異能と放射性廃棄物との可能性
研究室に二人の男女がいた。
女は何でもない様子で男に話しかける。
「なあ」
男はレポートから目を離さずに応える。
「なに」
女はそのことに不満を感じつつも、続けた。
「私ってさ、マッドサイエンティストじゃん」
「そうだね」
彼女はマッドサイエンティストなのだ。
「それでお前はさ、再生能力持ってるじゃん」
「そうだね」
彼は周囲のものを取りこんで、すぐに傷を塞いでしまうのだ。
「私な、エネルギー問題を解決する手段を思いついたわけよ」
「へえ」
男はレポート用紙を見つめている。
女はレポート用紙を取り上げた。
「話を聞け」
「ああ、あと少しで終わるところだったのに」
「こんなものより有益な話がある」
そう言って彼女はレポート用紙をシュレッダーにかける。
「ああ、俺のレポートが」
「でな、その方法ってのがな、これまた画期的なんだよ」
女は説明を始めた。
「私はマッドサイエンティストだからな、なんと、人間の質量を余すことなくエネルギーに変換できる技術を発明している」
「E=mc^2」
「そう、それだ。つまり社会が人殺しを認めれば、私は一躍エネルギー王だ」
「でもダメでしょ」
「そこでお前が登場する」
女は得意げだった。
「お前の異能を活用すれば、ほぼほぼの問題は解決できるんだ」
「なんだか話が読めてきたぞ」
男は投げやりな表情で天井を仰ぎ見た。
「つまり、あれだ。俺の質量をエネルギーに変換して、俺は持ち前の異能で回復するってことか」
「その通りだ。しかも、これだけでも運用に踏み切る価値はあるだろうが、副次効果も望めるぞ」
「どんなの」
「これのすごいところはな、燃料は何でもいいってことなんだよ。質量があるならば、それはもうなんでも」
「それって、色々と大丈夫なの」
女は一瞬、顔をしかめた。
「大丈夫だ」
「ええ、ホントかなあ」
「いいから、いいから。室長から許可は貰ったんだから、ささっと済ませよーぜ」
「うーん」
男は耳を引っ張られながら、嫌々、実験場に連れていかれた。
◇
「準備オッケーなら右手を上げろ」
「あいあい」
男は軽い返事をして、どっちが右なのか分からなくなった。
しょうがないので両手を上げる。
「よーし。それじゃあ行くぞー」
「おー」
男が万歳のポーズをしていたら、下半身がドロドロに溶ける。
痛みは不思議となかった。
「案外、痛くない」
「そりゃマッドサイエンティストとしての矜持があるからな」
何を隠そう、彼女はマッドサイエンティストなのだ。
「暑くないかな」
「私はとても熱いと思うぞ」
その言葉を皮切りに、実験場が爆発した。
余談ではあるが、広島に落下した核爆弾のエネルギーは、質量換算で1gにも満たないらしい。
つまり、人体をそのままエネルギーにするのだから、世界は滅亡した。
◇
女が男を抱きしめている。
爆発することを知っていて、彼女は準備していたので、平気なのだ。
「ぐへへ、これで私たちを邪魔する上司はいないんだ」
「…………」
辺りは荒野だった。
こうするのが女の夢だった。
「私たちが新世界のアダムとイヴになるんだぜ、ぐへっへ」
「…………」
「まあ、計算が狂ってる部分もあるんだが」
女は男に頬ずりをする。
「まさか、お前の意識が宇宙と同化するなんて思わなんだ」
「…………」
そう、男はエネルギーと化した質量を補うために、宇宙と同化してしまったのだ。
それでなんやかんやスピリチュアルなエクスタシーで意識が肉体から飛び出した。
つまり、だ。
「私はお前に包まれてるんだなあ。ああ、とっても暖かい心地がするよ」
「…………」
HAPPY END――――FIN.