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Phase.6 華麗なる転身

 そろそろ街に入ろうかと言うところだった。あまりに無茶な強行軍で車がいかれてしまい、インターチェンジに入ることを余儀なくされた。つくづく貧乏事務所は切ない。

「ちっ、こんなときに…」

 ぶつくさ言いながら、私がスタンドで買った部品を交換しているときだ。

「あら故障?」

 真横に絵に描いたような高級車が停まった。まさかと思って顔を上げると、運転席にどこかでみたシャム猫がほほ笑んでいる。

「お前は、アネット・モンテローズ!?」

 シャム猫は妖艶(ようえん)に青い目をきらめかせた。

「よくご存じね、探偵さん。優秀なのねえ?」

「動くな」

 すると背後から男の声。背中に銃が突きつけられている。私は両手を頭の上に、乗せた。

「そうか、じいさんもグルだったんだな…」

「まあ、そう言うことだ。スクワーロウ、久しぶりだな」

 それはある意味で、懐かしい気配だった。じいさんがジェイムズから報酬を得た、と推理が立った時点で気づくべきだった。

「あのじいさんは、警報装置だ。あんたの秘密に気付いたものが触れると、あんたに急報が入る」

「そんなところだ。…てゆうかまあ、その予定だったんだけど」

 予想外の展開だった。まさかここで、やつに捕まるとは。スタンドのラジオではまだ、サラの曲が流れている。私は爆弾に触れる想いで尋ねた。

「ジェイムズ、君は何を企んでる?」

「ジェイムズなんて名前はよしてくれ兄弟。今は、アレン・マジキーンだ」

 兄弟?

「すっとんだ変名だな。スパイにでもなったのか?」

 私が死を覚悟しながらも軽口を飛ばすと、相手は、素っ頓狂な声を上げた。

「えっ…なんで分かったの?僕がスパイになったって」

 思わず私は背後を振り返った。そして唖然とした。そこには、金ぴかこってこてのタキシードに身を包んだ、勘違いなジェイムズがいたからだ。


「いやーアニーとはさー、ネットの婚活サイトで知り合って!親しくなったらCNA(シーニャイエー)のスパイだって言うから、びっくりして!」

「それで君もスパイになった、と言う発想は出てこなかったな」

「そうそう!あなたには才能がある!って言われちゃってさあ!」

「最高よ、アレンは!」

 と、仲睦まじく抱き合うスパイのバカップル。勘弁してくれ。

 そこからは苦痛でしかない時間だった。車で拾ってもらったはいいがずうっと、ジェイムズのくだらないのろけ話を聞かされたからだ。

「僕は色んな女性と浮名を流したけど、本当は分かってたんだ。結局は、親父の力でモテてたってことに。でもアニーは違った。いつでも、本当の僕を見てくれた。僕にまったく新しい世界を見せてくれたんだ!」

 ジェイムズは、何か変な薬でもやってるんじゃないかと思うくらいの、ぶっ飛びようだった。まあ、元気そうだし、それはそれでいいんだけども。

「じゃあ、ガンだって言うのも嘘だったのか?」

「うん。ぜーんぶ嘘だよ!二人で色々工作してね、ジェイムズ・ダーヴァニーを葬ったんだ。シモンズじいさんも納得してくれたし、一件落着!」

 どこが落着だ。ったく、スパイになりたいなら普通に公務員試験でも受けろ。

「それじゃスパイっぽくないじゃないか。いやあ、でもスクワーロウ、君が初めてだよ。僕の事件をこれだけ掘り下げてくれるなんて」

 本人は気付いてほしくてしょうがなかったわけだ。そこでシモンズに連絡係までやらせて気づくやつを気長に待っていたと言うわけだ。私だってこんな機会でもない限り、気づくわけない。みんな、別の仕事で忙しいんだぞ。

「じゃあ改めて、連絡先交換しようか!気づいた人には、教えてあげることにしてたんだ」

「分かった。それはそれでありがたい。でも、とりあえず私の質問に答えてくれないか」

「ああ、いいよ。なんだい?」

 ジェイムズは目を丸くした。

「君は、サラに惚れてたよな。尋常じゃないアプローチまでしてた」

「あー、あったよなあそんなこと。若気の至りさ」

「じゃあもう、サラに未練はないんだな?」

「よしてくれ。サラは芸能人として、個人的に応援してるよ。新曲もダウンロードしたし。別にいいんじゃない、がんばれば。てゆうか僕、今はアニーしか見えない!」

「あなた最高よアレン!」

 私は心底呆れた。ひっぱたいてやろうかと思った。だが考えてみれば、これで落着と言うわけだ。ジェイムズはジェイムズでなくなり、サラに関する個人的感情は、みじんも残ってない。地獄の果てまでつきまとってやると言ったのは、いったい誰なんだ。

「と、なると、じゃあ誰なんだ。君のダイヤをサラに贈ったのは…?」

「ダイヤ?」

 ジェイムズは、怪訝そうに眉をひそめた。

「僕はそんなことしてないな!プレゼントがあればみーんな、アニーに贈るよ」

「それは分かってる。と、言うことは贈ったのは、別の誰か、と言うことになるが…」

 私とジェイムズは、顔を見合わせた。





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