日常と任務
という訳で再開していきたいと思います。
魔王ガイルより下賜されたふた振りの魔剣を使いこなす為に木刀で模擬戦を行う。
相手はバルドフェルド率いる暗黒騎士団の皆様だ。ちなみに、暗黒騎士団は角魔族と呼ばれる、人間にツノが生えたような容貌をしている。騎士団は彼ら角魔族の戦闘部隊と言って差し支えない。
今は模擬戦100人抜きの挑戦中である。
「次‼︎」
また1人喉元を穿たれ地に伏せる。
だが残念なことに騎士団の面々が剣を握ってくれない。
「我1人に勝てずにどうする⁈貴様等はそれでも魔王軍最強か⁉︎」
煽る。とにかく煽る。疲れている奴でもプライドが高いのなら大抵この手は使える。
「まだまだァァァ‼︎」
バルドフェルドの怒声と共に彼を含む三人が斬りかかってくる。
残る2人は共に副団長のディートバルドとガルムフェルドだったか。
バルドフェルドを主軸にしたいいチームプレイだ。
「ガルム‼︎もっと攻めてこい‼︎ディートはそれをカバーするように、バルドフェルド‼︎どうした‼︎動きが鈍っているぞ‼︎」
流石に疲れ切っているのであろう。俺も疲れたから終わりにしよう。
式見流剣術、崩の型、秘奥義、水龍流転。
懐に潜りこむのではなく、身体の要所要所を狙い撃つ術である。
ちなみに二刀流限定の技である。
迫り来るディートバルドの剣を一本の剣で受け止めてもう一歩で膝を打つ。
「グッ⁉︎」
膝の皿を木刀でやられる。ディートバルドは崩れ落ちた。
そのまま流れに乗ってバルドフェルドとガルムフェルドの脛と足首を打つ。
相手を殺すのではなく、崩れ落とすための隙をつくる動きだ。
「ふぃー、百人抜き達成ー‼︎」
バタンとその場で倒れこむ。流石に百人抜きは辛いものがある。
正直立っているのもやっとだった。
だけど、立ち上がり騎士団の皆さんに向けて一礼。礼に始まり礼に終わる。武道の基本だ。
「皆さま訓練にお付き合いいただきありがとうございました」
ここの騎士団の人達はみんな気が良くて、戦いの時には互いを殺す勢いで戦い、そのあとは後腐れなくが彼らの信条だ。素晴らしいものだと思う。
「にー様、くんれん、ごくろーさまです」
いつの間にやら修練場には似つかわしくない、まだ6、7歳ほどの白髪蒼目の幼女?少女?が立っている。
俺の神造女神のユリアだ。
女神ルチアをベースとして造られたので彼女を幼くしたような姿である。
「騎士団のみなさまもいつもにー様の事を見ていただき、ありがとうございます」
舌ったらずな口調でたどたどしく話すユリアを見て、騎士団の皆さんもホッコリと顔を綻ばせる。
わかるよ。可愛いもんね。ユリア。だけど彼女は俺の家族だ手を出したら殺す。
そんな俺の考えを気取ってか、ビクッとする騎士団一同。
「ユリア、今日はどうしたんだい?君がこっちに来るのは初めてだよね?」
普段ユリアはエレボスの書物庫でリリアと一緒に本を読んでいることが多い。それか、俺がこの世界に来て初日につくった庭園の手入れをしている。
「にー様に本を読み聞かせて欲しいのです。ご迷惑でしょうか?」
不安げに俺を見つめるその瞳は純粋無垢そのもの。
ああ、幸せだ。満たされている。このひと時のために頑張れる。
「もちろん良いよ。さあ、部屋に戻ろうか。俺は着替えてから行くから先に戻っていてくれ」
「はい‼︎」
ユリアがパァッと瞳を輝かせ、足早に部屋を出て行ったのを確認してから、身体を伸ばす。
「ユリア殿が来てから、イツキ殿は朗らかになりましたな」
バルドフェルドがニカッと笑いながら言う。確かにそうだ。俺は丸くなった。というよりも、焦りがなくなったと言うべきか。
この世界に来てすぐ、あまり訳の分からぬままソウジたちと戦い、魔王ガイル達のことを常に疑っていた。周りに味方がいなかった。
だが、ユリアが来て、彼女を始めとして、リリア、ガイル、ルミアなど、信頼してもいいと思える人達ができた。
バルドフェルドもその1人だ。本人には言わないけど。
「そうあれたのなら嬉しい限りです」
身近に信頼できる人がいる。そして彼らはそう簡単には死なない。それだけで俺は嬉しい。
「ではユリアを待たせているので失礼します」
「ええ、早く行って差し上げてください」
さあ早く行こう可愛いユリアが待っている。
***
ユリアが読んで欲しいと言っていた本は古代魔術の教本だった。
こんなものを読んで何がしたいのか?
詳しく聞きたいところだ。
それでも読み聞かせてあげるけどね。それはもう当然だ。
「という訳で、この古代魔術の《縛煌鎖》というのは魔力自体を縛るための魔術だね。魔術師的には受けたら死活問題な魔術だ」
ユリアを膝の上に乗せながら魔術の解説をする。
部屋に入ったら椅子に座るよう誘動され、座ったらすぐに膝の上によじ上られたので、払わずにそのまま乗せている。
「この魔術は、縛鎖と言う魔術の1つらしいね。他にも力を縛る《縛剛鎖》、動きを縛る《縛業鎖》とかがあるみたいだね」
しばらくそのまま本の内容を雑談を交えながら続けた。
しばらく立ち、コンコンドアがノックされた。
俺の部屋に来る奴らは大抵決まっている。リリアか、時々ルミアとバルドフェルドだ。
今回もそのどちらかだろう。
ユリアを膝の上から下ろしてドアを開く。
ドアの向こうにいたのはリリアでもバルドフェルドでもなくて、
「叡智の神エレボス殿?いかがなさいました?」
エレボスの書物庫の管理人、叡智の神エレボス老だった。
老人のように腰を曲げ杖をついた、二足歩行のフクロウのような神だ。
「元気にしておるかのう?」
「ええ。おかげさまで。いつもユリアがお世話になっています」
エレボス老は穏やかな性格で、もともとはエリアスの神々の1人であったそう。
だが、ガイルが追放されて以来、明日は我が身と言うことで早々に天界から退散したらしい。
そして行くあてがなく困っていたところをガイルが拾ったのだとか。
ちなみにエレボス老が天界に持っていた《叡智の書物庫》は、今は弟子の魔術の神メテオラに受け継がれているのだそう。
そんな彼は普段ユリアの面倒を見てくれる。完全に孫とおじいちゃんと言った関係だ。
「ホッホッホ、べつに構わんよ。ワシも可愛い孫ができたようじゃわい」
この通り、エレボス老もノリノリでおじいちゃんをやってくれている。エレボス老は普段、ほとんど書物庫から出ないで本を漁っている。たまに出てくるのは魔族領会議でガイルが呼び出した時だけだ。
その時でさえ話が終わればすぐに書物庫に引き換えってしまうエレボス老が外に、それも俺たちのところに来たのだから何か、それも大きな問題が起きたに違いない。
「それで、今日はどうしてここに?」
困った時は単刀直入に、どうせ面倒ごとだと決まっているのだから変に遠回りする必要はない。
「ワシの弟子、ミアからの情報なんじゃが、勇者達が《迷宮都市イールパース》に向かったそうじゃ」
《迷宮都市イールパース》、古代の迷宮が集まる海上都市で、日本列島のような弧状列島となっている。
中央に円形の島があり、その周りを囲うようにひし形の島と、歪んだ台形の様な2つの島が、そして更にそれらを包み込むように大きな三日月状の島がある。
イールパースには、その各島に、一つ一つ迷宮があるらしい。
一番外側の三日月の島には地下迷宮が、そして2つの歪んだ台形のような島と、ひし形の島には地下迷宮が、そして中央の島には天高くそびえる塔型の迷宮があるそうだ。
もっとも、中央にある塔型の迷宮には、誰も入ったことがないらしく、本当に迷宮であるかは分かっていない。
ただ、来たるべき日にこの塔の門が開き、選ばれし者を中に招き入れると言う逸話がある。
「勇者が?」
「そうじゃ。あそこにあるのは実はデモナリスの未完成の遺産の1つでな、あの塔の中に、世界を滅ぼすような強力な武器が入っている可能性が高いのじゃ。じゃから勇者達がそれを奪う前にお主に遺産を回収して来てもらおうと思ってのう」
事情はわかった。予想通り面倒ごとの類であったことに変わりはなかったが、想定よりよっぽど軽いものだった。
いや、軽くはないが、もしかしたら今度は他の神々が参戦して来た何て事になる可能性もあったんだ。
実際に女神ルチアを魔術で縛り上げたわけだし、もっと言うと天使だの神官だのを散々蹴散らして来たわけだし。
「この件は既に魔王ガイルにも承諾してもらっておる。どうじゃ?やってはくれんかのう。今ならこのエレボスの叡智の書物庫に入る許可を渡そうと思う」
エレボスの叡智の書物庫。あらゆる叡智が収められている場所で、エリアスの神々でもエレボス老の許可がなければ入ることはできない。だから、今そこに入ることができるのはエレボス老とその弟子、魔術の神メテオラのみである。
そこにはエレボス老が自ら封印した古の魔術や、禁術、その他記録が置かれているのだそう。
ぜひ見てみたい。ただひたすらに本を読みふけるのもいいものだ。
魔王ガイルの許可が出ているのならどちらにしろ出撃命令が出るだろうし、何より勇者達が、ソウジ達がいる。
それだけで行く価値がある。
まさに一石二鳥ではないか。
デモナリスの遺産と聞くと多少の不安はあるが、それは今は置いておく。考えても無駄だし。
「もちろん受けさせていただこう」
「ホッホッホ、それはありがたい。では頼りにさせてもらおうかのう」
「にー様はお出かけするのですか?」
俺とエレボス老の会話をじっと聴いていたユリアが声を上げた。
多分真面目な話をしていたから黙っていたのだろう。ユリアは分別のつく子だ。だからわざわざ話が一区切りつくまで待っていたのだろう。
「うん。そう言う事になるかな」
ユリアにはお留守番をしていてほしい。これから行くイールパースはほぼ確実に戦場に変わるから。
きっとユリアも納得してくれるはずだ。
「ユリも連れて行って欲しいのです‼︎」
マジですか…。




