目覚めと齟齬
先々週ブクマが増えていたことで狂喜乱舞していたら椅子に足の小指をぶつけて内出血した作者です。
足ぶつけると痛いですよね〜。
それでは本編を、お楽しみください。
翌朝、少女が目を覚ました。
昨晩宿屋に戻ってからベットに寝かせて、夜通し起きるのをまっていたのだ。
「おはよう、気分はどう?腕と脚の調子はどう?ちゃんと治ってる?」
起きた少女を怖がらせないようにできるだけ優しく問いかける。
「わたし…なんで…?腕…?脚…?…‼︎」
俺の問いかけで知ったと言うように腕と脚を眺める少女。そして、
「うぅっ、グスッ、ふえぇぇぇん‼︎」
顔をクシャクシャにして泣き出してしまった。
それも仕方がないことだろう。四肢を切られ耳を千切られかけ、挙句に鞭で引っ叩かれていたのに目が覚めたら全てが治っていたのだから。
「よしよしです」
ユリアが少女を抱きとめ頭を撫でている。
俺がいつもユリアにやるように、壊れ物を扱うような丁寧な撫で方だ。
「今は落ち着くまでゆっくりとするといい。俺はちょっとご飯と…、あとその子の服とかも買ってくるよ」
まだ俺が貸したローブのままだしね。
泣きじゃくる少女をユリアに任せて、俺は買い物に出かけた。
***
「ハムハムハム。ムシャムシャ…ムグッ⁉︎」
咀嚼音が途切れた。食べていたものが喉に詰まったらしく胸のあたりをドンドンと叩いている。
「ハイハイそんなに急がない。食べ物はどこにもいかないからね」
多少多めに食べ物を買って来たのだが、それらはほとんど少女の胃の中に取り込まれてしまった。
この子の胃の中は宇宙空間と繋がっているのだろうか?明日からの食費がきになるところである。
だけどたくさん食べてくれるのは嬉しいものがある。食べるとはつまり生きる気があるということに他ならないのだから。
あの惨たらしく痛めつけられていた少女がしっかりとモノを食べる。それは生きるという意思があるということだ。
本当に心が壊れ切った人間ではそれすら出来ない。酷いものなんて自分から喜んで命を絶つまである。
「ご馳走様でした」
買ってきたものが全てなくなったところで少女は腹をさすりながらそう言った。
頭上の耳が満足げにピコピコと揺れている。
ついでに猫のような尻尾もユラユラと揺れている。
足りてよかった。前回ギルドで貰った金を全て使ってしまったが、まあそれはそれだ。
「わたしを外の世界に連れ出してくれて、ありがとうございます」
スッと頭を下げてから腹を見せるようなポーズをとる。これは獣人で言うところの臣下の礼らしい。
犬や猫が飼い主に腹を見せるのと同じか?
いや、その考えは失礼か。
「わたしの命はあなた様に救われました。暗がりの中で産まれ、ひたすら死が来るのを待っていたわたしを、あなた様が、救ってくれた」
だから私は一生をあなたに捧げます。
少女は確かにそう言った。…すっかり懐かれたな。悪い気はしないけど。
「わたし、ノワ・イールは、あなた様に永遠の忠誠を誓います。我が忠誠、受け取っていただけますか?」
この子には寄る辺が必要だ。暗がりの中で死ぬことを許されず、かといって生きることも許されていなかった。常人ならば3日持てばいい方とも思えるような劣悪な環境に、長いこといたのだ。こうして言葉を交わすことができるのも奇跡と言える。
…本当はこういうのは勇者の仕事なはずなんだけどな。それでもこの少女ーーノワを助けたのは俺だ。手放したりはしない。それこそ無責任というものだ。
「俺、霊萊イツキはノワ・イールの忠誠を受け取ろう。お前は俺の友であり、お前は俺の部下であり、そして良き隣人であり、そして俺の家族だ」
「はい…!はい…‼︎これからよろしくお願いしますね!ご主人‼︎」
もともと彼女には拠り所がないのだ。だったら俺が拠り所になってやる。ノワが俺から離れようとするまで俺は彼女の居場所になろう。不幸になった人間はただの人間よりも幸せになるべきだ。ならばノワが本当に居場所を見つけることができるまでは俺が彼女のことを預かろう。
「これからはユリ達が一緒なのです」
「一緒。一生使えるべき私のご主人様」
ユリアの言葉に感極まったように涙を流すノワ。今はそれでいいのかもしれない。人という字は人と人とが支えっているという人がいるように、ヒトは1人では行きていけないのだから。
「っと、いつまでもそんな服装で置いておくわけにはいかないな」
街で買ってきた衣服を取り出す。黒いゴシックドレスだ。買った時の店員さんの視線がとても痛かった。
少しだけ手を加えて、鴉の羽根の様な装飾を施してある。こちらの方がノワに似合うと思ったから手を加えてみた。
無論その装飾には物理、魔術耐性を付与してある。俺の学んだことを十全に生かせば不可能なことなんて殆どない。裁縫で魔術を施すのなんて朝飯前だ。
「はい。着替えさせていただきます」
ノワはそう言ってローブを脱ぎ捨てた。
実にいい脱ぎっぷりだ。だが、
「お前には恥じらいはないのだろうか?」
「ご主人のお目汚しにならないのならば私に恥なんてありません。私は貴方の所有物です。だからあなたの望むままに」
テキパキと着替えを続けるノワ。前も後ろも丸見えだ。
「お目汚しにはならんが少し恥じらいを持て。あと俺はお前を所有物などとは思っていない。そこを間違えるな」
認識に齟齬があるらしい。俺はノワのことを所有物とは思っていないのだが、ノワはそうは思ってくれないらしい。
自分をモノだと思うのはなんとも悲しいことだ。道具に徹していずれ自我を壊すことになる。
「はっ。わかりました」
本当にわかっているのだろうか?一応俺に背を向け、ノワが服に手をかける。ん?
「にー様?いつまで見ているのですか?」
少しだけ怒気を孕んだユリアの声が聞こえたのでノワから目をそらす。
ノワの背中に一瞬だけ見えた傷、何処かの地図の様なアレは一体何だったのだろうか?
よろしかったらブクマ、評価、感想をよろしくお願いします。
次回の更新は再来週の土曜17時を予定しています。




