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そして彼は【悪】になる  作者: 徹夜明け午後3時半の憂鬱
序章 【悪】が生まれた時
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勇者と道化と奇跡と封印

今回は少し長めです。

 全く面倒なことをしてくれた。

 軍服とローブの内側に隠して置いた武器類である程度はなんとかなるだろうが、彼らを相手にするのなら警戒度を一つあげてもいいだろう。一応この世界の最高レベルの敵のだから。


「にしてもひでぇことするもんだ」


 現在魔王城は配布で切られたホールケーキの様になっていた。具体的に言うと城の一部が綺麗に切り取られているのだ。

 おそらく勇者ソウジの仕業だろう。

 遠くから足音が聞こえる。奴らが来る。どんな方法で引いてもらうか?

 よし、体験談を元に作るとするか。

 気がつけばソウジ達はもう目視できる範囲にいた。


「そこから動くな」


 できる限り威圧を込めて言った。これでも俺はいくつもの紛争地域を越え、秘境に赴き、仙人や魔女、陰陽師や剣士に学んで来た。

 実践も経験した。研ぎ澄まされた殺気、いつ敵がやって来るかわからない不安と緊張。

 それすら知らないお前達が巫山戯た真似をするな。

 仙術を使って強化した腕を無造作に払い床に一本の線を引く。


「死にたくなければその線からこちら側には来るな。来たら最後四肢を捥いでやる」


 すぐにソウジが動く。その顔に張り付いているのは自信だ。絶対に負けないと言う自信。

 ああ嫌になる。努力もせずに才能だけでなんでもできるやつの顔だ。負けを知らない顔だ。

 私怨で思わず殺してしまいそうになる。


「皆んな、安心してくれ、俺がコイツをぶちのめしてやるよ。おい、お前名前は?」

「名前を聞いて何になる?」

「吟遊詩人に歌わせてやるよ勇者に一撃でやられた愚かなお前のことを」


 コイツは本能が死んでるんじゃないだろうか?

 大胆不敵でもなんでもない、ただの傲慢。少しイラッと来た。

その自身へし折ってやるよ糞餓鬼。


「我は道化、クラウン。では構えろ勇者ソウジよ。貴様が我を超えられるかどうか試してみるがよい」


 クラウン、道化を指す言葉だ。

 危険も感じられずに、隙が多い。気を張っているように見えて全然意識が足りない。


「死ね‼︎」


 瞬間、ソウジが飛び出して来る。獣のように低い姿勢で剣を構えて突っ込んでくる。そのスピードはなかなかのものだ。


「甘い。蜂蜜のように甘い」


 スピードがあるだけ動きが直線的だ。

 身体を引き剣を避ける。そしてそのままソウジの頭を押す。


「うわっ⁈」


 バランスを崩し、ゴロゴロと地面を転がる。


「まだまだァァァ‼︎」


 すぐに起き上がり、再びこちらに向かって来るソウジ。まだ加速するらしい。トップスピードが見てみたい。


「遅い。アリにも劣るかのような速さだ」


 しばらく剣を握りながらこちらを攻撃するがそれが効かないとわかるや否や魔法を放って来た。


「光よ敵を穿て《光矢ライトアロー》」

「まだ拙いな」


 数本の光の矢が飛んで来るが、手に魔力を込めて振り払うだけで消滅した。まだまだ練度が足りない。

もっと魔力の密度を上げるべきだ。


「もう終わりなのか?ならばこちらから行かせてもらうぞ」


 ガイルから借り受けた剣を抜き、ソウジに肉迫する。そしてその剣でソウジの右腕を切り落とす。


「ウガァァァァッッ‼︎‼︎」


 痛みにもがくソウジ。

 たたみかけるように左腕と右足を切り落とす。


「もうやめてぇ‼︎」


 ようやく何が起こったのかを理解したミツハが声を上げる。


「その程度の覚悟で、貴様は魔族の命を奪ったのか⁈奴らは悔しかっであろうなぁ⁉︎貴様らに斬り伏せられ、痛みにもがき、救いを求めた‼︎どうか助けてほしいと!貴様らはそれを聞き入れたことがあるのか⁉︎我は先に言うたであろうが‼︎死の覚悟を持たぬ者は立ち去れと‼︎忠告を受けてなお死にたがるこの愚か者どもめが‼︎」


 痛みで気を失ったソウジの身体治癒の魔術で癒してミツハに放る。


「治ってる?なんで?」

「それは戦士ではない。戦士の真似事をしているだけの子供だ。故に我はそれの怪我を癒した。我が切るのは戦士のみである。さあ、今すぐ消えろさすれば我は追わぬ」


 もう二度とここには来ないでくれ。

 死の恐怖を知ったんだ。そのまま生きていることに感謝して戦争から離れてくれ。


「一旦引くわよ。《転移》」


 リオが魔術を使い、みんなを転移させた。初めて見る魔術だったが、今はそんなことは気にならなかった。

 ただ、死合う覚悟もできて居ない夢見心地なお坊ちゃんに魔族がいいようにやられて居たことに哀しくなって居た。

 ともかく、これで依頼は達成だ。

 後は帰るだけだ。結局仙術も呪術も使う必要は無かった。それほどでにソウジ達は弱かった。


 ***


「おお、イツキ殿‼︎無事であったか‼︎」


 召喚された場所に戻るや否やガイルが駆け寄ってきた。


「ええ無事ですよガイル殿。それよりも見ていただけたでしょうか?御命令通り命を奪わず撃退して見せました」

「ああ、そうであるな。ヨオォオシ皆の者!今宵は宴じゃぁァァァ‼︎‼︎」


 オオオオォォォ‼︎‼︎と歓声が上がり隠れていた魔族が一斉に飛び出した。

 今夜は宴らしい。異世界の料理か。なんとも楽しみだ。


 宴は城の広場で行われることになった。


「肉が足りねぇぞ肉がー‼︎」

「せっかく酒を出してもらったんだ!しばらく飲み溜めとけ‼︎」


 宴は立食パーティーのような形式だったのだが、なぜか乱闘じみている。

 特に酒の奪い合いが激しい。


「イツキよ貴殿も一杯どうだ?」

「ガイル様、何ゆえこれほどまでに酒を奪い合うのですか?」


 酒樽を持って殴る蹴る絡みつくの大乱闘を始める魔族たちを横目に尋ねる。


「この地は見てわかる通り常闇の地、暗き地である。故に植物は特殊なものしか育たず、酒や果実は嗜好品なのだ」

「納得です」

「本来なら部下たちにも嗜好品を送りたいのだが、なにぶん数が少ない。だから彼らは争って勝者が独り占めするのだ」

「食料問題ですか…。難しい問題ですよね」


 貧富の差、食糧難。これは本当にどうしようもなく、どこにでもある問題だ。

 特に戦争、とまでは行かなくても小競り合いを繰り返しているこの周囲の土地では穀物は取れないだろう。


「ところで、せっかくの宴ということなので舞を披露してもよろしいでしょうか?」

「うむ。異世界の舞か。何とも面白そうなものであるな。1つ見せては貰えんか」

「それでは一曲」

「〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪」


 ハミングをしながら踊る。

 エデンを現世に復活させたいと祈った年老いた魔術師であり、俺の曾祖父だった人から受け取った、家族の証明。


「〜〜〜♪」


 一度跳ねるように足で地面をければ地面に草が生え、二度と同じところを踏めば花が咲き誇る。パンジーやビオラ、ナデシコなどの食べられる花だ。

 他にも桜、紅葉、松などの若木も生えてきた。


「おお、奇跡だ‼︎イツキ殿が奇跡を起こしておられる‼︎」


 あっという間に広場が庭園に変わる。

 それと同時に魔族達が歓声をあげる。

 この力は俺のものであり、俺のものではない。曾祖父のものだ。「荒れ果てた場所にこそ救いがあるべきだ。苦しんでいるからこそ救われるべきなのだ」と彼はいつもそう言っていた。だからこの力は苦しんでいる人達に向けて使う。

 楽園の植物はしっかりと水を与えてさえいればどんな場所でも育つ。


「♪♪〜♪〜〜〜♪」


 庭園の中心まで歩き、そこで何度もステップを踏む。

 この魔法の核となる、《生命の樹》を生み出す。

 幹は太く、葉は一枚一枚に瑞々しさと生命力を漲らせ、神々しい光を纏っている。


「以上で俺の舞は終わりです。ここに生えた花は食べられるので、ぜひ栽培してみてください」


 皆んなに一礼してガイルの元へと向かう。

 自分でしたこととはいえかなり注目を集めてしまっていた。注目されるのは嫌いだ。必ず面倒ごとがくっついてまわる。これからは少し自重しよう。


「ガイル様、夜も更けてきましたのでそろそろ休みたいと思います」


 色々ありすぎて疲れた。しばらくは休みたい。


「おお、そうであったか。従事長‼︎イツキ殿を部屋に案内して差し上げろ‼︎」

「了解致しました。はじめまして。夢魔のリリアと申します。以後イツキ様の付き人として身の回りのお世話をさせていただきます」

「よろしくお願いしますね。リリア殿」

「では早速案内いたします。お手を拝借」


 自然に手を握られ、身体を引き寄せられる。

この子1人でソウジなんてフルボッコではないだろうかと思うほど素早く、自然だった。


「《転移テレポート》」


 すっと景色が変わり、どこぞの高級ホテルの様な、整って計算され尽くした調度品の数々に、天蓋付きの大きなベッド。

 さっきソウジたちも使っていた魔術だ。恐らく、地球にはなかった技術。


「今日からこちらがイツキ様の部屋となります。寝巻きはこちらにおいて置きます」

「何から何までありがとうございます。では早速寝巻きに着替え休ませていただきますね」


 取り敢えず今日は疲れたから休みたい。休めるときに休んでおくのは基本だ。


「はい。それではお手伝いさせていただきます」

「えーー?」


 止める間もなく服を剥がされる。なんらかの魔法なのか、彼女が動いたのを認識できない。


「これは…」


 リリアが息を飲む音が聞こえる。身体に幾重にも重なる幾何学模様に鎖の様な紋様。それと大量の火傷に銃槍、切り傷。

 初めて見る人には何時も怖がられた。今回もこの身体をおぞましいと思われているに違いない。


「醜いでしょう?俺は力を得るために無茶を続けました。その結果がコレです。得た力は日に日に強くなって今じゃ自分で抑えないといけないくらいに」

「なぜそこまでして力を持つのですか?あちらの世界はそれほどまでに力がいるのでしょうか?」


 心底不思議そうに尋ねられる。

 たしかに普通の人ならばここまではしないだろう。ましてや俺は自分の力を自分で封印までしている。


「誰かを助けたいと思った時、例えば家族がどうしてもお金が必要な時、例えば友達が理不尽に暴力を振るわれている時、常に必要なのは力です。財力でも権力でも根源的な暴力でも。誰かを幸せにするためには他の追付いを許さない圧倒的な力が必要だからです。最も、俺に権力も財力もなかったから暴力を鍛えただけですがね」


 俺はその力をモモハのために使うと決めた。理不尽に立ち向かい、幸せをつかもうとするあの子のために。だからこそ、あの子が自らの危険を理解せずに戦いに望むのなら。彼女を傷つけてでも止める。


「大切なものを守るために、力をつける。牙を研ぐ、なるほどよく分かりました。イツキ様はとても良い人間なのでしょう。その身体中の怪我がその証拠です」


 いつのまにか寝間着を着せられていたので、もう何も考えないことにした。世の中考えない方が楽なこともある。


「そう荒れたのだったら嬉しいですね」

「きっとそうです。それでは私はこれで失礼します」


 リリアが退出したのを確認し、ベッドに潜り込んで、すぐに俺は眠りについた。


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