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51/広場通い

 王都に到着してから2日が経った。王城からの知らせはまだ無いので、王都生活3日目の今日もまたひとまず待機となる。


 因みに、初日は言わずもがなとして、昨日も私はかぜたちと遊んだ。

 特に約束もしていなかったし、また広場に居るかどうか分からなかったけど、覗いてみたら前日と同じように遊んでいたので混ざることにしたのだ。

 やるべきことは、今のところ待機することだし、あまり遠くに行くのも考えものだから、遊ぶくらいしかすることがなかったとも言えるけど。


 私以外のメンバーはと言えば。お父様は3日連続で何処ぞへと外出。セリスは初日と2日目は家で読書。インディゴさんは持ち込んでいた資料で研究。シャーナちゃんは初日は商業地区の方へ散策、2日目は私が遊びに行くことを聞きつけて一緒に広場へ行った感じだった。ローウェンとメアは、私にベッタリだった。何でだろうね。


 王城から連絡が来ない限り、急いでやるべきことも見当たらない以上、今日もまた遊ぶしかないだろうか。

 勿論、かぜたちと遊ぶのは、年齢の近い子と遊ぶことの少なかった私にとって貴重な機会でとても楽しいから、大歓迎なんだけど、どうにもやきもきしてしまう。

 なんて思いつつも、割と前向きに今日は手土産にお菓子でも持って行こうかしら、なんて考えてキッチンへ向かうと、その途中で何やら言い争う声が聞こえて足を止めた。


「どうして? セリスも行きましょうよ。暇なんでしょう?」

「暇じゃないし。余計なお世話だよ」

「セリスの予定はサイファさんたちに会いに行くことだけじゃない。お城から呼び出しがかかるまで、学園には行けないって言われていたもの。暇のはずよね」

「はぁ? 何で君にそんなこと言われなくちゃいけないのさ」


 ……言い争いというか、なんというか。

 私は壁の陰に身を隠しながら、はてさてどうしたものかとたたらを踏む。

 シャーナちゃんは、悪気なんてないんだろう。グイグイとセリスの手を引っ張っている。誘われているセリスは、ひどく迷惑そうに眉をひそめていて、可愛らしい顔立ちが残念な感じになっている。


 何となく珍しい光景のような気がしてしまうのは、どうしてもゲームの印象が強いからだろう。

 ゲームでのセリスは、猫をかぶっていることの方が多かったから、どうしてもあんな風に露骨に嫌がる様子を見ると珍しく感じてしまうのだ。特に、女の子相手には余裕のある好青年、という態度を崩すことはなかったからな。

 勿論、個別ルートに入って以降は、結構口が悪くなる訳だけど、その頃にはシャーナちゃんの態度の方がもっと軟化している。他の人たちと比べれば、一番喧嘩ップルな感じだとは言っても、そこまで厳しい感じじゃないからね。


『ふむ。あの2人、かように仲が悪かったかのぅ?』


 姿を隠す必要もないのに、私と一緒になって壁に身を潜めつつパトラが呟く。


「そんなに小声で喋らなくても、パトラの声は私にしか聞こえてないよ」

『知っておる。風情というものじゃ』


 どの辺が風情なのか。若干呆れながら、私はすぐに視線を2人に戻す。

 パトラは不満そうにしながらも、会話を続けた。


『そもそも、セリスの方が人付き合いを嫌っておるようじゃし、特に相手がシャーナであることは関係ないかの』

「うーん、どうだろう? 私も、あんまりセリスとは喋れてないからなぁ」


 セリスは、話しかければ答えてはくれる。でも、どうにも刺々しいというか、皮肉を混ぜなければ気が済まないというかな感じで返って来る。

 流石に世話になっている自覚があるからか、私のお父様に対しては丁寧に接しているけど、それ以外の人には大体そんな感じだ。……ああ、お兄さんのサイファと、お母さんのレフィナさんに関しては別だけどね。


「相性は悪くないと思うんだけど」


 割と本心の言葉を呟くと、パトラも頷いてくれる。

 悪いことを嫌う真っ直ぐで正義感に溢れたシャーナちゃんと、一見捻くれているようだけど実際には努力家で真面目なセリス。ゲームで見ていても、こうして現実として接していても、相性が悪いようには思えない。


「慌てなくても、サイファさんたちとはすぐに会えるわ。だから、ね。行きましょうよ。楽しいわよ?」

「煩いな。自分の予定くらい、自分で決める。放っておいてよ」

「あっ、セリス……」


 シャーナちゃんの腕を振りほどくと、迷惑そうに一瞥してからセリスはさっさと何処かへ行ってしまった。方向からして、自室だろう。

 その背中を、半ば呆然と見送るシャーナちゃん。非常に声がかけ辛い。


(もしかして、シャーナちゃんからのセリスへの好感度が高すぎるのかな?)


 不意に浮かんだ考えが、何となく正しいように思える。

 ゲームでのシャーナちゃんは、猫をかぶったセリスに対して、やや冷たい態度を取る。余裕がないというのもあるし、胡散臭いと感じていることも大きい。

 でも、だからこそセリスが興味を持つキッカケになる訳だ。


 けれど、実際にはシャーナちゃんは襲われている時に巻き込む形でセリスに出会っている。

 そして、当のセリスはそれをまったく気にしていない様子。シャーナちゃんが素直に親しみを持つのは寧ろ自然の摂理だ。

 だけど、それはセリスからすれば、あんまり面白いことじゃないのかもしれない。なにぶん、捻くれてるから。


『面倒くさいおのこじゃの』

「……そう言ってあげないで。そこが可愛いんだから」

『そなたも良く分からんところがあるものよな』


 呆れたような視線を頂戴してしまったけれど、すまし顔でかわしておく。


「シャーナちゃん、そんなところでどうしたの?」

「あ……ミリアム」


 パトラに、これ以上何かを言われたら、それなりに精神的ダメージを受けるような気がして、私は誤魔化すようにシャーナちゃんに声をかけた。勿論、さっきの会話には気付かなかった振りだ。

 その方が、スムーズかなと思ってのことで、別にどう応対したら良いか分からなかったからじゃない、と誰にか分からない言い訳を考えていた私は、私の方を振り向いたシャーナちゃんが、途方に暮れたような顔をしているのに気付いて、思わずギョッと息をのんだ。


「ど、どうしたの、シャーナちゃん? 何かあった?」

「ううん、何でもないの。ただ……あの広場に、セリスも誘ったけど断られちゃって」


 残念、と呟いて舌を出すシャーナちゃんはとても可愛いけれど、今は可愛さの方は問題じゃない。

 どうして困ったような顔をしているのだろう。私は慌てて尋ねる。


「セリスに、何か意地悪でも言われた?」

「え? ううん。どうして?」

「シャーナちゃん、何だか困ってるような顔してるから」


 そう尋ねると、シャーナちゃんは腑に落ちたように頷いて、小さく息をついた。

 まさか、こんなところに邪神の影が、なんて必要以上に身構えた私に、シャーナちゃんはポツリと呟くように答える。


「ただ何となくね。今日、セリスも一緒に行った方が良いような気がしたから。それで、断られて残念だなって。それだけよ」


 ……それだけ。


 いや、ヒロインの勘が、「それだけ」で済むはずがない。

 私はゴクリと唾を飲み込んで、静かに問いかけた。


「シャーナちゃんは、今日、セリスも一緒に広場に行った方が良い気がするんだね?」

「え? ええ。でも、何となくよ。ただの勘だから、そんなに気にしないで」


 気にしないでいられるだろうか。

 脳裏に過ぎるのは、シャーナちゃんが似たようなことを呟いて、でも一緒に居られなかった人が命を落としていくシーン。

 ……警戒するのに、し過ぎるということはないはずだ。

 私はすぐに決めると、メアの姿を探し始めた。


「メア! メア、居るー?」


 セリスは、出会いの一件の影響か、メアに弱い。

 説得するなら、私よりもメアが行った方が良いだろう。


「ミリアム、そこまでしなくても……」


 私が、メアにセリスの説得を頼むとすぐに分かったのだろうシャーナちゃんは、渋い顔をしていたけど、ここは引けない。

 ヒロイン様の勘を蔑ろにして、良いことが起こるとは思えないのだ。


「ううん。私、シャーナちゃんの勘、結構信じてるから。それに、私もセリスと遊びたいし」

「ミリアム……」


 シャーナちゃんは、しばらく考え込むように俯いていたけれど、やがて顔を上げて微笑んだ。


「……ありがとう」


 どうしてお礼を言われるのかは良く分からないけれど、私はとりあえず笑顔で受け取っておいた。

 もらえるものは、もらう卑しい主義の持ち主なのだ。


「どういたしまして!」


□□□


「……おれさ、本当にやることあったんだけど」

「まぁまぁ、そう言わないで」


 午後。思った以上にチョロい感じでメアに説得されたセリスを引き連れて、私たちは広場にやって来ていた。

 セリスは腕を組みつつの仏頂面で文句を言うけど、メアの無言の一睨みで黙った。本当にチョロいな。


「言っとくけど、メアさん使えばいつでもおれを呼べるとか考えないでよね」

「うんうん。分かってる分かってる。来てくれてありがとう、セリス」

「……まったく」


 笑顔でお礼を言うと、毒気を抜かれたように溜息をついた。

 これ以上文句を言う気はなくなったみたいで、腕組みも解かれている。

 良かった良かったと胸を撫で下ろしていると、かぜから声がかかった。


「あっ、あかつきさん! 今日も来てくれたんですね?」

「うん。連日ごめんね。迷惑じゃない?」

「いいえ、来てくれて嬉しいです」


 ニコニコと、言葉通り本当に嬉しそうに頬を緩めるかぜに、こっちも嬉しくなる。

 同じような笑みを返してから、私は彼に尋ねる。


「今日は、太陽たいようは来てる?」

「ああ、居ますよ」


 リーダーのように見えた太陽たいようだけど、彼はこの集まりの中では新規なんだそうだ。家も相当厳しいみたいで、遊びに参加するのも、殆ど稀とのことだった。

 コードネームみたいなあだ名を付けられるのは、集まっているメンバーの中では太陽たいようだけだったらしくて、昨日参加してくれたシャーナちゃんには、まだあだ名がなかった。折角仲間に入れてもらったのだから、出来れば同じようにしたいと思っていたから、今日は居てくれるのなら良かった。


 私は広場内を見回して、太陽たいようの姿を探す。彼は黒目黒髪という珍しい外見をしているから、見つけやすい。実際、すぐに見つかったので、私はそのまま手招く。


太陽たいようー!」

「あれ、あかつき? 今日も来てくれたんですか」


 嬉しそうに顔を綻ばせて駆け寄って来た太陽たいようは、それから見慣れないからか、シャーナちゃんとセリスを見て固まった。しばらく目を瞬いてから、ハッと我に返ったように私を見る。


「もしかして、あかつきの友だちですか?」

「うん。こっちの女の子の方は、昨日も混ぜてもらったんだけど、男の子の方は初めて。2人とも友だちなの」

「そうだったんですね」


 太陽たいようからは、多少キツく言われるかもしれないと身構えていたんだけど、予想外に笑顔で受け入れてくれた。ニッコリと穏やかな笑みを浮かべながら、太陽たいようは2人に手を差し出す。


「俺は太陽たいようと呼ばれています。よろしく」

「よろしくね。えーっと、名前は名乗ったらいけないんだったわよね?」

「そうしてもらった方が、気兼ねなく仲良く出来ますから」


 シャーナちゃんと太陽たいようとの会話を聞いただけで、他に説明を聞いて居なかったセリスは、納得したように頷いて居た。

 流石に理解の早いことだ。まぁ、複雑な理念のある団体という訳でもないし、セリスならこれだけ聞けば十分に分かるか。


「ということは、2人にはまだ名前が付いていないんですね?」

「ああ。太陽たいようにお願いしたくて、俺からは何もしていないよ」


 かぜが期待するように太陽たいようを見つめる。

 太陽たいようは軽く頷くと、改めてジッとシャーナちゃんとセリスを見つめる。

 それから、少しも間を置かずに太陽たいようは2人に名前を付けた。


「それでは、ひめゆうでどうでしょう?」

「えっ、私がひめ? あ、あんまり似合わないんじゃないかしら……」

「おれは何でも良いよ」


 太陽たいようの提案に、シャーナちゃんは顔を赤くさせて照れる。

 セリスは、言葉通りどうでも良さそうに頷いて居る。

 私は、その名付けに少しだけ運命じみたものを感じた。


(ヒロインにひめ、夕の守護者にゆうなんて、なかなか運命っぽいな)


 これで、私に黄昏たそがれだったら、ドンピシャだった。あと、メアがひる以外だったら。

 ついでに、今度はテオにも会わせてみたいな、なんてのんびり思っていると、メアの硬い表情が視界に入った。

 ローウェンも気になったみたいで、怪訝そうに顔色を覗き込んで鬱陶しがられている。


「おい、メア坊。どうかしたか? 顔色悪いぞ」

「いえ、何でもないので近付かないでください。迷惑です」

「硬いこと言うなよ。同僚だろ?」

「いえ、他人です」

「ええ!?」


 ……元気そう、ではあるかな。一昨日も様子が少しおかしかった気がしたのは、気のせいじゃなかったのかな。

 心配に思って声をかけようとすると、先んじて断られた。


「……ご主人様。そのような顔をなさらないでください。全部ローウェンさんの勘違いですから」

「そぉかぁ? まぁ、お前がそう言うんならそれで良いけど」

「本当に大丈夫なの、メア?」

「まったく問題ございませんよ」


 メアはいつもの無表情だ。ウソをつくような子でもないし、きっと、大丈夫なんだろう。

 私は、あとでゆっくり出来るように労ってあげないとと内心で決めると、今のところは引くことにした。


「そうだ。あかつき、それに皆も。今日何をして遊ぶか決まっていないのなら、よると遊んでもらえませんか?」

よる?」


 ふと、太陽たいようが噴水のところに腰かけてジッとしている少年を指して言った。

 少年は、太陽たいようと同じような黒髪をしている。

 思わず太陽たいようを見ると、太陽たいようは少し複雑そうな顔で笑っていた。


「はい。俺の弟なんですけど……実は、あまり友だちが居なくて。ここに集まっている皆ともあまり上手く馴染めないから、偶に連れて来てもああして1人ぼっちなんです。もしかしたら、あかつきたちの中で、仲良くなれる人が居るかもしれないじゃないですか。だから、出来れば遊んでもらいたくて」


 確かに、彼の周りには子どもが1人も居ない。

 遠目に見ても、何となく周囲を拒絶しているような雰囲気が感じられる。

 あれでは、なかなか子どもたちは近寄りがたいことだろう。何だかちょっと、出会った頃のテオを思い起こさせる。


「私は勿論良いよ」


 私が頷いたのに続いて、皆も良いよと了承してくれた。

 仮に私が駄目でも、天下のヒロインシャーナちゃんが居れば、きっと仲良くなれるよね。

 そんな風に楽観視してたけど、思いのほかその男の子、よるは鉄壁のディフェンスを誇っていた。


「一緒に遊ばない?」

「…………」

よるって言うんだって? 格好良い名前だね!」

「…………」

「珍しい髪色だね」

「…………」

「何見てるの?」

「…………」


 ……結局、今日の午後は必死でよるに語り掛け続けるだけで終了した。

 因みに、私以外の皆も、大体同じような戦果に終わっていた。いや、セリスはやる気なかったけど。

 微動だにすらしないって、どういうことなんだろう。

 一抹の不安を感じさせるような、メアのものとは異なる無表情、魂が抜けたような顔が、どうにも頭に引っかかる。


「それじゃあ、今日はこれで。役に立てなくてごめんね」

「良いんだ。よるはちょっと……変わってるから」


 苦笑気味の太陽たいようも、もしかしたら諦めているのかもしれないと思った。

 だからこそ私は、可能な限りこの広場に来て、よると遊ぶことに決めた。

 お節介? そもそも私の目標は、みんなまとめて幸せにすることだ。これは、私の人生における命題でもある。避けられるようなことじゃない。


「ねぇ、ミリアム。よる、明日も来るかしら?」

「どうだろうね。私は、王城からの呼び出しがかかるまでは来ようと思ってるよ」

「なら、私も行くわ! だってあの子、心配なんだもの。……昔の私に似てて」

「シャーナちゃん……」


 そんなこんなで、私とシャーナちゃんは、よると仲良くなることを誓い合った。

 セリスは呆れてたけど、投げ出すもんか。

 とは言え、一番の重要事項は王城へ行くことだから、そこは間違えないようにしないとね。何なら、早く話し合いが終わると良いんだけど。


 ……と、思うのがフラグだったのか、王城からの知らせは、待てど暮らせどやって来ない。アポを取っていても、偶にこういうことがあるらしく、焦ったら駄目だと言われた。

 けど、今の私にはやるべきことが出来た。だからこそ私は、寧ろ嬉々としてその時間を有効活用すべく、広場へ通うことになるのだった。


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