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その2 転生したら勇者だった件。


「おお、なんということだ。死んでしまうとは情けない」

「え、なに? この偉そうなオッサンは……?」


 目覚めると俺は豪華な広間にいた。

 赤絨毯に跪き、目の前の玉座には厳格そうな初老の紳士。彼の頭上、王冠が光輝いていた。その地位を知らしめるために。

「さぁ、今一度立ち上がり、旅立つがよい、勇者よ!」

 紛れもなく君主。放たれる絶対の大義。

 しかし、俺は戸惑いを隠せない。

「……はっ? ゆ・う・しゃ……? え、誰が? ……へ? 俺ぇえええぇ……ッ?」

「どうした勇者よ。まさかこのまま、志半ばで、諦めてしまうと言うのか?」

 いつの日か、闇夜に怯える幼い俺を諭してくれた父親のように、優しく力強く、語り掛けられる言葉。

「確かに、そなたの行く先には多くの困難と強敵が待ち受けているだろう。しかし、皆の者がそなたを待っているのだ。そなたが訪れるのを。闇を払い、魔王を倒し、再びこの世に笑顔と平和をもたらすその時を。さぁ行け、旅立つのだ、勇者よ!」

「いやいやいやいや!」

 うん、ダメだ。いくら納得しようとも、全然理解出来ない。

 魔王? 勇者? どうして、俺が?

 そういえば俺って確か、隕石落下の衝撃を受けたはずじゃ……、

「ほらほら、どうした、何をぼさっとしておる? はよ行かぬか勇者よ。そんなとこで突っ立ってても何も起こらんぞ」

「いや、あのですね、なんつーか、こう、状況がよく分からないンすけど……てか俺が勇者って何かの間違いじゃないっすかね?」

 そもそも、死んでしまうとは~、とか言ってたっけこのオッサン。

 じゃぁ、なんでまだ生きてるの? 生き返ったの、俺? なんで?

 と、

「つーか、ここ、王の間だから。本来、お前のような身分の低~い下級貧困層の一般庶民が気安く立ち入って良い場所じゃねーから。とっとと出て行けよ勇者ってばよぉ」

「急に口が悪くなったッ?」

 察するにこのオッサン、王様だと思うけど、王に有るまじき口の悪さだッ!

「あ? なんか文句あんのか? ガタガタ抜かしてっと牢屋行きにすっぞ、コラ」

「アンタ、絶対ただの暴君だろッ? つーか、話を聞けって。俺は勇者なんかじゃない!」

 飲み込めない現状ではあるが、そのことだけは、はっきりしていた。

 俺は勇者なんかじゃないはずだ。

「…………。おい、大臣」

「はっ。いかがいたしましたか、王よ」

 今まで傍らで黙っていた別のオッサンが王様の前に出た。

 王様は大臣に問い掛けた。

「コイツさぁ、なんかキモいんだけど、こんな自己主張するヤツだったっけ? いつもならワシの話すら速攻スキップして一目散に飛び出してくのに、なんか変じゃね?」

「ふむ。どうやら死亡時のショック、その後遺症なのでは?」

「あ~、混乱したまま全滅したとか?」

「あるいは。いやはや、珍しいこともあるようですな。普段は打ち上げられた魚のような目をしているのですが、今のこの者からは確かな生気を感じられますぞ」

「おい、アンタら。よくわかんないけど、すっごい失礼なこと言ってるだろ、俺に対して」

 オッサンふたりに軽蔑の眼差しを送る俺。

 そんな俺に王様は、

「まぁ良い、勇者よ。城を出て街に行き人々の話を聞けば、自身の使命も思い出すことだろう。つーことで、さっさと旅立たんかーい」

 使命? 俺の使命って……あっ!

「いや、ちょ、待っ、俺の妹はどうなったんだ?」

「いもうと、だと?」

「あのコミュ障で年中引きこもり武器マニアの残念でアレな妹だけど、あいつは、たったひとりの俺の妹だ! 大事な家族なんだよ! 妹はどこへ行ったんだッ?」

 俺は叫んだ。

 なんで忘れていたんだ、ちくしょう。一番大切なことなのに!

 しかし、王様は冷たく言い放った。

「勇者よ。やはり混乱しているようだな。そなたは街はずれの孤児院育ちだと聞いておる。家族などはおらんはずなのだ」

「違う! 俺は妹と二人暮らしの日雇いアルバイター、俺はそう、いわゆる、ただの村人Aなんだ!」

 俺の叫びは虚しく響いた。

 ややあって。

 王様は玉座から立ち上がり、その場を去ろうとしている。

「…………者ども、こやつをつまみ出せ。ワシは疲れておる」

「はっ!」

「さぁ来い、こら、暴れるな!」

 兵士どもがやって来て、羽交い絞めにされた俺は、そのまま引きずられてしまう。

 だが、何度でも言ってやる!

 王の背に向けて俺は叫んだ。

「放せッ! 勇者なんかどうでもいい! 妹を返してくれーッ!」

「また会おう、勇者よ。そなたの活躍を期待しておるぞ……」

 俺を見ることも無く、それだけ言って王は消えていった。


 つづく!

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