プロローグ
「…………何処だここ」
目の前に草原が広がっている。疎らに木々が生えており、草が生い茂っている。風が頬を触る感触があるので、夢の類では無さそうだ。
「草原だよな?草はリアルだし、感触もあるしな……。えーと、俺の名前は甲野秋吉。歳は29。職業はサラリーマン。よし、覚えてるな……仕事帰りに家のドアを開けた所までは覚えてるんだけど、そこからがさっぱりだな」
うん。考えても分からんもんは分からん。まぁ多分、拉致られたかどこぞのアニメみたいに異世界だろうな。けど、拉致なら身包みを剥がすだろうしな。
甲野がポケットを探ると、家のドアを開けるまでに持っていた財布や携帯電話、煙草に愛用のオイルライター等が入ってた。直ぐ傍には自分の鞄も落ちている。中を見ると、やはり中身も全て入っている。
「中も全部あるな……。財布も金が入ってるし、拉致っぽくは無いな。こうなったら、多分異世界説が濃厚だな……。けど、そうなるとな……」
異世界の金なんぞ一切持って無いし、異世界あるあるの”国に入るのに身分書が要ります”なんて言われても無いしな……。免許書でも良いならあるけどな。
甲野は財布に入っている運転免許証に指を掛けたが、直ぐにその指を止め、財布を閉じ、鞄に仕舞った。一つ大きく息を吐き、近くの岩に腰を下ろす。
「まぁ、現実逃避はこんくらいにするか。て言うか、異世界あるあるの”ステータス”とかは……うん、出たな、ステータスが」