Lv.2
徒歩20秒の欠点は気持ちが作りきれないところ。番人に睨まれながら門を潜ると、庶民では一生見られないような美しい景色が広がっていた。
もう沢山の人で溢れかえっているのだから、どれだけ皇帝が美しいか、どれだけ力があるかが分かる。
「見て、あの人。従者も無しに何しに来たのかしら」
「人望が無いのよ、きっと」
うるさいの一言に尽きる。従者がいないと女官になれないのかよ、来るんじゃなかった。
一応派手じゃない服を買ってみたけれど……周りにいる性悪女子の皆様はそうではないみたいで。細部までこだわりが見える華美な服に身を包み、美しく長い髪を結っている。
「私なんか結べる長さじゃないし……ああこれなら最上レアのやつ着ればよかった」
最上レア、★5の服は見た目の華やかさだけでなく、ストーリー攻略に必要な美しさだの魅力だの可愛さだのがガンガンに上がる。ゲーム内ではこういうのを1個でも持っていれば準最強レベルくらいになれる。
しかし、今私が身につけているのは★3のまあまあ上質だが質素な布地に所々綺麗な宝石が散りばめられている物。髪飾りもまた。綺麗だけど、全ては陛下の好みと言うやつ。
「定員は200人らしいけど……明らかに超えてるよなあ」
もう諦めたい。ゲームオーバーでいいから家に帰りたい、30秒貰えれば好きなだけ帰られる。
――と、ざわざわしていたのが一気に静かになった。どうやら合格者の発表に来たらしい。あまりにも早くないか?
……あ、そうだった。確か……陛下はこういうの興味ないから適当に決めてたんだっけ。じゃあ服も何も気にする必要無かったじゃない、杞憂とはこういうこと。
「はあ、もう帰ろうかな。どうせ受かってな――いや、でも、気紛れで入ってるかもしれないし」
高い身長はこういう時有利。紙には合格者の名前が記されている、中には醜い部類に入るであろう人もいる。落ちた人の中には絶世の美女級の人もいる。本当に適当だ。
一つも漏らさぬ様に観ると、見間違いか幻覚なのか私の名前が記されている。いくらなんでも出来すぎだろう。この世界だとこの時点で嵌められていると考えた方が自然。
「けど、適当なら有り得るかも? いやでも誰かが私を虐めるために入れたのかも……」
「それでは新しく女官になった者はあちらへ、官女になった者はあの部屋へ」
官職は分からないけど、偉いんだろうな。男は偉そうに言い放ったあと、どこかへ消えた。この皇宮迷子製造機でしょ。
私はどこに行けばいいのか……分からないまま惚けていると、いつの間にか人が少なくなっていた。
「迷子というか話聞いてないだけか」
このまま帰るのもあれだし、せめて皇宮にいたということを示してから消えよう。そう考えて適当な場所へ行く。
小さな橋を渡り、沢山の入口がある中で一番左の地味な扉へ向かった。さっきの人達が言っていたように、従者もいないで何やってんだか。
「これ終わったら従者雇いに行こうか……な」