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そして彼は【悪】になる  作者: 徹夜明け午後3時半の憂鬱
序章 【悪】が生まれた時
9/22

【夢】と傷痕

語彙力が足りない。

【忘れるな】


 声が聞こえた。ブラッホールみたいに黒く、深いところから俺に忠告する声。どこか懐かしさを感じさせられる声。


【お前を望んだものはお前を置いて消えていく】


 知ってる。何回もそうだった。父さんも母さんも師匠だった老人も、俺を置いて先に死んでいった。


【お前は生涯孤独であるのだ】


 知ってる。それでも変わらず俺のそばにいてくれた人たちに手を伸ばす。それしか知らないから。


【救えども助けども、お前が報われることはない。されど、足掻かねば責められるのはお前だ】


 知ってるよ。もう、何回も聞いた。何回も見た。大切な人が目の前で死ぬのも、護るべき友が目の前で殺されるのも、数え切れないくらい見てきた。それに、お前は何度も俺に言うじゃないか。忘れるなと。鎖のように俺をいましめる。


【足掻き続けろ!もがき続けろ‼︎お前の苦しみは永劫であり、それこそがお前の根源である‼︎】


 もう聞き飽きたよ。お前は何時も同じ事しか言わない。代わり映えのないつまらない存在だ。

 だからもうやめてくれ。わかってるから、聞き飽きるほど聞いてきたから、この後に起こることなんて無くなってしまえばいい。


【夢忘れるな。貴様が望んだ人間は必ず不幸になる】


 パッと光景が切り替わる。この夢と同じように何度も見た光景、嫌になるほどの哀しみの記憶。

 装甲を施された車とそれに乗り、ライフルを構える男たち、逃げようと必死に足掻く12〜15歳の子供達。そして植物で作られた様な異形の怪物。


 守りたかったもの、守れなかった友人、ああ、お前は本当に悪趣味だよな。俺を苦しめて楽しんでいる。

 ライフルで撃たれ、苦痛を顔を歪める少女、怪物に捕まり、涙目でもがく少年。

 そしてそれを見て俺はーー


【お前はもう、人では無いのだから】


 大層愉快だと言わんばかりの笑い声が聞こえた。


 ***


 嫌な夢を見た。


 自分が人とかけ離れたモノになったと理解したのは、中東の内戦に巻き込まれた時だった。俺はそこに魔物と呼ばれる異形を使役する、魔物使いと呼ばれる人間を探しに行った。

 当時まだ13だった俺は多くのものを知った。初めて知る戦争。相容れない思想の成り果て、初めて知った本物の飢え。鼻から離れない血と硝煙と腐肉の匂い。

 俺はそこで数人の少年少女と出会った。彼らは地獄の様な世界で銃を握って戦っていた。生きるために、家族を守る為に。俺は彼らと行動を共にした。誰かを守る為に戦うのは俺の願うところだったから。


 そして彼らと過ごして1週間が経った時、彼らは死んだ。

 夢で見た様に魔物使いの魔物に襲われたり、敵対勢力の奴に殺されたりと過程は色々だったが、最後にはみんな死んだ。俺の目の前で。俺は1人だけ()()()()()()。死ねなかった。

 鉛玉を心臓にたらふく食らわせられ、魔物に半身を喰われたのに、俺は無事だった。

 俺が敵を殺しきるまで、俺は殺され続けていたのにだ。


「イツキ様?」


 隣のベッドで寝ていたリリアが目を覚ました。


「泣いているのですか?」


 この夢を見た後は必ず俺は泣いている。痛みや傷を思い出してか、それとも彼等の死を慈しんでかは俺自身分からない。ただ、そうなるのが自然だとでも言うように涙が流れるのだ。


「ちょっと嫌な夢を見ただけだ」


 懐かしい、哀しい夢だ。救えなかった友、彼らは最後まで気高く美しかった。


「我々は」


 リリアさんが唐突に口を開いた。どこか決意を感じさせる瞳だ。


「私はイツキ様の側に居ます。もしも世界が貴方を殺そうとしても、私は貴方の側に居ます。今決めました」


 ああ、そうか彼女は夢魔だった。俺の夢を見せてしまったのかもしれない。どこまでも暗い場所で、何処までも地獄の様な場所で、確かに生きていた友と俺。

 最期には死に別れてしまったが、俺たちは確かにそこにいて、確かに家族だった。


「私だけではありません。これから生まれてくる神造女神、それにバルトフェルド卿に魔王様。彼等も貴方の事を大切だと思うことでしょう」


 随分と心配させてしまった。


「ありがとう」


 なんで魔王配下はクズが居ないのだろうか、これじゃあこっちに肩入れしたくなるに決まっているじゃないか。


「それでは朝食に向かいましょうか。確か宿の隣で食堂が経営されていたはずです」


 平常運転に戻ったリリアが部屋を出た。俺も身体に力が馴染んだのを確認し、その後を追いかけ、宿屋を後にした。

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