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その4 出会いと別れのサービスランチ

「す、すみませんッ! あの……ッ!」

「はいっ? なんですか?」

「えっと、俺……あ、いや、ぼくはですね……、その、なんと言うか、こう……」

「? 私に何かご用ですか?」

「……いえ、やっぱりいいです……。間違えました、ごめんなさい」

「そお? ならいいけど。ふふふ、変な人ね」

 少し困ったように優しく微笑んで、その女の人は行ってしまった。

 そして。

 その場でただひとり、立ちすくみ、天を仰ぐ、俺。

「……………………ドちくしょう、……俺のいくじなし!」

 あれ、おかしいな、こんなに晴れてるのに、はははっ、頬が濡れて来やがるぜ、あははははは…………。



   *



 あのあと城を出た俺は、今度こそはと慎重に進み、とりあえず街に辿り着いていた。

 レンガ作りの家屋が並ぶ洒落た街並み。さすが城下町と言った感じで、住人以外にも行商人や兵士、あとは冒険者らしき姿などもある。ちっ、みんな高そうな武器装備してんなぁ。俺なんて未だに丸腰だぜ? ま、それはともかく、昼間の大通りは人々で賑わっていた。

 行き交う人波の中で立ち止まり、俺は思い出した。

 ――勇者よ、街に行き人々の話を聞けば、自身の使命も思い出すことだろう――。

 確かあのオッサン(王様)が言ってたっけな。

 まぁ、俺が勇者かどうかはこの際いったん置いといて。このままうろうろしてても何も始まらない。自らの道は自ら切り開くしかない。事態がよくわからないまま、終わってたまるかってンだ。

 グッと拳を握りしめた俺は、沸々とたぎる熱き血潮を感じていた。

 なんというか……、そう! 高鳴るこの胸の内が恐怖だったとしても、全身を奮い立たせるのは、いつだって勇気だ。進め!


   *


 ……で、

 結果が先の“それ”である。


 ちーん。※効果音。路頭でうなだれる俺の姿。


 は~~~ぁっと盛大に嘆息し、俺はその場にしゃがみ込んだ。

「使命ねぇ……、俺の使命って……なんなんだよ」

 コミュ障で引きこもりの妹を養うこと、それが俺の使命だったはずだ、これまでは。

「つぅかさ、言いたくはないけど俺だって人見知りだよ? 妹に負けず劣らず、大の人見知りなんだよ。そんな俺が、どぉやっていきなり赤の他人なんかに声を掛ければいいんだよぉ」

 そのまま呪詛するようにぶつぶつと続ける、俺。足元の雑草をぶちぶちと引き千切りながら。

「今まではさー、俺が妹の面倒見なきゃいけないから、頑張って来ただけでさー、職場の連中にぃ、あのヒト暗いね~とか、何考えてるかわかんないしキモくねーとか、陰でコソコソ言われててもさぁ、気にしないようにしてさー、我慢して働いたのによー。ったく、あいつは今どこで何してンのかなぁ」

「おにいちゃん」

「!」

 兄を呼ぶ声がして、不意に俺は顔を上げた。どこだ? あいつは、妹はどこにいる?

「お待たせ、おにいちゃん」

「おう、遅かったな」

 見れば、近くの店から飛び出して来た少女が、すぐそばに居た大柄の男の元へと駆け寄っていくところだった。

 待ち合わせか何かだろう。俺とは全く無関係のどこかの兄妹だ。

「よし行くぞ、早くしろ」

「もぉ、待ってよ、おにいちゃ~ん」

 男が大股で自分勝手に歩き出す。少女がそれに続いて行く。包みをふたつ、大事そうに抱えていた。

 俺は路肩に座り込んだまま、ぼんやりとそのやり取りを見届けた。

 まぁ、案の定だよ、違うとは思ったさ。俺の妹だとしたら人込みも苦手だから外出なんて滅多にしないからな。それにしても。ったく、なんなんだあの不愛想な野郎は。もう少し優しく接してやれよなぁ、兄として。

 そして俺は何気なくあの少女が出て来た店に視線を向ける。

 手書きの立て看板には本日のサービスランチの文字が。どうやら飲食店らしい。

 丁度ノドも乾いていたところだし、少し休憩でもするか。心も折れたし。

「すいませーん、とりまコーヒーひとつ~」

 早々に注文しながら俺は入店した。

 店内は狭く薄暗く、他の客はまばらだった。

 するとカウンター内に居た女性が、

「あら……………………、来たのね? 坊や」

 た~っぷり溜めた後で返し、ふーぅっと煙を吐き出した。細長い煙草を手にしている。

 ……え、なにこのヒト。店員、だよな?

 一瞬ためらった俺だが、とりあえずカウンター席に着く。

 その女性店員は背が高かった。

「それで……、今日は誰にするの?」

 見下ろされている俺は居心地が悪く、なんだか猫背になってしまう。

 気まずいのでさっさと注文してしまおう。

「あの、外の看板にあった本日のサービスランチ、それとコーヒーを……」

「そぉ…………いいわ。とびきりのを紹介したげる。待ってなさい、坊や」

 クセっ毛でボリュームのある髪を無理矢理ひとつに束ね、俺のことを坊や呼ばわりする謎の女性店員はカウンターの奥へと消えていった。

 ひとりになると、なんだか急に腹が減ってきた。……そういや俺、いつからご飯食べてないンだっけ?

 確か、あの時バイトから帰って来て、普段ならそのまま、ゆうはん。もとい、夕飯にするところだったんだけど、妹となんやかんやあって食べずに隕石直撃しちゃったからな。気付いたら勇者とか呼ばれて旅立たされるし、何でだか今は真っ昼間になってるし、あれから一体どれだけ時間経過したのかな。

 カウンターに額を付けて、もはやぐったりの俺である。

 ややあって。

「はっはっは、待たせたなッ!」

 いきなり現れたのは、半裸にマントのみを身に着けた、やたら筋肉質な男。

「え……アンタ、誰?」

「オレはこの辺りじゃちょいと名の知れた熱血ファイターだ!」

 なんか暑苦しいし。声がデカい。とにかくうるさい。

「どんな魔物でも任せとけ、はっはっはーッ!」

 やめろ! ポーズを取るな、飛び散る! 他のお客さんに迷惑だろ!

「それじゃ、がんばってね、勇者の坊や」

 どうやらこのマッチョ野郎、あの女性店員が店の奥から連れて来たらしい、けど、

「えッ? いや、注文と違うンすけど……、てか、俺のサービスランチは……?」

「さぁ、行こうか勇者さんよ! これからよろしくな。はっはっはー!」

「うわ! ちょ、おまっ放せ、どこへ行くってンだーッ?」

 マッチョに腕を取られ、そのまま俺はずるずると引きずられる!

「あ、そうそう。紹介料、頂いとくわね、坊や」

 てんいんは ゆうしゃのふところを あさった!

 ゆうしゃは きんかを うばわれた!

「はっはっはー、オレの代金は安くはないぞー!」

「うおおおーぃッ! こんなの絶対おかしいぜ! なんなんだよ、この店ーぇッ!」

 ゆうしゃのさけびが こだまする!



   *



 変だなぁ。

 街がどんどん遠くなるよ、あははは。

「もっと、こう、情報とか装備とか、整えるもんがあったんじゃないンすかね……」

 明らかに知識不足である。詳細が知りたいんじゃこっちは。誰か説明書持って来い!

 しかし能天気なのはマッチョ野郎。

「何言ってんだい勇者さん! この身ひとつで十分だろう、男なら。はっはっはー!」

 ポージングしながら歩くな。サイド・トライセプスからの流れるようなモスト・マスキュラーをやめろ。※ポーズ名

「あの、結構歩きましたけど、それで、どこへ向かっているンすかねぇ?」

 筋肉ファイターに連れられて、やって来たのは山奥だ。

「決まってるだろ~、魔物退治さ! オレたち勇者一行がやらなくて誰がやるってんだい? はっはっー」

「何がそんなに楽しいンすかね……」

 俺は何が悲しくてマッチョとふたり旅せにゃならんのだろうか。

「さぁ、着いたぞ~」

 え、まぢ? 展開、急じゃね?

 切り立った山の崖下には、ぽっかりと洞穴が。

「ここには凶暴な魔獣が居るんだ。いつしか奴はここに棲み付き、付近で人々を襲っていると報告がある。このまま野放しにするワケにはいかない。さぁ、勇者さん、我々のチカラで平和を取り戻すんだ!」

「いや、それよりも俺、丸腰なんだってば……?」

 ぞくり。

 イヤな予感が。

 なんと!

 モンスターが あらわれた!

 目の前の穴から唸り声と共に、狐のようなネズミのような顔した巨大な獣が這い出て来た。

 鋭い眼光、血塗られた牙、不気味な咆哮!

 見るからに獰猛そのものである。

「ストップストップ、すとおぉ~っぷッ! これ、序盤で戦う敵じゃないよね、絶対ッ!」

「ぐるるるる……ッ!」

 まじゅうの せんせいこうげき!

 せんしは ゆうしゃを かばった!

「危ないッ! 勇者さん! ぐあぁッ!」

 せんしに ちめいてきな ダメージ!

 巨体のくせに恐ろしい速さで飛び掛かって来た魔獣、もうダメだと思った瞬間、俺は庇われた。

 強烈な一撃をその背に受け、吹っ飛ばされた戦士に俺は駆け寄った。

「そんなッ? どうして、俺なんかを?」

「バカ野郎! キミは勇者なんだ……!」

「!」

 自慢の筋肉が敵わずにさぞ無念だろう、しかし最期の言葉を彼は振り絞った。

「こんなところでキミを死なせるワケにはいかない! 勇者たるキミは、すべての人々の希望なんだ!」

「いや……あのですねぇ、とっても素敵なお言葉ですけども、だったら来るの早すぎたんじゃないすかね。もうちょっと、なんていうの、こう、レベルアップしてから来るべきだったのでは?」

「はやく、キミだけでも、逃げるんだ……、ぐ、ぐふ……!」

 ばったり!

 せんしは こときれた!

「ええええーッ! い、いや~ぁ、無理じゃないすかね~ぇ、見かけによらず、すっげぇ素早いっすよ、コイツ。……ドちくしょう!」

 ゆうしゃは にげだした!

 しかし!

 まわりこまれた!

「ぐるるるる……ッ!」

 まじゅうの こうげき!

 はい、どーん!


 ゆうしゃは しんでしまった!


 てれれれ、てれれれ、てれれ~ん。※SE



「おお、なんということだ。死んでしまうとは情けない」

 悲しいかな、もはや聞き慣れた仰々しい声がして、俺は目覚めた。

 え~っと、まぁ、もう驚きはしないンだけどもさ……、

「さぁ、今一度立ち上がり、旅立つのだ――、勇者よ!」

「…………あれ? 俺、ひとり? あのマッチョ戦士さんは?」

「何を言っておる、ここにはそなただけしかおらぬぞ?」

「まぢで……ッ?」


 つづく!


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