初めまして異世界②~幼馴染が勇者召喚されてた件~
ひと通り映像を見終わり、結晶を遠ざける。
要は戦争だった。それも地球なら神話のラグナロクだのハルマゲドンだのと言われるレベルのものだ。
魔法が吹き荒れ、化け物、魔族は大量に現れ、天使達と戦う。
そんな化け物達と戦う少年少女はみんなソウジの取り巻き達で、踊り子の様な、布面積が少ない格好をしている現役アイドルの中村千冬、杖とローブ姿の賢そうな美少女の八坂理央、何故だかわからんがメイド姿の坂口三葉、そして俺の幼馴染であり、実家が剣術道場の式見百羽、そして勇者の様な無駄にキラキラした格好をしている、財力、容姿、身体能力その他諸々が全て揃った完璧超人の宗方総司。他にも数名いるが、俺には誰だかわからないな。
魔族が彼らに向かうと、まるで子供をいなす様に彼らに殺される。無残に、無様に、意味もなく。
地球で、あらゆる魔術を極めるために世界各地を回った時にも何度か戦争をしている国に入ったことはある。
でも、その時でもここまで酷くはなかった。
何よりも恐ろしいことはこれをソウジ達が行なっていると言うことだ。
より具体的に言うのなら、奴らには罪悪感が無い。
まるでゴミを捨てるように魔族を殺して行く。
「映像を見てもらってわかるように、我が家族である魔族は、天使とそれを率いる勇者、そして天界の神、ルチアと戦っている。我は元々天界の神の1柱であった。だがこの魍魎のような姿のせいで女神達に追放されてこの地に追いやられた。家族であったと思っていたのだが…」
「今は私がいますわ。陛下彼らのことはお忘れ下さい」
俺と他の魔族がいる事もおかまい無しにいちゃつき出す2人。
魔族達はそれを微笑ましいものを見るように眺めている。
イライラするのは俺の心が荒んでいるからなのか?
目の前で美女もといルミアの体をまさぐるガイルに苛立つ俺がおかしいの?
「女神ルミアはガイル殿の家族なのですよね?」
女神達はガイルを天界から追い出したのではなかったのか?
「私は神造女神です。魔王ガイルの妻と成るべくして彼の境遇を不憫に思った神々によって造られました」
なるほど。ホムンクルスみたいなものか?昔造ったっけ、ホムンクルス。
確か今はヨーロッパのルーン魔術の使い手の弟子をしているはずだ。
それはともかく、ルミアを創ったのが他の神々だというのであれば、全ての神ご敵に回ったと言うわけではないのだろう。
ならば、今回はルチアの独断と考えるべきか?
思考がまとまらない、疑問と質問が大量に生まれる。元々研究者気質というか、突き詰めなければ気が済まない性質だというのは自覚していたが、まさかこれほどとは思わなかった。
「すまぬ、話がずれたわい。今回イツキ殿にお願いしたいのはこの地に向かってきている勇者を撃退することだ。我々にはもう後がない。我が輩が持つ最強の騎士団、暗黒騎士団でさえ、彼らを止めることはできなかった」
思考の海に落ちかけていた俺をガイルの言葉が連れ戻した。
「撃退でいいのなら、お引き受けしましょう」
モモハ達を殺さなくていいのならそれに越したことはない。まだガイルたちの言ったことが真実であるかどうかがわからないのだ。
だけど、戦わなくてはいけない。ソウジ達には教えてやる必要がある。命を奪う行為をして良いのは奪われる覚悟のある者だけだと、悪戯に奪って良いものではなのだと。
「お待ち下さい‼︎‼︎‼︎」
いい感じに締めくくったのに、バリトンボイスの妙に良い声のやつに邪魔された。
声のした方を見ると、真っ黒い鎧に身を包んだ騎士がこちらに来ているのが見えた。
赤髪の、30代くらいの角を生やしたイケメンだ。
「このような得体の知れぬ者などより、私にご命令ください!次こそは必ずや、勝利をお送りいたします」
「だがのう、バルドフェルド、お主はまだ怪我をしているでは無いか。暗黒騎士団の長であるお前が万全な状態を保てないでどうするのだ」
「このような怪我怪我に入りません‼︎そこな男を倒して、その証拠となしましょう」
言うや否や剣を抜いてこちらに向かってくる黒騎士、全く面倒なことをしてくれる。
だがまあいい。俺の実験の相手になってもらおう。
まずは俺の外法術が効くのかの確認だ。
「喰らえぇぇぇ」
眼前に迫ったバルドフェルドに紙を投げる。
龍の描かれた紙だ。
『ルオオォォォォン‼︎‼︎』
絵に書かれた龍が実体化する。2メートルくらいの大きさだ。これは、剪紙成兵術と言う中国の仙人が使っていた術だ。
幻を実体化させ、使役するもので、俺は動くものしか実体化出来ない。仙人の爺さんなら岩山の一つや二つ軽く作れるのだが、そこはあまり困ってないので問題ない。
「《竜胆》蹂躙しろ」
その一言で勝敗が決した。
実体化した龍、竜胆はその身に雷を宿してバルドフェルドが動くのをやめるまで襲いかかったのだ。