表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

Phase.7 ダイヤの送り主は

「そのダイヤはオークションに出てるわねえ。二か月前、五万ドルで落札されてる」

 かたかたと我が事務所で自前のモバイルを操るアネット・モンテローズ。サイバーに強いスパイは、これだから話が早い。

「誰が買ったのか、分かるかい?」

「一般人よ。クレジットカードの記録から、特定してみる」

「違法行為なんじゃないですか、スクワーロウさん…」

 コーヒーを持ってきたクレアが心配そうにこぼすが、これぞスパイと言うものだ。開けているのはうちのパソコンじゃないし、大丈夫だろう。

「…なんか危ないやつね。こいつ、仮想通貨で違法武器も買ってるわよ」

 シャム猫は途端に眉をひそめて声を上げた。

「いかれたやつだ。僕のダイヤで、何をするつもりなんだ?」

「名前は分かるか。犯罪者か何かかな」

「お安い御用。すぐに教えてあげる」

 シャム猫は、青い目をきらめかせた。

「名前はオークリー・ゴードン。ありふれた名前ね」

 私もクレアも、名前だけでは気づかなかった。顔と名前が上手く、つながらなかったのだ。

「SNSにアカウントがある。顔が出るわよ」

 シャム猫は、そのサイトにつなげた。男の顔が出た瞬間、私とクレアは、思わず声を上げた。

「あの会計士だ…!」

 少し前、バーニーと酒場で飲んだあの観光客である。三か月前、引退したと聞いていたが、ベガスには本当に観光で来ていたのだろうか。あの様子から見ても、彼が不穏な動機をもって現れたとは到底思えない。

「なんだよ、知り合いか?」

「少しね。…連絡先を聞いておくんだったよ」

 アネットが出してくれたリストをみるにつけ、彼はすでに武器を手にしているはずだ。ありえないと思いつつ私は念のため、聞いてみた。

「まさか、居場所は…?分からないよな」

「分かるわよ。スマホが変わってなきゃね」

 アネットはあっさりと、スマホのGPSをハッキングしてみせた。

「ホテルね。この近くだと思う」

 私は所在を確かめた。ゴールデンビーバー。サラのステージがある会場のすぐ近くのホテルだ。


 ホテルへ向かうと同時に、私はダド・フレンジーに緊急手配を頼んだ。

『オークリー・ゴードンは、失踪届が出ていたぞ』

 大量の武器を所持していると聞いて、ダドも声色が上ずっていた。

『三か月前、ニャーヨークの自宅から急にいなくなったそうだ』

 通報したのは、様子をみにきた娘だと言う。すでに妻に先立たれ、一人暮らしが長かった、と言うのだ。

「仕事を辞めた日に、退職したんだな」

「彼もまた、新しい人生か」

 ジェイムズは肩をすくめたが、笑い事じゃない。

「そうだな。笑ってられないな。アニーによると、武器はこのベガスで受け渡しを行っている」


 春先の冷たい風が吹きすさぶ中、ゴールデンビーバー周辺は、コンサートの客でごった返している。

「果たしてパトカーが間に合うでしょうか?」

 ホテルにたどり着く前、クレアはフロントに電話して急ぎ、該当客を探してもらっている。

「恐らく、サラのコンサートで何かする気だ」

 ダイヤの贈り物を無視された腹いせだ。つくづく思うが、なぜ気づかなかったのか。

「まさか電話を置いて、もう会場に入ってるってことはないよな?」

 ジェイムズの言葉に、私は一瞬固まった。コンサートテロなら、最悪の事態を想定しなくちゃならない。

「コンサート会場には、武装で入れないわ。同時多発テロ事件以降、セキュリティが強化されたから」

 アネットの推理は正しい。オークリーが買った銃火器は、ハンドガンだけじゃない。身体に身に着けて隠しおおせる類のものではなかったのだ。

「…ライフルには、銃身を固定するサイドパーツの注文もあったな」

 そこで私はぴんと来た。射程距離から考えても、銃撃を行うのはコンサート会場ではなくて、どこか近隣の建物からだ。

「スクワーロウさん、部屋が分かりました!何日も前から、大きな荷物を持ち込んだ、オークリーらしい客が逗留しているらしいです」

 私は部屋割りを聞いた。どんぴしゃだった。その部屋からなら、コンサート会場すべてが見渡せる。

「サラが出るぞ」

 ジェイムズがワンセグの映像を、見せてくる。サラがステージに立つ。もう一刻の余裕もない。

「私が責任を持つ。警察を待たずに乗り込もう」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ