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22/シャルウィダンス?

「まぁ、ミリアム様。素晴らしゅうございますわ」

「そ、そうですか? あ、ありがとうございます……」


 変身魔法の練習と共に、ダンスのレッスンも開始してしばらく経った。


 変身魔法の練習が始まってから、練習中は他の人と会わない方が良いと言われて、変身姿はセレンさんと、今目の前にいるダンスの先生以外には見せていない。

 特に他の人の変身魔法の進捗状況を見てしまうと、悪影響が出ることもあるらしいので、テオとは絶対顔合わせしないように、と注意されているくらいだった。理屈は良く分からなかったけど、セレンさんが何度も注意するくらいだから、相当マズイ問題が起こるのだろう。

 何だかいつもよりニヤニヤしていたような気もするけど、いや、セレンさんに限ってジョークの一環なんてことはないだろう。多分。


「変身魔法の使用前とのズレも、随分修正出来ましたね」

「頑張りました!」

「ええ。ですが、ここまで来ると、そろそろ殿方と組みたいところですわね」


 うーんと呟きながら、手に持っていた扇を広げるダンスの先生。

 彼女は、名前をジェニー・ヴァルターと言って、我がルナリス領の隣の領地、フォステリア領を治める辺境伯の奥方様だ。


 そんな高貴な人が、どうして格下の男爵家の娘のダンスの講師を引き受けたのかと言えば、辺境伯夫妻との個人的な交友関係が理由らしい。ざっくり言ってしまえば、学生時代の友人だったから、とのことだ。別に、我が領地の親分的存在だから、とかそういう貴族的な繋がりによるものじゃない。

 それは気楽で良いのかもしれないけど、まぁ、普通に立場が上の方だから、気楽とひと言では言えないんだけどね。


 そう言えば、こうして色々と勉強し始めて初めて知ったけど、うちの領地はルナリス領って名前じゃないらしい。

 あくまでもルナリスは家名で、領地としてはエルドナ領って言うんだって。

 だから貴族的にお父様を呼ぶ時は、ルナリス男爵とか、ルナリス卿って呼ぶんじゃなくて、エルドナ男爵とか、エルドナ卿になる。

 最近になって判明した、結構大きな事実。全然知らなかった。


「セレン先生に、テオドア様の進捗状況を確認して参りますわ。ミリアム様は、そのまま変身魔法のキープを続けてくださいな。では」


 ジェニー先生は、優雅に軽い一礼を見せると、その見事な金色の縦ロールを揺らして小さなホールを出て行った。

 部屋には息を切らせた私だけが残る。ホッと息をつくと、変身が解けそうになるから油断出来ない。


「……変身魔法って辛いんだね」


 私は、お腹に力を入れて変身が解けないように気を付けながら呟く。部屋の外ではメアとローウェンが待ってると思うけど、これだけ小声なら聞こえないだろう。


『うむぅ……そなたを通じて、妾にも脱力感が伝わって来るぞ』


 唸りながらも、パトラは私の周囲でそれは見事なステップを披露する。

 参考になれば良いのじゃが、と言いながら、彼女はダンスの練習が始まると、良くこうしてダンスを見せてくれていた。


 誰かと組むことが出来ないのが残念なくらい、パトラのダンスには華があった。

 きっと、そこにパートナーがいれば、もっと華やぐのだろう。

 え、私のダンス? いやー……見せられないよって感じだよね。ジェニー先生は褒めてくれるけど。


『じゃが、問題はなかろう。ダンス中に足がもつれることはあるが、なに、変身が解けないのじゃから及第点と言えよう』

「そうかな?」

『うむ。文句を言う者など無視で良い。妾が褒めておるのじゃ。胸を張れ!』

「……ふふ、ありがとう」


 パトラに励まされると元気が出る。

 私は、変身魔法に注意しながら、もう一度ステップを確認し始める。


 ダンスの練習は、しばらく変身魔法とは別に行っていた。

 変身魔法で姿を変えるのに慣れて来て、それなりに長時間保てるようになってから、ダンスと組み合わせた。

 最初は、いつもの自分の縮尺で慣れたステップの幅とかが全然変わったから、とにかく良く転んだ。ついでに変身も解けたりして、散々な目に遭った。

 変身したり、解けたりするのに合わせて着ている服も伸縮してくれる、なんてことはないから、解ける度に半裸になるのだ。

 もしかすると、だからこそセレンさんは他の人と練習しないように、と言っていたのかもしれない。


 だけど、2週間も経つと、とりあえず変身が解けることだけは少なくなって、半裸になることも減った。その分ステップに気を回すのが難しくて、良く転ぶのは変わりなかったけど、今日は一度も転んでいないし、変なズレも起こさなかった。この調子で進めたいところである。


『ところで、テオドアはセレンの奴にダンスを習っておるのじゃったか?』

「うん、そうだよ。セレンさん、何でも出来てスゴイよねぇ」

『あやつは妖精族じゃからの。伊達に長く生きてはおらんということなのかのぅ』


 パトラもスゴイと思ってるらしいけど、多分、パトラの方が長生きしてるよね。

 いや、殆どを眠っている訳だから、人生経験で言えば微妙なんだろうけどさ。


 パトラについてはともかく。

 テオは、ダンスもセレンさんから教わっていた。

 やっぱり、出来れば変身魔法の具合を確認するには、魔法を教えている先生が側にいるべきだから、理想の状態と言えるだろう。


 かく言う私は、ダンスの練習の時はセレンさんと別れているけど、実は大きな問題はない。

 何と、ジェニー先生は青魔法の達人で、特に変身魔法を使わせたら右に出る者はいない、と言われる程の腕前なのだそうだ。実際にジェニー先生が変身魔法を使うところは見ていないけど、確かに彼女の指示はいつも的確で、効果的だ。

 ジェニー先生とセレンさんの間でのやり取りもしっかり行われているらしく、2人の指示に齟齬が起こることもない。


 ゲームのシナリオへの対策が遅々として進まない不安はあるけど、一応魔法など諸々の練習は進んでいる実感がある。とりあえず、このまま進んで行こう。


「ミリアム様」

「ジェニー先生! 如何でしたか?」


 扉が開いた音がして、振り返って見ればジェニー先生が帰って来たところだった。どうなったのか尋ねてみれば、先生はニンマリと満足そうな笑みを浮かべた。


「バッチリですわ。本日の夕方には合わせられますので、そのおつもりでお願いしますわ」

「夕方? すぐやるのではないのでしょうか?」


 時計を見れば、まだお昼を少し過ぎたところで、そこまで時間を空ける必要はないように思える。

 首を傾げる私に、ジェニー先生は軽く腰に手を当てて眉を吊り上げた。


「まぁ、ミリアム様。まさか、そのような練習用のドレスのままで殿方と合わせるおつもりですの?」

「えっ、練習だからこのままで良いのでは?」


 反射的に見下ろしたドレスは、ジェニー先生から渡された彼女のお古だった。

 お古と言っても、まだまだ着ることが出来る上等な代物だけど、ジェニー先生曰く練習用にするにもショボいそうだ。

 私から見れば、十分このまま夜会にも出られそうなんだけどな。


「いけませんわ。例え練習であったとしても、淑女としてそのような古ぼけたドレスで殿方の前に出るべきではありません」

「まさか、今から買いに行くんですか!?」


 一応、本番用のドレスはジェニー先生を通じて注文をしてあるらしい。

 私の変身した姿のサイズは、ジェニー先生のメイドさんたちによって一通り測られている。デザインは私も知らないけれど、一応色は薄い赤とのことだ。

 ジェニー先生が物凄く張り切っていたので、心配はないと思う。


 そんな本番用のドレスは当日に到着予定となっている。

 まだ出来上がって来る訳でもないし、そもそも本番で披露しなければと息巻いていた先生が、練習の為におろすとも思えないけど。

 だったら、買う以外にないんじゃないか、と思っていたら、ジェニー先生は何でもないことのように言い放つ。


「もう一通り買っておりますわ」

「え?」

「これから、試着をしていって、一番良い物を着てくださいな」

「ええー!?」

「さ、貴女たち。持って来てくださいな」


 ジェニー先生がパンパンと手を叩くと、ゾロゾロと大きな箱を抱えたメイドさんたちが入って来る。

 何だなんだと中を覗こうとしたローウェンの顔めがけてジェニー先生の扇が飛んで行った瞬間はちょっとビビった。淑女の部屋を許可なく覗いてはなりませんわ、と先生は言うけれど、いや、普通見るよ。何、この数。


 結局、ダンスの練習に丁度良い程度の広さしかない部屋の半分が、メイドさんたちの持って来たドレスで埋まる。

 ドン引く私にジェニー先生は、それはそれは美しい笑みを浮かべて宣言した。


「さ、試着を始めますわよ!」


 ……私、今の練習用ので良いんだけどなー……。


『ほうほう! なかなかに良い物ばかりではないか。愉快ぞ!』


 ……はぁぁ。


□□□


「おやおや、これはこれは」

「ふふふ、自信作ですわよ!」


 数時間、ジェニー先生の着せ替え人形と化した私の感情は、すべて消えた。最早、無だ。無表情で呆然とする私を、ジェニー先生に連れて来られたセレンさんがしげしげと眺める。

 少しばかり驚いているように見えるのはどうしてだろう。ぼんやりそう思っていると、セレンさんは満足そうに笑った。


「素晴らしい。精神的に疲弊していても変身は保たれていますね。これならば実践にも耐えうるでしょう」


 良くぞここまで、と拍手が送られる。私の、消え去ったはずの感情が蘇って来る。単純? いや、そんなまさか。普通嬉しいでしょう?


「ええ、あとはどのような殿方が相手でも踊れるように細かい調整を行えば完璧ですわ」

「流石はジェニー様です。テオも、変身の方は問題ないと思います。ダンスは……まだ多少不安は残るのですが、何とかなるでしょう。その為の練習ですしね」


 2人が、和気あいあいと練習過程について話し合うのを見ていると、何だか物凄く刺さる視線を感じた。一体何だろうと思っていたら、セレンさんに引っ張られて入って来たテオと、テオが良いなら良いだろうと普通に入って来たローウェン、メアだった。


 3人とも、何だか妙な顔で私を見つめている。

 テオは真っ赤になったり真っ青になったり忙しいし、ローウェンは今まで見せたこともない程不機嫌そうに眉を寄せているし、メアは……メアはいつも通りか。無表情だったね。


「それにしても、変身状態での練習とは思わず、テオにはそのまま来てもらってしまいました。すぐ準備させましょう」

「それでしたら、テオドア様の分の衣装もワタクシ、用意させましたの。よろしければそちらをお持ちくださいな」

「これはありがたいです。それじゃあテオ、行きますよ」

「えっ、はっ、そのっ!?」


 訳の分からない奇声を上げながら、テオはセレンさんに引きずられていく。

 その間も、じーっと瞬きすらせずに私を見つめているんだけど、本当に大丈夫?

 いや、もしかするとドレスに着られていて、相当大変な見た目になっているんだろうか、私。ハッとして頬に手をやる。


 変身した状態の私は、仮面舞踏会に相応しいようにと、それなりに大人の姿をしている。イメージとしては、大体ゲームで見たミリアムになる。大体年齢的には18歳くらいだろうか。

 でも、今の12歳の私は、クラスで一番前になるくらい、まだ小さい。だから、変身した後の姿を見ると、6年後とは思えないくらい大人に見える。

 ……もしかして、それで驚いてたのかもしれない。


「……やっぱり、ちょっとおかしかった?」


 ローウェンとメアの方へ視線を向けて、軽く首を傾げる。

 すると、何故か2人の身体がビクッと跳ねた。……え、何その反応?


『ほぅほぅほぅ! これは面白いぞ! こやつら、照れておるわ!!』


 パトラがお腹を押さえて爆笑している。ちょっと、失礼だからよしておきなよ。

 内心で注意しつつ、改めて2人を見る。特に見た目に変化はない。少なくとも照れている時の反応には見えない。テオは……照れてたのかもしれないけど。


「2人とも?」

「い、いやーお嬢さん見違えましたよお似合いですお似合いうんうん」


 ローウェンが、堰を切ったように勢い良く言葉を連ねる。一息で吐き出し終えると、目線が逸らされる。顔が赤くなったりしてる訳じゃないし、照れてるようにはやっぱり見えないけど、何かはおかしい。この変な反応を、照れから来るものと判断して良いのだろうか。

 仮に照れだとしたら、あんまり嬉しくないなこの反応。


「メアはどう?」

「……はい。とてもお上手だと思います。魔力の循環も実にお見事でございます」

「本当? 嬉しいな、ありがとう!」

「うぐっ」

「うぐっ??」


 メアは、魔法の出来について褒めてくれた。いつもの語調だから、素直に嬉しく思ってお礼を言えば、変な声がメアから漏れる。


 2人揃って、やっぱりどこかおかしい。

 視線を合わせようとしても、何となく逸らされるし……やっぱり、見るに堪えないような感じなんだろうか。卑下するつもりはないけど、見慣れた子どもの姿じゃないから、2人とも違和感が大きいのかもしれない。


「そう言えば、ローウェンも魔法は結構得意なんだよね」

「えー、そーですねー」

「私の変身、どう? 下手じゃない?」

「……ビックリする程、良く出来てますよ」

「本当に!?」


 ローウェンは、不機嫌そうに寄せていた眉間を緩めて、ゆったりと微笑んでくれた。いつもと違う雰囲気だけど、皮肉ったりからかったりする感じじゃない言葉は、ストレートに響く。

 メアも、そういう嘘をつくタイプじゃないし、魔法が得意な2人に褒められると鼻が高くなる。


「お待たせ致しました、ミリアム嬢。テオも準備が終わりましたし、早速練習しましょうか」

「分かりました」

「……よ、よろしく……」


 改めて部屋に入って来たテオは、ゲームで見慣れた青年の姿をしていた。

 最近のテオの身長はグングン伸びてて、凄く高いなーと思っていたけど、やっぱりこうやって見ると、ゲームの頃のテオは大きい。


 今の私の背は、サイズを測ったジェニー先生に聞いていないから、どれくらいか正確には分からないけど、多分160cm後半はあると思う。

 対してテオは、190cm近くありそうだ。私がヒールを履いてもバランスが取れそうで良いと思うけど……何だか目立ちそうだな。


「テオ、正装似合うね。格好良いよ」

「ありがとう。……その、ミリアも可愛いよ。スッゴく」

「そうかな?」

「うん。誰よりも可愛い」


 私の方へ駆け寄って来たテオは、ジェニー先生が準備した燕尾服姿だ。髪の毛も、それに合わせてオールバックって程じゃないけど、撫でつけられている。

 何だかいつもと雰囲気が違うけど、こうした感じはゲームで見た印象に近いから、戸惑いは少ない。


 だから……どちらかと言うと戸惑うのは、その表情と言葉選びだ。

 何、そのはにかんだような微笑みと、誉め言葉は! エピローグでしか見たことないよ、そんな笑顔!


「そう言われても、何だか不安だよ。馬鹿にされそう」

「そんなことない!」

「えっ?」

「大丈夫。もしミリアを馬鹿にするようなヤツがいても、オレが守るよ」

「……っ」


 ――照れる!!


 普段よりも大人なテオに言われれば、流石に照れるよ。

 何。この甘酸っぱい空気! 私は、思わず視線を逸らした。


「テオ、気を付けなよ」

「何を?」

「仮面舞踏会で、そんなこと女の人に言ったら、その気になっちゃって大変なことになるから」

「え?」


 ポカンと目を瞬くテオ。

 いや、テオは攻略対象者で整った容姿に加えて、腰砕けボイスと雰囲気を持ってるんだから、顔を隠したところで抑えきれない色気で多くの女の人を攻略しちゃうよ。割と本気で注意した私に、テオは笑った。


「平気だよ。ミリアにしか言わないから」


 ――どこで覚えて来るの、そんなこと!!!


 内心で悲鳴を上げる私に、パトラの笑い声が響く。

 やめて! トドメを刺さないで!!

 呻き始めた私の耳に、セレンさんの弾くピアノの音が入って来る。


(……踊れと。こんな調子で踊れと!?)


 縋るようにジェニー先生を見ると、良い笑顔でグッと親指を立てられた。

 因みに、この世界でもそれは頑張れ! の意味である。


「大人のミリアと踊れるの、オレ嬉しいな。普段のミリアも可愛いけどさ」

(も、もうやめてー!!!)


 しばらくご機嫌なテオとの練習を続け、心身ともに疲労しきった私。

 待っていたのは休憩時間ではなくて……更に続くレッスンだった。


「どのような方とも踊れるように、パートナーを交代しますわよ」

「えっ」

「ミリアム様は、そうですわね……ローウェン。お相手なさい」

「えっ、俺?」

「テオドア様は、ワタクシと踊りますわ」

「……はーい」


 挙動不審なローウェンを相手にするのも微妙な気分だ。

 ただ、結構な時間、甘ったるい空気を醸し出すテオと踊ったので、それも良いかもしれないと思った。

 でもそれは……割と間違いだった。


「…………」

「ごめんね、ローウェン。落ち着かないでしょ」


 なるべく普通の空気にしようと、精一杯話しかける私。

 それに対して、ローウェンの目は据わっていた。


「いーえ。と言うか、いや、やっぱ落ち着かないけど」

「ローウェン? 何だか今日、変だよ」

「……そりゃ変にもなりますよ。こんな魅力的な女性が近くにいたら」

「……は?」


 踊りながら、思わず間抜けな声を漏らした私を見るローウェンは、真剣だった。


「ま、またそんな、からかおうとして……」

「本気ですよ」

「っ……」


 何か言ってくれたら良いのに、ただただローウェンは上手なステップを踏む。

 山賊顔のクセに。私は視線を落とそうとするけど、巧みな足さばきで上を向かされてしまう。


「どうせ、俺と踊れるのなんて今くらいなんですよね。なら、せめてもう少し浸らせてくださいよ」

「そ、そんなこと言って、後でうろたえた私を見て笑うんでしょ……」

「綺麗ですよ」


 ……結局、ローウェンは冗談だったって、からかったって言ってくれなかった。

 ひどく落ち着かない気分で、私はローウェンとのダンスを終えた。


 もうイヤだ。終わりたい。真剣に思ったのに、ジェニー先生はニヤニヤ笑顔でメアとも踊るように言う。鬼! 悪魔! 美人!!

 何なら、パトラも同じような顔で笑っていた。鬼! 悪魔! 女神!!


「……ご、ごめんねメアまで付き合わせて」

「いえ」

「ところでメアは踊れるの?」

「はい」

「そうなの?」

「はい。本で読みましたので」


 確かに我が家にはそうした教養本もあったけど、いつの間に。

 そんな会話をしていたら、少し落ち着いて来たので、私はホッとする。

 メアは常に無表情で落ち着いてるし、寧ろ気を落ち着けるには丁度良い相手だったかもしれない。


「……ご主人様は、ぼくと踊るの楽しいですか?」

「え? うん」


 しばらく無言で練習に励んでいると、メアがふと呟いた。

 それは、何だか不満そうな雰囲気で、私は同意しつつも首を傾げる。


「どうかしたの?」

「……いえ。ただ……ぼく相手では照れてくれないのだなと思って」

「……ん?」

「何でもありません」


 掠れたような声の呟きは、難聴系主人公じゃない私の耳に、バッチリ届いた。

 え、それどういう意味ですかー……。

 呆然とした私は、それから最後まで無言だったメアとの恐ろしく重い空気のダンスを終える。お、恐ろしかった……。


「それでは、最後にワタクシたち講師がお相手致しますわ」

「よろしくお願いしますね」

「えー、またジェニー先生と? オレ、ミリアとが良い」

「あら、何か仰いまして?」

「……何でもナイデス」


 魂が抜けきった私は、最後は中間試験のようなものだという説明を聞き流しつつ、セレンさん相手に普通に踊った。3人との練習が、最早圧迫面接状態だったので、正直、セレンさんとのダンスは楽だった。

 まさか、セレンさんのように神がかったイケメンを目の前にしてダンスを踊るのが、ここまで平然と出来るものだとは思ったこともなかったよ。


 セレンさんとのダンスを終える頃には、もうすっかり私は平静を取り戻していた。ありがとう、セレンさん! これで今日はゆっくり眠れそうです!!


「2人とも、良く頑張りましたね。この調子で、細かい修正を入れていけば、本番では完璧に出来るようになりますよ」

「それまで、ワタクシもサポートを惜しみませんわ。一緒に頑張りますわよ」


 はい、頑張りますと叫びながら、私は必死に今日の出来事を記憶から抹消しようと試みた。

 ダメダメ。私、器用じゃないから。あんなときめきイベントで頭いっぱいになったら、邪神対策とは出来なくなっちゃう。


 そう思いつつも、しばらくこの出来事が頭から離れなくて、あまりの照れ臭さに睡眠不足になる勢いだった私。

 一方で、テオもローウェンもメアも、翌日以降すっかりいつも通りで。

 あんまりにもいつも通り過ぎるから、流石にイラッとした。


 ――こうなったら逆に、本番ではもっと照れさせる程キレイになってやる!


 そんな、明後日の方向の決意を胸に誓った私は、本番までダンスに変身魔法にと、全力で励むのだった。


読んでくださっている方、ブクマしてくださっている方、評価してくださった方、いつもありがとうございます。

逆ハーレムものですので、こうした展開になることも増えるかと思いますが、糖度など色々悩むところでもあります。もしよろしければ、ご意見ご感想など頂けましたら幸いです。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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