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底辺女の走馬灯  作者: 人生から降りるボタン
20/50

20)父との思い出

私は、父の存在を忘れたわけではなかった。


たった一度だけお見舞いに行ったっきり、どうしているのか何の情報も得られなかった。


母には聞けなかった。まともに会話が出来ない人だった。訳の分からない事で怒る人だった。例えば、友達なんて作るな、と言ってキレる人だった。





街中で、無意識に父を探していた。


電車の中で父に似た人を見かけた時、目で追ってしまった。別人だと分かると、がっかりして、少しだけ泣いた。父が恋しかった。私は父の事が大好きだった。


父はとにかく優しい人だった。ハイパー甘党で、夜遅く帰ってくる父の事を待って、いつもコンビニで買ってくるスイーツを分けて貰って、食べてから寝た。父はよく”まるごとバナナ”を買っていた。私はどちらかというとまるごとイチゴの方が好きだった。まるごとバナナを半分こにして、父の膝の上に乗って一緒に食べた。


父は太りにくい体質だったのか、いつも痩せ細っていた。私も太った事が無いので、私は父の遺伝を受け継いだのだろう。母と兄は逆に太りやすい体質だった。





寿司屋の板前だっただけあって、父の手はいつも魚臭かった。


私は父の手の匂いをわざと嗅いで、「くせぇ~!!」と言ってケラケラ笑うのを何度も何度も繰り返しやっていた。


一度だけ、定休日に父が働く寿司屋に兄と一緒に連れて行ってもらった事がある。


カウンター席に座らされた。私はお寿司が食べられるのかと思ってウキウキしていた。


父がおもむろに冷蔵庫から取り出したのは、一切れのパンだった。


これでも食べて、と渡された。食べた。美味しかったけど、幼いながらも非常に複雑な心境だった。





父の趣味は、絵を描くこと、ギターを弾くこと、多分ボーリング(いくつもトロフィーがあったから)、テニスだった。絵を描いている所を見た事は無かったが、母がそう言っていた。





母は夜寝ている時、たまにシクシク泣いている事があった。酔っていたのかどうか、理由は分からない。


煩くて目が覚めると、父と兄がいない事に気付いた。


隣の部屋に行くと、二人が避難して寝ていた。私も一緒に寝る事にした。


真夏のエアコンはタイマーをセットして寝ていたのだが、タイマーが切れると、同様に暑くて目が覚めた。私は学んで、隣の部屋に避難して冷たくて気持ちいいソファーで寝た。


そうすると、毎回父がお姫様抱っこをして私を寝室まで戻してくれていた。ゆらゆらと抱っこされるのが嬉しくて、私はいつも寝ているふりをしていた。


早朝起きて夜遅く帰宅して、しょっちゅうこんなことをやらされている父は、一体いつ寝ているのか謎だった。


そしてこんな面倒くさい母と何故結婚したのかも本当に謎だった。もっと良い人がいただろうと本気で思う。

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