまった。
「鶴見さんに紅茶を淹れて貰えるなんてワタクシ嬉しいです! 今度一緒にお料理もしましょう!」
竜ヶ岬さんはあんなに純粋な気持ちで喜んでいる。
なのに僕といったら心の中で賭けなんてして、しかも惨敗である。
クッキーの甘さが僕を余計に惨めな思いにさせる。
「あの、すいません、霞ヶ原先輩。言い忘れていたのですが、それはセカンドフラッシュです。ワタクシもファーストフラッシュの方が好きなのですけど」
この日、僕は家に帰る前にコンビニに寄った。