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問)赤ちゃんはどこから来るの?

作者: 荒渠千峰




「ねえ、パパ」

「ははっ(裏声)。なんだい愚息よ」


日曜日の朝。

息子の大好きな戦隊モノのテレビを見ながらソファでゆったりと過ごしていた。

休みの日はとても心が安らぐ。誰にも気を使わなくていいし、奥さんもいまだに寝室でグースカピー状態なので久しぶりに息子とコミュニケーションでも取ろうという次第である。

おい、おいどうだ息子よぉ。スーパーヒーロー戦隊に憧れるのもええがよ、パパとキャッチボールだったりサッカーだったりキャッチボールだったりフリスビーだったりキャッチボー……etc。


「赤ちゃんはどうやってできるの?」

「はでゅわぁっ!!」


パパたまらずソファからブリッジダイブしちゃった。


「しょ、翔ちゃん。今なんて?」


どうか今の言葉が聞き間違いであってほしかった。ソファの後ろからそーっと顔を覗かせると、満面の笑みで息子が後ろを振り返っていた。


「だから、赤ちゃ――――」

「ままままままままま」


パパたまらずその場から駆け出してしまう。

リビングを抜けドタドタと二階へ上がり、寝室へと入る。


「まままママてぇへんだっ」

「なんだよ、朝から騒々しいな」


キングサイズベッドが部屋の半分近くを占めてしまったこの部屋も改装しなきゃとか考えつつも、いつも僕の隣で寝る彼女がむくりと起き上がり、ぼさぼさの髪を手櫛でかしながら眠そうにこちらを見やる。


「翔ちゃんが、翔ちゃんがついにアレを…………!」

「アレ?」


何のことかわからず首を掻きながら傾げるママ。


「ねぇパパ。ママ」


「「!」」


いつの間にか僕の後ろに翔ちゃんが立っていて、恐れをした僕はたまらずベッドに入り込む。あ、ふかふか。

翔ちゃんが無垢な顔をして一歩、また一歩ゆっくりと寝室へ足を踏み入れる。いつもは玉のようにコロコロと可愛い翔ちゃんがこの時だけはエクソシストに出てくる取り憑かれた少女みたいだった。


「赤ちゃんは、どうやってできる、のぉ?」

「「ひぃっ」」


僕とママはお互いの身を抱き寄せながら後方へと退き、二人ともベッドから転がり落ちた。






問)赤ちゃんはどうやってできるの?


テーレッ、テッテレーテー、テレンッ!


二人掛けのソファには僕とママ、反対側の一人掛けソファには息子の翔ちゃん。目をキラッキラに輝かせ、こちらを交互に見やる。


「なんでこんなことになってんだよ(ボソリ)」


ママは肘で僕を小突きながら小声で責めてくる。


「知らないよ、何の脈絡もなかったよ。爆弾発言だよ」


こういうのは神経が図太いママの出番だっ、と閃いたことが妙案と思ったのにそれこそ振り出しに戻された気分だよ。


「いや、遅かれ早かれコイツはこの質問を我々に問うただろう。それが今というだけの些末な問題よ」

「テンパりすぎて喋りが中世映画の吹き替えみたいになってるよママ」


今にもガハハと笑いだしそうなくらい、頬に汗を伝いながら目の前で手を組んでいる。

それと腹ぁ痛めて産んだ子にコイツとは、コイツとは。


「ねえ」


ビクンッ。

二人とも警戒心を露わにしてか、息子の挙動ひとつひとつに敏感に反応して肩が跳ねる。



「落ち着け、今の息子の言葉ひとつひとつが我らの叙勲に傷を付け給うぞ」

「ちょっとママ一回黙って」


叙勲って、国のために何かしたわけじゃないでしょうが。


「税を納めている!」

「なんで心の声が聞こえてるんだよ!!」


もうてんやわんやだぁ。


ひとえに愛さ」

「もうだめだ戦力外通告だあんた」


だったら息子一人くらい説き伏せてみろって話だよ。

その肝心の翔ちゃんは僕らのみっともないやりとりをただ黙ってジッと見ている。せめて何かリアクションをしてくれないとこっちも切り出しづらいのだけれど。


「赤ちゃんがどうやってできるかわからないの?」


翔ちゃんが困った表情をしながら、きれいに座りなおす。あらお行儀のよい子。

ここで、わからないと答えてしまえば恐らく、この悪夢のような時間からは解放されるのではないだろうか。そうだ、子どもにはまだ早いということにしてこの長い人生を生きていくうえで自然と身についていけば、それだけでよいのではないだろうか。


「なあ翔ちゃん、赤ちゃんはコウノトリさんが連れてきてくれるんだ」


ここで戦力外通告したはずのママがあたふたしながら返答した。


「余計なことを……、いやしかしグッジョブだママ」


子どもに聞かれて困る質問、その返しであるコウノトリ。なんとも王道で捻りも何もないだろうけれど、そこはやはり王道の風格。数多の子どもを退いてきたこの魔法の言葉で翔ちゃんもイチコロ間違いない。


「へぇ、コウノトリってどんな鳥なの?」


ここで翔ちゃんの興味の対象が子どもを作るカテゴリーからコウノトリ様にシフトチェンジ。

ふ、やはり所詮は子ども。目の前にいくつも興味の対象を並べればいずれ本来の目的も消失してしまうに違いない。


「鶴みたいだけど鶴より汚い鳥だな!」


いやママ説明が大雑把!

翔ちゃんが興味なくしたらどうするの。


「えー、じゃあボクは鳥さんの子どもなの?」


あ、興味失せてない。翔ちゃんチョロい。チョロすぎる。


「はっはっは。もしそうだったらどうする?」


気分を良くした僕は翔ちゃんにちょっとだけ意地悪な質問をしてみる。

今朝の度肝を抜かれた仕返しだ。


「でもコウノトリさんは最初から赤ちゃんを持っていたわけじゃないよね?」


翔ちゃんの発言がまるでマグナムリボルバーに込められた弾丸の如く、放たれた。

撃たれて倒れた僕に代わって何かを思いついたようにママがポンと手を打つ。


「それはコウノトリたちがセック――――」

「ストォーーーップ!!」


ママの口から発せられた失言を生き返った僕がすんでのところで口を抑えて食い止める。


「もう言うしかないだろ洗いざらい! それで翔ちゃんの教養になるなら本望だろうが」

「子どもに口で押し負けてどうするんだよ、ここは親としてまだ夢を見させておきたいところでしょうが」


暴れるママを必死で押さえ、制する。


「せっく……なに?」


翔ちゃんがママの言いかけた言葉を復唱して、あまつさえその先を知ろうとする。子どもの好奇心って恐ろしい!


「ほらもう、ほとんど覚えちゃったじゃないか。どうするんだよ」

「だってよ、別にやましいことなんてこれっぽっちもないだろう?」

「それは、そうだけど」


だけど翔ちゃんはまだ小学校にあがって間もない。言葉の使い分けを知らない子どもはまさしく歩くスピーカー、動くSNS、無慈悲な拡散希望なのだ。もし近所でこの話を翔ちゃんがしたならば、さらに一緒に居るタイミングでされたら気まずいことこの上ない。

学校で浮いた存在になってそれこそ虐められたりするかもしれない。

父親の威厳、母親の誇り…………はほとんど崩れ去っているようなものだけれど、まぁそれらを守り通さねばだ。


「そ、そうだ節句せっく端午たんごの節句ってママは言いたかったんだ。五月五日は鯉のぼりや兜を飾ったりするだろ? 翔ちゃんの小さい頃はおじいちゃんおばあちゃんが買ってくれてなぁ」


うんうんと頷く僕に対して翔ちゃんは目を細めてこちらを伺っている。


「なんだよ、その話の逸らし方」


舌打ちをするように呟くママの脇腹の肉をつまむ。


「た、わっ!」


だ・れ・の・せ・い・だ・?

笑顔でママを威圧する。

ふん、と拗ねてソファとセットで購入していたクッションを膝に抱え顔をうずめる。


「ふぅ、けっきょくコウノトリは何をして赤ちゃんを生み出すの?」


半ば呆れ気味に、尋ねてくる。呆れてるのならそのまま飽きてほしいと心の底から思っていたのだけれど、そうは問屋が卸さない。ビバ探求心。


「何をするというか、ナニをするというか」

「うまくねぇ」


クッションに顔をうずめたまま、籠った声でツッコまれ顔が赤くなる。


「ちょっと貸して」

「あ、ちょっ」


恥ずかしさから僕はママのクッションを奪い取り顔をうずめる。


「さて、次は母さんのターンかな。ボクを楽しませてくれるといいけど」

「か、母さん!?」


息子、翔ちゃんの雰囲気ががらりと変わったのを僕はクッションと前髪の隙間から見逃さなかった。


「ねえ母さん、説明してよ。人間もそうだしコウノトリだってそうだ。無から有なんて生み出せない。必ず何かがそこにはあるんだよ。もし何もなくて生み出せるのならそれは神と同等だ。さあ教えてくれよ、生命の神秘ってやつをよぉ!」


カッと目を見開いた翔ちゃんはまるでマッドサイエンティスト、非常にクレイジーな存在へと変貌していったわけだ。


「なんかこの子私の時だけアタリ強くない!?」

「激しく同意」


コクコクと頷きながら息子から目をそらすパパでした。


「あ、そうだ。パパとママはね、愛し合ってたから翔ちゃんが生まれたんだぜ」


ん~ナイス答弁。GJママ!

だが、


「愛なんて不確定要素でボクを語るなっ!!」


翔ちゃん何故かブチギレ。挙句テーブルをバンバンと叩いてビッとママを指さした。


「は、反抗期だ。しかしあまりに早すぎる、音もなくやってきたそれはまるでリニア新幹線の如く!」


狼狽するママはなんのこっちゃだけど、こればかりはさすがに見過ごすわけにはいかない。


「こら、ママを指さしちゃいけません! あと机を叩かない!」


クッションから顔を上げてジッと翔ちゃんを睨んだ。


「はん、甘いわねパパ。そんなことで反抗期翔ちゃんが止まるわけが――――――」

「はい、ごめんなさいパパ」


素直に頭を下げて謝った。


「何この落差! いつの間にカーストてっぺんから最下位にまで落ちたんだ!?」


ママが頭を抱えながらダウン。再起不能。


「おーよしよし、昼飯はママの好きなピザの出前でも取ろうなぁ」


ママの頭を撫でながら、今一度翔ちゃんを見やる。


「いったいこの子に何があったというんだ」


もうここで意地を張るのをやめて、洗いざらい話すしかないのだろうか。知恵袋に聞いたところで返事がすぐに帰ってくるわけじゃないし。

うーむ。


「よし、コウノトリが連れてくるって話は無かったことにしよ、本当のこと話すから」


そう、何も人間的観点で語る必要性はないのだ。今までのやりとりでハッキリしたけど翔ちゃんが知りたいのはあくまで生命の誕生という部分だ。それなら別の言葉で語ればよいだけの話ぞ。


「本当のこと? 今までの話はウソだと、パパはそう言いたいわけだね?」

「え、あ。あーっと、うん」


翔ちゃんの言い草だと、なんだか今まで良かれと思って伏せていたことがとても悪いみたいに思えてくる。そんなに言われるようなウソ吐いたっけ?


「大人っていつも嘘ついてばかりだ」

「う」


翔ちゃんのボヤキが僕の胸にグサッと刺さる。


「学校の先生も、政治家も、公務員も、親にまでウソ吐かれたらボクはいったい何を信じればいいのさ!」

「ほ、本当にこの子にいったい何があったんだ?」

「激しく同意」


いつの間にかクッションを再び奪い返していたママが籠った声で頷く。

うるせ、パパのネタ取るな!


「でもな翔ちゃん。愛が無ければ翔ちゃんはこの世に生まれて来なかったかもしれないんだよ?」

「みんな不倫してるのに?」


ぐふっ。

生粋のテレビっ子はニュースまでもご存知であったか。


「みんながみんな不倫しているわけじゃないよ? パパとママみたいなおしどり夫婦だってたくさん居るからね!」


僕はキラッと白い歯を見せつけてママを抱き寄せ親指をグッと立てる。

おい、クッションから顔上げろ。独りよがりみたいだろうが。


「ねえ、知ってる?」


翔ちゃんは眉根を寄せて困った顔をしながら問う。なぜか嫌に目が潤んでいる。


「はい?」

「オシドリって冬が来るたびにパートナーを変えているらしいよ」

「マメ〇バせんせっ!!」


心の吐血をしながら僕はソファにぐったりとダウンした。


「お前が論破されたら私に勝ち目ないだろうがっ」


そしてすかさず涙目のママから首チョップをされる。威力は抑えてあるだろうけどそれでも痛し。いと痛し。


「不倫だってひとつの愛だ。それは認めるよ翔ちゃん」


顔の筋肉が引きりながらも僕はなんとか態勢を立て直そうと試みる。


「認める!? おま、不倫してるのかよ!」

「否、断じて違う! それは違うぞォッ!!」


またあらぬ方向に話が展開しそうだったので、出る杭は早めに打ち付ける。

叫びながら立ち上がり翔ちゃんの両肩に手を優しく置いた。


「一人の人間が一人をずっと愛し続けるってことは、それだけ難しいってことなんだ。でも、だからってほかの人を愛することがダメという話じゃあない。手順を間違えることが不倫なんだよ。今の愛に区切りをつけてから、次に進む分には無問題もうまんたい


僕の説得がようやく鋼のような心を持った翔ちゃんに届いてくれたのか、「おー」と感嘆な声を漏らす。ママからの疑いの眼差しは背中越しでも留まるところを知らず、チリチリと後頭部が焼けそうな思いになったことは心のうちだけに仕舞っておこう。


「愛という不確かなものでさえも信じられる人間は素晴らしいってことは今ので分かったよ」

「まじかよ!」


翔ちゃんの驚くべき一言に僕よりも先にママが悲鳴を上げる。前のめりにまでなっている。いや、確かに子どもの理解力、記憶力というのは時として空のスポンジに水を含むかのように吸収していくことがあるらしい。

いやそれにしても凄まじい気がする。親バカ云々を抜かしてマジでこの子は将来有望な気がする。パパ鼻高さんだ。


「しかし、ボクが知りたいことはその先にあるんだよ。あなたたちはまだその真髄については未だに何も語っちゃいないだろう?」

「う、しぶとい」


というか、そこまでして知りたいものなのかい? 普通の子ならもう諦めがついてもいい頃合いなんじゃあないのかい?


「よし! 分かった。そこまで言うなら教えよう」


僕は覚悟を決めて今一度ソファに座りなおす。


「おい、いいのかよ」


不安そうにママが僕の裾を引っ張る。


「任せて。今から例えるのは人ではなく、花だからだ」

「花?」


要は人間じゃなければいいんだ。

人で言うところの妊娠を植物における受粉だと教え込めば、あとは翔ちゃんが勝手に脳内変換して納得してくれるのではないだろうかという、無作為な期待を込めるしかもう僕には残されてはいない。


「花はどうやって種子を残すか知ってるかい?」


僕はやわらかい声音で息子に微笑みかけた。


「受粉くらい知ってるよ、バカにすんな!」


罵倒された。というか既にご存知だった。


「パパがおしべで、ママがめしべだと仮定したときに疑問が生じるんだよ。だってパパは花粉を出せるわけじゃないでしょ? 仮に出せたとしたら周りの女性とかみんな孕ませちゃうよ」

「なんか喋りがいやにスムーズだね!?」


実は赤ちゃんがどうやってできるのか知ってるんじゃない?

パパとママを試してるんじゃない?


「そうだ、ワンちゃ…………。動物の出産するところの動画とか見せたらどうだろうか!」


お、ママが珍しくミラクルな提案をしてきたよ。そして何か顔が少し赤いよ、お酒飲んだかな?

僕は書斎から仕事で使っているタブレットPCを持ってくる。電源を点けてインターネットに接続し、無難なペットの出産動画を調べてみる。


「ほら猫ちゃんとワンちゃんとあるぞーん」

「ネコ!」「ワンちゃん!!」


ママの言うことはとりあえず無視して翔ちゃんの言うネコの出産動画を再生させる。その間にママから頭頂部にチョップをかまされる。


「へー」


画面に釘付けになっている翔ちゃんを横目で見て、僕は手ごたえを感じていた。そうだよ、最初からこういうのを見せておけば今までの不毛な争いも行わずに済んだんだ。

こうした日曜日に家族でネコちゃんの動画を見る。なんとほのぼのした一日だろうか。僕はこの時の高ぶった感情とともにママの顔を見る。

ママもまた僕の顔を見て頷いた。

僕が指を二本立てて、ジェスチャーする。

顔を赤くしたママがゆっくりと頭を縦に振る。パパガッツポーズ!


「ほらみて、おっぱい吸ってる」


翔ちゃんの呼びかけにパパとママは再びPC画面のほうを見る。


「ああ、そうだな」

「ところでこれって産まれる過程だよね」

「ああ、そうだな」

「作る過程は?」

「ああ、そうだな」


抜け目のなさが恐ろしい。

パパなんだか涙が出てきたよ。









その日の夜。


「な、ママ。いいだろ? 先っちょだけ先っちょだけ」


暗がりの寝室にて。

キングサイズベッドに二人。


「いやお前ガッツリ入れるだろうが。っていうか翔ちゃんは寝たのかよ」


背を向けていたママをこちらへ振り向かせ、お互いの頭をくっつける。顔が近くて、鼻息が当たるくらいの距離までその差は縮まる。


「ああ、部屋の灯りが消えてたからね。今日はいろんな意味でお互い疲れたからぐっすりだろう」

「それでもお前は元気なのな」


侮蔑のような眼差しを向けられている気がするけれど、暗闇だから気のせいだよね?


「電気点けていい?」

「恥ずかしいから嫌だ」

「そ」


僕はママのおでこに口付けをする。


「今日は激しくすんなよ」

「どうかな、ママ可愛いから」

「くそったれ」


罵声を浴びせつつも今着ている寝間着を脱いで、僕の背に手を回して抱きしめてくる。次いでパパも上半身だけ裸になる。

パッパいっきまーす!!


「みなさん、いかがだったでしょうか」

「「わぁあああ!!」」


突如、電気が点いてあたりは明るく照らされる。二人して咄嗟にシーツで肌を隠す。

そして何故か翔ちゃんが寝室の中に居た。さらに僕らに背を向けてどこかへ語り掛けている。


「子どもとは好奇心の塊であり、時に残酷な質問を大人に向けると思います」

「ちょ、ちょっと翔ちゃん? 誰に話しかけているの? パパのグラサンなんか掛けて」

「親として子どもにどう向き合ったらいいのか、まずは子どもの目線に立ってみるのも、またいいかもしれませんね」


世にも奇妙なBGMが聞こえてきそうで嫌なんだけど、翔ちゃんのテンションが。


「始まりは少年が夜中トイレに起きたときであった。寝室から何やら声が、女性の甲高い声である。そこで寝室をこっそり覗いた少年はひとつの疑問を抱きます。パパとママが裸でアームレスリングを? と」

「よくそこでアームレスリングっていう選択肢が頭に浮かんだな!」


ママが声を荒げるが布団に籠って迫力に欠ける。


「翔ちゃん、まさか」

「この情報社会において、少年が答えを知るのは簡単だったんです。でも敢えて無知なフリをした。それは、今こうして決定的な現場を抑えたかったからなのです」


翔ちゃんは瞼を閉じたまま、ゆっくりと首を横に振りながら答えた。


「やっぱり知っていたんだね」

「父さん、ボクはあなたたち二人に遠慮してほしくなかったんだ。いつも仕事で家族三人のスキンシップは夜の間だけ、夜中にしか二人の時間が取れないなんて、そんなの悲しすぎる」


翔ちゃんの目から涙が零れ落ちた。


「しょ、翔ちゃん」


僕は、僕はベッドから降りていつの間にか息子を抱きしめていた。


「あ、ちょ。半裸とかまぢむり」


途端、息子にすごい顔で拒絶された。

なんだか泣き崩れそう。


「いや、お前ら明日学校と仕事だろうがいい加減に寝ろよ!」


とうとう親子のやりとりに我慢の限界が来たのか、ママもベッドから降りてきて僕と翔ちゃんを引き離した。するとママの姿を見た翔ちゃんがキングサイズベッドに近寄りシーツを手に取る。

ひとりの少年が(翔ちゃん)、緋のマントならぬ純白のシーツをママに捧げた。ママは、まごついた。佳きパパは、気をきかせて教えてやった。


「ママ、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのシーツを着るがいい。この可愛い息子さんは、ママの裸体を晒されるのが、たまらなく口惜しいのだ」


ママは、ひどく赤面した。







おわり





「いやなんで最後走れメロスなんだよ!!」


ママは激怒した。








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― 新着の感想 ―
[良い点] いやもうただただ笑いました。シュールすぎます。
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