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31/魔窟の迷い人

 セリス、サイファ、レフィナさん親子、シャーナちゃん、シャラさん親子と出会い、一緒に暮らすようになって1年と少しが経った。

 最近は特に何事も起こらず、毎日平和に暮らしている。

 攻略対象者どころか、ヒロインまで一緒に過ごすようになったので、事態が一気に進展するんじゃないかと期待していたけど、全然そんなことはなかった。


 私は、それでも来たるべき日の為に、修行と情報収集に勤しんでいる。

 確かに色々な魔法を覚えたり、ローウェンの剣をある程度避けるだけなら出来るようになったり、勉強もそこそこ進んだりと、成果はある。

 だけど、どうにも受け身の状態であることに変わりはなく、正直、未だに焦りが抜けない。


 ……やっぱり、情報収集が足りないんだろう。

 あの仮面舞踏会以来、ローウェンとメアに協力してもらって、時折見知らぬ人の誰でもウェルカムな緩い舞踏会に紛れ込んだりしているんだけど、やっぱり耳に入って来るのは他国の情報ばかりだ。

 それはそれで重要な情報だとは分かっているけど、今は邪神復活と、薄紅の集団(クリムゾン・ドーン)の情報の方が欲しい。


 ゲームで、そういった戦争的な話が起きていなかったのは、恐らくこれから先、もっと邪神の影響で魔物が増えたりして、余裕がなくなるからなのだろう。

 実際、直接的に邪神に結び付くような情報は得られなかったけど、盗賊や魔物を倒したりすることで日銭を稼ぐ傭兵の人たちが、最近妙に魔物の動きが活発になっている、といった話をしているのを小耳に挟んだ。


 ……因みに、この世界には冒険者と呼ばれる職業は存在しない。地図は既に大体塗り潰されているし、危険をおかしてまで魔物の巣窟に向かうメリットがあまりないからだ。何故なら、魔物を倒してもお金は落とさないし、倒せば死体は霧になって消滅して何を残すこともないからである。

 だからこそ、この世界で魔物と戦う最もポピュラーな職業は、傭兵なのだ。

 最も公な職業は、騎士になるけど、彼らはなかなか討伐に赴くことはないので、村に住む人なんかから見ればポピュラーではない。


 外の情報で目ぼしいのは、大体そのくらいだろうか。

 ざっくりまとめれば、魔物の動きが活発になりつつあると。

 出来ればどこかのタイミングで、私も直接魔物を拝んでおきたいところだ。

 ゲームで邪神討伐の旅に出る頃までには、ある程度慣れておきたい。

 本番でテンパって死にましたでは、笑い話にもならないもの。


「ミリアム! ここに居たのね。何してるの?」

「あ、シャーナちゃん。少し考え事だよ」


 家の前庭のベンチで、ぼんやりと花壇を眺めながら考え事をしていた私に、シャーナちゃんから声がかかる。

 出会った当初は、警戒心丸出しで、我が家で保護するという話が出てからも、ずっと唸っていた。そんなシャーナちゃんも、今では笑顔で私に話しかけて来てくれるくらいになって、非常に嬉しく思っている。流石はヒロインといった感じで、頑張り屋さんなシャーナちゃんは、とても可愛いからね。ふふ。


「ミリアムって考え事が好きよね。何がそんなに面白いの?」

「ううーん……面白くはないよ?」

「じゃあ、何でそんなに考えるの?」

「必要だからだよ」

「ふぅん? 変なの!」


 明るく笑うシャーナちゃんの言葉に、若干傷つきつつも、私は嬉しくも思っていた。マゾじゃなくて。


 ゲームのヒロインであるシャーナは、本編の頃まで、ずっと気を張って過ごしていた。いつ襲われるとも分からない毎日。誰が敵とも分からない中で、たった1人の家族であるお母さんを守ろうともがいていた。

 決して、褒められたものじゃないことをしていた時もあったみたいだ。それでも、ただ生きる為に、彼女はずっと必死だった。


 だから、ヒロインのシャーナは笑うことが少ない。笑ったとしても、どこか嘲るようなものだったり、とにかく冷たい印象が強い。クールビューティーなシャーナも格好良くて可愛くて好きだけど、痛々しい印象が拭い去れないのだ。


「それより、早く行きましょう。もうセレン先生が来てるわよ!」

「もうそんな時間?」

「ええ、そうよ。ミリアムって、意外と抜けてるわよね」

「そうかなぁ?」

「そうよ!」


 クールにならざるを得なかった彼女の、満面の笑顔。

 真正面からそれを見ると、無性に泣きたくなってしまう。

 私は、潤みそうになる目を軽くこすってベンチから立ち上がる。


 シャーナちゃんにとって、我が家が安心を提供出来る場所であったのなら、そんなに嬉しいことはない。

 何なら、ちょっと流行ってた逆ざまぁ系の小説みたいに、シャーナちゃんがイヤな感じの転生者だったらどうしようと思ってた自分を殴りたいくらいだ。


「シャーナちゃんがずっと笑顔でいられるように、私頑張るからね」

「急にどうしたの?」

「うーん、何となく?」

「じゃあ、私はミリアムが笑っていられるように頑張るわ!」


 ……天使かよぉ……。


□□□


「うーん……」

『どうしたのじゃ、ミリアム。そのように妙な顔をしおってからに』


 セレンさんの講義を終えて、今私は1人で玄関辺りをウロウロしている。

 ローウェンは、今日はお父様の付き添いで外出中だし、メアは他の使用人の人の手伝いに駆り出されてていないので、完全に1人だ。

 シャーナちゃんはセリスを引き連れて、もう少しセレンさんに聞きたいことがあると言って引き留めていた。頑張り屋さんだ。


 因みにテオは今年で15歳になったので学園の方に行ってしまった。休みの時しか戻って来れないので、今魔法の講義は私とシャーナちゃんとセリスで受けている。同室にいることの多いローウェンとメアも、自動的に受けているみたいなものだけど、メインはこの3人だ。

 この間帰って来たテオ曰く、学園の講義よりセレンさんの講義の方が為になる、らしい。セレンさん優秀だったんだね……。


「うん。あのね……パトラは、これを見て何か感じない?」

『ふむ。そなた、前も似たようなことを言っておったのぅ。何かあるのか?』

「……ちょっと、ね」


 アタシの記憶が蘇ってから、私はずっとここを気にしていた。

 ルナリス邸の玄関に、おしゃれな感じに刻みつけられている模様。

 こうして見れば、ただのデザインパターンにしか見えないその模様は、ゲームのルートによっては凄まじく重要な意味を持つ。


 人々の思考や行動は、現実に即して変化しているから、読めないところもあるし、予想外のことも起こる。

 けれど、既に発生している物事なんかは、大抵ゲームに準拠しているという法則を、今のところ外れるものはない。

 それを根拠にして考えれば、この模様は、邪神封印の一助になる重要なものなのだ。


 攻略対象者でもあり、優秀な神学者でもあるインディゴの話によると、この模様……魔法陣は、ゲーム後半の頃には既に力を失くしているとのことだった。

 セリスルートだけで明かされるその事実に対し、インディゴは謎の腕前で、寸でのところで修復を終え、再び邪神を封印することに成功する。

 シャーナとセリスも滅茶苦茶頑張ってたけど、あのルートの立役者は完全にインディゴだと思う。

 というか、ほぼ全ルートにおいてインディゴは神様関係の豊富な知識を発揮して、必ず役に立つキャラクターだ。最早チートだと思う。


 ……いや、今はインディゴのことは良い。探しても全然見つからないしね。

 もしかして、お父様は繋がりを持ってるんじゃないかって思ったりもしたけど、今のところ紹介されるような感じもないしね。


 それよりも重要なのは、パトラ……黄昏の女神クレプスクロが、ゲームとは違って目覚めている状態であるにも関わらず、この模様に反応を見せないというところなのだ。

 記憶が戻ってないとは言っても、邪神関係のあれやこれやには、無意識に怒ったり、退治したりと大活躍なパトラだ。

 定期的に足を運んでいれば、こう……自然とこの魔法陣の力を取り戻せたりするんじゃないかと思ったのは、甘かったみたいだ。


「これ、魔法陣か何かなんじゃないのかなーって思うんだけど……」

『魔法陣? うむぅ……妾には何も感じぬが……ミリアムは何かを感じておるのかえ?』

「そういう訳じゃないんだけど、何となくね」


 ルナリス邸が襲撃を受けてる最中に気付いてるから、もしかすると近くに邪神の気配がないといけないとか、何か条件があるのかもしれない。

 先に修復出来ていれば、心強いと思ってるんだけどな。


(やっぱり、これ以上の情報収集にはインディゴがいないと……)


 この世には、他にも優れた神学者はいるのかもしれない。

 でも、私に分かる最も優れた神学者は、インディゴしかいないのだ。

 あと数年も待てば、インディゴはふらりとアルセンシア王立学園に居着くようになるけど、出来ればフライングしたい。

 そうでないと、何の為にアタシの記憶があるのかって話だ。


「おや、ミリアム。そんなところでどうしたんだい?」

「お父様! お帰りなさい」


 腕を組んで、これから更に実践的な行動を取っていくにあたって、何をすべきか考えていると、お父様が帰って来た。

 私が、何故か玄関前でウロウロしているから驚いたみたいで、お父様の目は見開かれていた。

 いけないいけない。これ以上奇行が目立てば、変な子だと思われてしまう。

 内心慌てながら言い訳を口にする。


「先ほどセレンさんの講義を終えて、部屋に戻るところなんです」

「そうか、それは丁度良い」

「えっ?」


 今度驚いたのは、私の方だった。

 丁度良いということは、私に何か用事でもあったのだろうか。

 お父様は少し困ったように微笑むと、静かに続ける。


「ミリアム。シャーナとセリスにも声をかけて、出かける準備をしておいで」

「準備……? お散歩、ではありませんよね?」


 一緒の敷地内に住むことになってから、それなりに皆でガーデンパーティーみたいなのをしたり、お出かけをしたりということもあった。

 でも、お父様の物言いはそういった気軽なイベントに誘うようなものではない。

 どちらかと言うと、前にテッキ村に行った時のような雰囲気を感じる。

 首を傾げた私に、お父様は柔らかに告げた。


「――魔窟ダンジョンへ、人探しだ」


 ……それは、人語ですか?


□□□


 ――魔窟ダンジョン。この世界では魔窟と称するそこは、文字通り魔物の巣窟だ。


 一般的なRPGのように、貴重な素材が採れたりする訳でもなく、ただただ危険な場所。それは、封印されている邪神から放たれる瘴気の影響によって生まれるとされ、今では殆ど伝説的な存在である。間違っても、人が立ち入るような場所ではない。


 そんな魔窟が、近年徐々に姿を見せ始めているという話は、ささやかに耳に入って来る。とは言え、今の段階では中から魔物が姿を見せるというケースも少ないし、被害も出ていない。

 実際に近場に出現してしまった人々の声がまだここまで届いて来ていないだけなのではないかという懸念は少しある。けれど、アタシの記憶が正しければ、まず今の段階ではまだそこまで警戒すべき場所ではない。


 それでも、国は調査団を派遣したりして、警戒はしているらしい。

 国民に被害が及んでからでは遅いので、賢明な判断だと思う。


 でも、だ。

 何度も言うけど、魔窟はRPGのように立ち入るメリットは一切ない。本当にただ危険なだけの場所だ。

 そんな場所で、人探し。私は頬を引きつらせながら、現場へ向かう馬車の中でお父様に問いかける。


「あの、その魔窟で行方不明になった人というのは、どういう方なのでしょう?」

「……私が知る中で、最も神話に詳しい男。そして……最も常識のない男だ」

「……はぁ?」


 半ば無理やり連れて来る形で引っ張り込まれたセリスは、仏頂面で首を傾げる。

 不機嫌そうではあるけど、ちゃんと話は聞いているらしい。


「しばらく前に見つかった遺跡の調査を、私は奴に依頼していた。調査は順調だったのだが、定期的に入れるように命じていた連絡が先日急に途絶えた」

「えっ? それって……」

「元々、筆不精な男だ。いずれ連絡は来るだろうと思ってはいたのだが、妙に不安に思って別の人間に行方を追わせた。すると……」

「……魔窟に入って行ったという情報が入って来たのですね?」

「……その通りだ」


 私が継ぐ形で告げると、お父様は深いため息交じりで頷いた。


「常識のない男だ。それは、分かっていたんだが……よもや、ここまで常識がないとは思わなかった……」


 ガクンと、可哀想なくらい項垂れるお父様に、かける言葉が見つからない。

 というか、もうこれ、何かのイベントだよね。

 これから行く先は、大神殿よりは少し離れているけれど、一応日帰りは可能な位置にある魔窟らしい。

 名前がある訳でもないし、地名という地名が付いている場所でもない。

 でも、何となく察するところがある。

 そんな危険な場所に、お父様が私たちを連れて行こうとしている時点で。


「というか、ツェルト様。何でおれたちを連れて行くの?」

「ん?」


 やっぱり、ここまで話が進んで気になったのだろう。

 セリスがブスッと目を吊り上げながら疑問を口にする。

 当然の疑問だし、黙って話を聞いていたシャーナちゃんも何度も頷いて居る。

 お父様は少しだけ迷ったように視線を泳がせたけれど、ここまでいって黙って居られるはずもない。やがて静かに説明をし始めた。


「君たちには、特別な力がある。それは……何となく既に察していると思うんだが」

「それでおれたちのこと引き取ってくれたんですよね?」

「私も、それで狙われていたってことですよね」


 2人の言葉に、お父様は頷いて続ける。


「魔窟は、足を踏み入れた人を迷わせる力がある。同じように入っても別の場所に繋がることもある」


 その辺は、RPGっぽいルールだよね。

 不思議な感じのダンジョンなのだ。


「だから、ただ後を追っても見つけられない可能性が高い。だが、君たちにはその力を打ち消す力があるんだ」

「おれたち……に?」


 セリスもシャーナちゃんも、ビックリして目を瞬いている。

 けれど、ゲームに関する現実への適用原則に基づけば、これは事実だ。

 魔窟に色々なトラップが張り巡らされているのは、何かの意志というよりも、邪神の醸し出す瘴気によるもの。

 それを打ち消すことが出来るのは、守護者しかいない。


 ゲーム本編の頃には、すっかり人々に牙をむくようになる魔窟。

 シャーナこと暁の守護者の主な役割は、当然邪神の封印になる訳だけど、そうした魔窟の攻略も役目に含まれていた。

 ゲームの性質上、テキストでの説明だけだったけど、どうもガッツリ魔窟攻略はしていたようだった。

 というか、きちんとこなさないと、ハッピーエンドの条件が満たせないくらいだった。


(考えようによっては、これってチャンスだよね。本編より早く魔窟に挑めるんだもん!)


 私は内心でガッツポーズをした。

 魔窟には、誰も好き好んでは足を踏み入れない。

 けれど、必ずしも例外はある。それが、私だ。


 ゲームでは、魔窟を踏破して守護者の力で浄化すると、それだけ邪神の力を削ぐことになっていた。恐らく、この世界でも同じだろう。だから、出来れば挑戦したいと常々思ってはいた。

 ただ、どう考えても頭のおかしい行動だし、邪神を何とかしようとしているお父様とは言え、認めてはくれないと考えて言い出せずにいた。

 それに、単純に実力不足を心配していた、ということもある。


(探し人を見つけるついでに、サクッと踏破して浄化しよう!)


 浄化は、多分パトラの神様パンチで大丈夫だと思う。

 今の時点では、セリスとシャーナちゃんは多分当てにするのは難しいだろうから、私がやらないとならないけど。

 まぁ、いずれシャーナちゃんはヒロインパワーに目覚めて最強になってくれるだろうし、それまでは私が頑張ろう。


「とは言え、前例もないので絶対とは言えながね」

「そうなんですか?」

「ああ。だから今回、奴にはその調査を頼んでいたんだが……はぁ。仕方ないが」


 お父様の探し人は、浄化関係の調査をしていたのか。

 確かに、それがちゃんと分かるのは良いことだ。

 私も、ゲームのテキストから繋ぎ合わせて判断してるだけで、ちゃんと理解している訳ではないから。


「それじゃ、おれたち危なくない?」

「心配しないで大丈夫ですよ、セリス坊ちゃん。俺が付いて行きますからね」


 ヘラリと、ローウェンが御者台の方から声をかけて来た。

 定員オーバーの関係で、今回ローウェンは御者台の方に座っている。御者はしてないけど。そんなローウェンの言葉に、セリスは一応納得したようで、若干不貞腐れたような顔で押し黙った。


「ところで、ツェルト様。今回探すその人の、お名前はなんというんでしょうか?」

「ああ、まだ言っていなかったね。奴の名前は……」


 …………。


「インディゴ、だ。通称だがね」


 ……ハイ、フラグ回収ありがとうございました!!


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