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56裏2/広場での戦い

全編セリス視点です。

「キャハハッ! コイツ、結構やるわよ妹!」

「そうね、お姉様! とっても楽しいわ!!」


 ああ、もう! おれは戦いは得意じゃないって言うのに!

 内心で文句を言いながら、おれは適当に邸から拝借して来た剣で応戦する。

 目の前の、真っ白い髪に真っ赤な目を持つ、何となくメアさんにカラーリングの似た双子らしき女たちに襲われてから、数分くらいが経って居る。

 シャーナと出会ってから何度も思ったことだけど、今日が人生最悪の日かもしれない。思わず眉をしかめる。


「ねぇねぇ、あなたお名前は?」

「わたしたちはね、Δ(デルタ)って言うのよ!」

「双子だからね。おんなじ名前なのよ!」

「アンタたちの事情なんて……っ、興味ないよ!!」


 ――ガチィンッ!!


 片方の、サイドテールにしている方の女の、半分になったハサミっぽい武器を剣で弾き返しながら、その陰から飛び掛かって来たツインテールの女の突きを避けつつ胴体に蹴りを入れる。

 相手が女だとか、そんなのはどうでも良い。とにかく今は、自分たちの身を守る必要がある。面倒くさいし、そもそも近接タイプじゃないんだけどね、おれ。

 ハッ、と笑うと自嘲的に聞こえて嫌気がさす。


「あらあら。レディーにはね、優しくしなきゃダメなのよ?」

「まぁまぁ。そんなことも知らないの? キャハハッ」

「煩いな。何処に淑女が居るって言うんだよ」


 吐き捨てるように馬鹿にしてやるも、双子は頭に響く高い声で笑う。

 おれが腹辺りを蹴りつけてやった方も、衝撃を逃がすように後ろに跳んでたから、多分大したダメージは負っていないんだろう。

 楽しそうにしているのを見て舌打ちした。


「っつーか、インディゴ! アンタ、何してんの? アンタも近接戦闘タイプじゃないのは知ってるけど、相手2人もいるんだよ! おれみたいな細身の美少年1人に戦わせて、恥ずかしいとか思わない訳?」

「俺は……俺は……番号じゃ……人形じゃないんだ……やめてくれ……もう、嫌だ……たすけて……」

「役立たず!!」


 相手が2人もいて、しかもどっちもスピードタイプっていうか、動きが素早いせいで魔法の準備にまったく入れない。正直おれは魔法を使った遠距離戦闘タイプだから、一応ローウェンに剣技は習ってたから対応はギリで出来てるとは言っても、近接戦闘は相当きつい。もし、魔法を使おうとすれば、使えなくもないだろうけど、使った直後にお陀仏だろう。


 双子は、的確におれのことを攻めて来ている。おれの後ろで、呆然と座り込んでいる良い年こいた大人が参加してくれれば、もう少しマシになるだろうけど、今のところ復活の兆しはない。

 なんかトラウマを抱えてんのは見れば分かるけど、良い加減にして欲しい。TPOさえ弁えてくれれば、後はどれだけ落ち込んでくれても構わないのに。


「っていうか、おれなんかに構ってないで、さっさとそこの役立たず連れてけば? 何でおれに構うの?」

「えー?」


 つい、恨みがましくそんなことを言ってしまった。

 別にインディゴが連れて行かれるのを黙って見守ろうって思う程、おれは薄情じゃないけど、こんな風にいつまでも落ち込んでられると見捨てたくもなる。

 実際、おれは今でもいっぱいいっぱいだから、双子は割といつでもインディゴを引きずっていけると思う。片方だけで来られても、おれじゃあ対応しきれないから。なのに、双子はそれをしようとしない。馬鹿にしているんだろうか。


「だってだって、面白いじゃない」

「はぁ?」

「あなたは面白くない? わたしたちはねぇ、とっても楽しい!」

「そうよねそうよね。こんなに面白い遊び、他にないわよね」

「遊び……」


 おれとこうして命のやり取りをしているのは、奴らにとっては遊びらしい。良い迷惑だ。遊びだと言ってる割りに、かなり本気でおれのこと殺そうとしてるっぽいけど。今も、ちょっとでも気を抜けば、即座に首を刈り取られそうだ。

 ゲンナリとして溜息をつくと、攻撃の合間に、双子は顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。その動きだけ見れば、年相応の女の子って感じなんだけど、実際は悪魔か死神だもんな。嫌になる。


「どうして面白くなさそうなのかしらね、お姉様?」

「分からないわ。妹には分からないの?」

「お姉様に分からないのなら、わたしには分からないわ」

「妹に分からないのなら、わたしにも分からないわ」


 内緒話をするように、ヒソヒソと互いの耳元に話しかけているが、声が大きいから普通に聞こえている。指摘されたいのかもしれないが無視だ。

 おれは、この微妙な時間でザッと周辺を確認する。


 ここに来てから、まだそこまで時間は経っていないと思うが、それでも人々が起きだす時間帯になったはずだ。元から人通りの多いところではないとは言っても、少しくらい朝の散歩に出歩く人が通りかかっても良いのに、人っ子一人いない。遠くからこの騒ぎを見つけて、避けて通っているという訳でもなさそうだ。

 クソッ。誰か、城の兵士か騎士にでも通報してくれれば良いのに。おれ一人だったら、全力で逃走しているところだが、おれの後ろで蹲っている役立たずを置いて行く訳にもいかない。

 ……せめて、戦わないなら戦わないで、少しでも調査を進めてもらいたいんだけど。ジロリと睨みつけても、震え続けるだけだ。いっそ、蹴ったら良いのか。


「因みに、コイツとアンタらどんな関係?」


 答えるとも思えなかったが、圧倒的に情報が足りない。

 シャーナを誘拐したって連中の一派なのかすら、現状じゃ分からない。

 少しでも何か分かれば良いと思ってかけた言葉だったが、予想外にも双子はペラペラと答えた。


「そこの藍色はねー、昔クレプスクロ教団に居たのよ」

「そうそう。わたしたちとは直接は関係ないけどね。α(アルファ)が面倒みてたのよ」

「……何だって?」


 双子が身にまとっている、身体をすっぽりと覆うような薄紅色のマントを見て、おれは前におれを襲った集団……確か、犯罪集団クリムゾンとか言ったっけ? その連中の一員なんだと思っていた。だから、仮に何か正体について話したとしても、そういう方向性だと思い込んでいた。


 クレプスクロ教団って言えば、悪の女神を崇めてる風変わりな集団だ。悪と断じる世界を正さなければならないとかって言って、過激なことをしたりして弾圧を受けて一気に縮小して今に至る感じの。

 ソレと、犯罪者集団に裏で関わりがあったってことか? いや、これだけじゃ分からないか。おれは短く溜息をつく。明確に分かるのは、ここで震えてるのが、昔クレプスクロ教団に居たってことくらいだ。


「それで、何で連れてこうとしてるの? この通り、結構役に立たないんだけど」


 これは流石に答えないだろうと思った。

 だが、この双子はあらゆる意味で規格外だった。


「神様を捕まえられそうだから、そこの藍色に入れるんだって!」

「新たな器にしたら、神様の力をわたしたちの好きに出来るんだって!」


「――は?」


 満面の笑みで即答したのも予想外だが、それ以上に言っている内容が予想外だった。流石に、おれの思考が一瞬止まった。短い言葉で、それだけじゃ理解出来ないようなものだった。ただ、極度の緊張状態にあるせいか、おれの頭は静かに双子の言った言葉を理解した。


「それはつまり……インディゴの身体を、神の宿る器にしようってことか……?」


 愕然として呟いた言葉に、無邪気な返事があった。


「そうだよ。元々その計画だったんだけどー、えっと、何だっけ?」

「そうそう、昔教会が一斉に検挙されちゃって、器候補が全員連れて行かれちゃったから、ダメになったんだったよね」

「それと、その時はまだ神様の場所が分からなかったんだっけ?」

「ううん。分かってたけど、連れて来れなかったんだよ、確か」


 それ、どういうこと……? おれの頬を冷や汗が伝った。流石に、想定していた内容を軽く飛び越えている。

 大体、神って何の話だよって言いたくなるけど、忘れちゃいけない。おれも、確か神に選ばれた特別な力があるとか言われていた。それについては、未だに半信半疑だけど……神について考えると、胸の奥が熱くなる。


「神様を捕まえるって……誰のこと?」

「王子様!」

「第二王子様の中にね、夜の神様が居るんだってさ!」

「スゴイよねぇ!」

「ねー!」


 第二王子と言えば、ミリアムたちが謁見したいって言ってた相手の一人だったはず。おれの頭の中を、ここ最近の記憶が駆け巡る。

 どうして、申請は通っているはずなのに、なかなか謁見がかなわなかったのか。もしかすると、既にコイツらの一派に捕まってしまっているからじゃないのか。それは、突拍子もない考えだと思うけど、すんなりと納得出来てしまった。


 そして、その話を信じるのなら、一つの可能性が浮かび上がる。

 つまり……おれも、神の力を与えられているんじゃなくて、おれの中に神が居るんじゃないかって。


「まさか……うっ!!」


 ――ガキィンッ!!


「ねーねー、よそ見は嫌よ?」

「そうだよぉ。遊びましょう!!」


 一瞬、呆然としかけたことで、反応が遅れた。

 スレスレで受け止めることが出来たが、腕が斬られてしまった。

 深手は負ってないけど、意外と血が出ている。


「いったぁー……。考え事ぐらいさせてくれる?」

「えー? お話しながらで良いでしょう?」

「えー? 殺し合いながらで良いでしょう?」

「……物騒な女どもだな……」


 こうして思考を巡らせている間にも、斬り合いは続いている。

 多分、双子はこうして遊ぶのが楽しくて、手加減しているんだ。そうじゃなければ、おれは今頃細切れになっている。これを幸いと捉えれば良いのか、悪夢のようなカウントダウンだと思えば良いのか。


「――で、シャーナを連れてったのも、アンタら?」

「知らない」

「知らないよ。誰、それ?」


 本当に分からないというような顔をしている。

 ただ、名前を知らないだけかもしれないと思って、聞き方を変える。


「暁の女神だよ」


 こう聞いたのは、邸に飛んで来た手紙の内容から推察してのことだった。

 神話くらい、おれも知ってるし、暁の乙女とかって表現するとして、神を宿す器が居るというのを信じるのなら、シャーナがそうってことになるだろう?

 暁の女神アウローラの伝承は、あまりにも有名だし、割と普通の発想だ。とは言え、外れている可能性もあったけど、予想通りと言えば良いのか、話は通じた。


「あー、あの子! 最近は追っかけてないよねぇ妹?」

「うんうん。あの子との追いかけっこ、楽しかったのにねぇお姉様?」


 ……通じたのは良いが、知らないらしい。

 どうも、機密情報のようなものもペラペラ話してくれているようだから、嘘はないだろう。なら、シャーナが居なくなったのは別の勢力の……?


「それよりもそれよりも、もっと遊びましょう!」

「そうよ。おしゃべりばっかりじゃつまらないわ」

「十分相手してるでしょ!!」


 少しでも思考に耽ろうとすると、攻撃が激化するのはやめて欲しい。

 おれは苦悶の表情を浮かべながら、何とか猛追を受け止める。

 おれは、ただでさえ力がないんだから、相手が女とは言っても2人相手の全力投球は避けたいところだ。


 でも、別の勢力っていうよりも、コイツら馬鹿っぽいし、単純に情報共有が為されてないだけって気もするなぁ。

 その場合、これ以上のおしゃべりは、単純におれの体力を奪うだけってことになる。どうせ、これ以上話を引き延ばしたところで、どんどんおれが不利になってくだけだろうし、潮時か。


「インディゴは役に立たないし、仕方ない。奥の手使うか」

「奥の手? 奥の手!」

「スゴイスゴイ! 必殺技? 見せて見せてー!」


 魔窟の挑戦してる時にしか使っちゃダメって言われてたとっておきだ。

 神に選ばれたおれたちだけに使える魔法みたいなものだって言われてたけど、今思えば普通に神の力なのかもしれない。コイツらの話を信じるのなら。

 まぁ、これで助かるのならどっちでも良いけど。


 おれは、普段は思い切り溜めを作って魔法の力を増す用に使っている技を、ミリアムが使う感じに変更する。コイツら相手に、魔法は効率が悪いのは、どっちにしろ変わらないから。

 きっちりと集中して、内なる力を引き出そうとする。いつも通りのことだ。

 そのはずだが、今日は、何かが違った。


(? 何だか、いつもより熱い……?)


 いつも、力を引き出す時には、胸の奥が熱くなる。

 何かがそこに居るような感覚がする。

 ただ、今日はそれが特に強いような感じがした。

 体が焼け切れてしまいそうな熱に、思わずふらつく。

 その直後、何かが爆発するような勢いで、地面が輝いて一気に光の柱が上った。


「キャー! なになに!?」

「怖いわ怖いわ! お姉様!」


 最初に言っていた魔法陣に沿うようにして、光があふれだしている。

 タイミングから言って、おれがキッカケなんだろうけど、本当にそうなのか信じられずに目を瞬く。そんなおれに、誰かが優しく声をかけた。


 ――……大丈夫だよ、セリス。俺が一緒だから。


 知らない男の声だ。何となく懐かしく感じた時、おれの使っていた剣に光が満ちた。


 ――さぁ、そのまま振り下ろして。


 その言葉に、何の疑問も抱かないまま、おれは剣を振り下ろした。すると、一気に光の衝撃波が発生して、凄まじい勢いで双子に襲い掛かっていった。

 途中にある地面も全部めくり上げながら突き進むそれは、広い壁のようで、いかに素早い彼らでも避けられないだろうと思った。


「キャァアアア!!!」

「いやあああ!!!」


 悲鳴も、ドドド、という音に飲み込まれてすぐに聞こえなくなる。

 ……もしかして、殺した?

 イヤな汗が流れるのを感じた時に、手にしていた剣がボロリと崩れるのを感じた。今のエネルギーに耐えられなかったのかもしれない。


『……彼らなら平気だよ。普通の人間じゃないから』

「――は?」


 先ほどよりも、ハッキリとした声がそう断言した。訳が分からない。

 おれは、呆然と衝撃波が消えて、荒れ果てた広場を見つめる。

 衝撃波が通った跡に、双子が倒れているのが見えた。

 遠目で分かりづらいが、血は出ていないし、呼吸はしているようだ。


「……とりあえず、今の内に捕まえておこう」


 おれは、未だ恐慌状態にあるインディゴのカバンを勝手に漁ってロープを探し出すと、気絶している様子の双子を縛り上げた。

 武器は遠くに投げ捨てる。危ないから、後で回収は忘れないようにしなければ。

 一息つくと、おれはジロリと空中に浮かぶ、半透明の不思議な雰囲気の男を睨み上げた。


「……で、アンタ誰?」


 おれの質問に、男は眠たげな笑顔で答えた。


『俺はアタルデセル。夕の神とも呼ばれてるね。……よろしくー』


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