突然の闖入者
世界が機械で溢れ、人が機械を頼りに生活する時代。
少女はまだ機械化が進んでいないこの町で一人防波堤から暁を臨む。
少女の名はアヴァ・ソフィア。後に世界のあり方を変える、この時代『最後の女王』だ。
この日も孤城の王室でアヴァは世に抗議の声を発す。
「皆さんはこのまま機械共の好きにさせて良いのですか!?私はそうは思いません。人が人らしく生きる為、全てをあの機械たちに頼ってはならないのです。そうしなくては人は考えることをやめ、そのうちただの労働人形となるでしょう。さぁ、立ち上がるのです!人は人形では無いと!機械のメンテナンスをする人形では無いと!立ち上がる意志のある方はどうか我が国にいらしてください」
それは世界に放送された。機械は律儀だ。自分たちの不利になる情報であろうと全て放送してくれる。いや、もしかしたらこちらがいくら不利な情報を流しても無駄であると判断しているのかもしれない。
何故、機械が世界を支配しているか。それはある一大国が原因だった。その国は世界の国々を動かす力を有していた。そして今回、機械による全自動化というのを目指していたのがまさにその国だった。しかし、当時はさほど批判的な意見は無くむしろ推奨されていたくらいだった。
コンピューターによる制御。これにより数々のことが生まれた。
まず、宅配会社は今まで人が配達していたものを小型飛行宅配機に乗せその人の家まで自動で届けた。それにより空にはひっきりなしに宅配機が飛び回り、宅配会社の事故や配達ミスは一切無くなった。次に行われた会社は同じ運ぶ仕事のバス・タクシー会社達だった。バスは一定の区間を自動で走り、タクシーは行きたい場所を入力し、陸地のある限り人を運んだ。
しかし、これらが進み次に起こるのは人間がさらにらくするにはどうするかという話。これでもかという程人間は貪欲だ。そしてついにかの大国は行ってしまった。『中央制御人口知能』によるAIロボットの社会貢献。つまり大量に生産された人型ロボットを中央制御で一括管理し人に代わって働かせるというものだ。
これにより今までの専門職や、危険な場所の作業、職人職は人の手に残るものとして絶滅危惧種なみに激減した。
それから数年、ロボットの拡大暴走が国を飲み込み、ロボット社会が確立したその国は世界にまで進出し、ある国の一地域を除いて全世界がAIにより支配され、人々はロボットの気を伺いながら生活するようになった。
そう。その唯一残った地域のみが国王を持ちAIがおらず現在アヴァの居る孤城がある国。『アヴァンクロイツ王国』。このアース・ソフィアという世界で唯一人間による統治を行いこの時代『最後の女王』がいる国。
かの女王は年齢17歳にして世界の機械化を許さない。
王室で演説を終えたアヴァは、演説台を力なく下り自室の天蓋付きの大きなベッドに倒れ込む。
「どうしてあんなにみんな機械に支配されているのに普通に生活出来ているのかしら。私には理解できないわ。そう思わない?シキ」
「確かに思いますよ。お嬢。だけど二年間これだけ呼びかけて賛同国が無し!お嬢のコネの無さと顔の狭さ、ついでに胸の小ささまで想像出来る」
「ちょっと!何最後に追撃しに来るのよ。シキは私の護衛兼側近なんだからもうちょっと優しくしてくれても良いじゃない。そして、私の胸は関係ないし想像しなくていいわ」
「しかしその役職の前にまず戦いの時、俺はお嬢の副官なので言う時はキッパリ言わせてもらいますよ」
「もう!シキは意地悪なんだから」
このやり取りが楽しいのか、アヴァは少し嬉しそうに朝食の席に着いた。
アヴァは毎朝決まった行動をとる。まず起きてから身なりを整え、朝食の席に着く。そしてその日のニュースを調べ上げ、決まってこう言う。
「今日も変化なし?」と。
シキは答える「はい。未だに」
ここ二年間は毎日同じことを同じ時間に言っている。
しかし、今日は違う
「シキ。今日も変化なし?」
「いいえ。先程良いニュースが」
「そう、やはりダメね……って良いニュース!?やっとなのね!」
「はい。ここから南に数百キロル行った所にミクロアイランド連邦という小さな島国の集合体があるのですが、そこが我が国に賛同して下さるそうです」
「ならさっさとそこの国のトップに会うわよ。会談の場を設けなさい」
「かしこましました。場所が遠い国ですので一ヶ月後頃を予定に交渉してみます。で、今日はどちらに?」
「うふふ。ひ・み・つ♪私のとっておきの場所よ」
城をでたアヴァはまず徒歩五分程の喫茶店マロに入りこれまた決まって“マスターいつもの頂戴”と言って砂糖多めの珈琲ミルクとプリンを注文する。この国でこの姫を知らない人はもちろん居ないが、この店に毎朝決まってくるのを知らない人も、また居ない。
アヴァは決まって二階窓際の一番奥の席に着く。
定位置を決まって取れるのはも勿論店主のおかげ。
この席でいつも街に行き交う人の人間観察を行う。
歩く人、走る人、オシャレな格好の人、歩きスマホのボロ雑巾の様なマントの人…
‘あの人は全然見ない感じの人ね,
ボロマントの何者かは大通りをしばらく行くと細い路地に入っていった。
そのマントの人を眺めた後、十マイン程経った頃お店で事件がおきた。
「んじゃコラクソ店主!俺のコーヒーに何入れやがった!苦くてくそ不味いじゃねぇか!!」
アヴァが二階の吹抜から一階を覗くと、スキンヘッドの顔に趣味を疑う程の大きな黒龍を象った刺青をしたガラの悪い大男が店主に向かって騒ぎ立てていた。
「やっぱり人間が入れた飯は機械が作ってくれたものほどうまかねえな!ここもそろそろ店たたんで機械に任せた方が懸命じゃないか?おじさんよ」
「それは私に言っているのかね?君には珈琲の味の良さが分からないようだ。なんと可哀想な。そして機械にしかご飯を作ってもらったことがないようだね。人間の温かみを、愛を、鍛錬の歴史を知らないなど愚かでとてもじゃないが見ていられない。お金は要らないからこの料理も食べてご覧。アヴァちゃん。キミが頼んだのを先にこの男に渡させてもらうね」
そう言って店主はゴメンというように手をお辞儀のように合わせて二階から見ているアヴァに仕草をとった。
アヴァはそれにOKサインとして店主に向けて手で丸を作り縦に首を一回振って合図した。
「これはな私がたった一人のためだけに丹精を込めて作った店のメニューにはない特別な料理なんだよ。もちろんこちらから食べさせるわけだからお代はもらわんよ。ただね、君のような人でもわかりやすく人間が作ること、そしてわざわざ店に赴いて来て色んな人と食事をする楽しみ。それを教えてやろうと思うよ」
「ヒトが大人しく聞いていればダラダラと説教臭いことを言いやがって!こんなもんわざわざ時間をかけて作る意味があるか!機械に作らせたらこれよりも美味いもんを出してくれるはずだぜ。だがな仕方ねえからこれだけはくって言ってやるよ」
ガラの悪い男はアヴァも初耳の店の裏メニューだというリフレライスというリフレシア王国名産の料理を提供されていた。リフレシア王国というのはかなりの大国だがそれとマスターとアヴァにどんな関係があるのかこの時はよく分からなかった。料理を二階から見ようにも、遠くてどんな料理かは見えなかった。だが、遠目から見た感じお肉をふんだんに使ったカレーのような食べ物に感じた。
「むむ!?──むむむむむ!!美味い!うまいぞ。こんな美味いもんが……これではこの俺が負けたようではないか。クソッ。また来てやるよジジイ。今度来た時に美味いもんが出てこなければやはりお前の店はゴミ同然だな!」
そう言って語彙力皆無な悪態男は律儀にもカウンターに千キリル札を置いて店から姿を消した。
☆ミ用語辞典
マイン=分
キリル=円
キロル=km
つたない文だけど修正しながら頑張ります