第37話 「あとシマツ」
――ギルマスの部屋――
ギルドに到着してすぐ、受付の人にギルドマスターの部屋まで行くよう指示された。理由を聞いたが、本人は知らないらしかった。
ギルマスの部屋に入ってすぐ目についたのは、ギルド職員の正装で身を固めたセンラが、こちらに対して頭を下げている姿だった。
「本当に申し訳ない。私の力不足により、情報の隠蔽に関しての報酬は約束できない」
「何だとっ!」
エミーを宥めながら話を聞いたところ、俺がダンジョン内でぶっ放したあの魔法が原因らしい。そもそもこの町の経済は、ギルドやダンジョンに通う冒険者や、その人々の出費周りによって支えられているらしい。
そして先日俺が使った龍域魔法には共通の特性として、物理的な効果に特化しているというものがある。魔法によっての無力化が困難なこと。そして、外的要因によって排除されない限り、いつまでも残存し続ける。
「つまり、あの大量の水が原因で、ダンジョンに国からの調査が入る可能性が高い。・・・ってことか?」
「そういうことになります」
要は、こちらが勝手に経営難になって、国が勝手に調査に乗り出してくる、ということになるのだ。口ではどうとでも言えるが、金回りだけはどうしても誤魔化せない。
「クロよ。少し話をよいか?」
「ん、どした?」
解決策を考える間もなく、エミーから呼ばれた。俺に声がかかったということは、確認したいことが何かある。とかだろうか。
「そうじゃな、ここでは何だし・・・。センラ殿。クロと部屋の外で、少しばかり話をさせてもらうが、よろしいな?」
「えっ?あっ・・・はい。どうぞ」
何故か一瞬戸惑ったセンラを後目に、2人で部屋から出る。エミーの機嫌は、先ほどよりもずっとよくなっているようだ。よかった、よかった。
――ギルマスの部屋の外――
「ふむ、ここでよいじゃろう」
「ここでもいいのか?」
ちょうど今、ドアを閉めたところである。ここだと話し声も聞こえそうな距離だし、本当に良いのだろうか。
「どうせすぐにばれるようなことじゃしな。こういうのは、格好が大切なんじゃよ」
「へー。・・・よく分かんねぇな」
「そ。よく分からんものじゃ」
そこまで聞いて、廊下を見渡す。階段までの通路の間にはいくつか部屋があるが、聞き耳を立てているような気配は無い。まして、廊下には俺たち以外に誰もいないし、一階のほうは相変わらず騒がしいので、聞こえる筈がない。
「さて、本題に入ろうか」
しょうもないことを考えていたら、エミーが話を切り出してきた。
「スクトゥムと対峙したあの時。クロは最大威力の魔法で、奴を倒した。そうじゃったな?」
「そうだったが・・・それがどうした?」
「しかしあれほどの影響力のある魔法を、クロもスクトゥムの奴も使える筈がない。ここまでは合っておるか?」
「あー。やっぱり分かっちゃう?」
「どうせ、魔晶石か放魔岩あたりじゃろう」
あの時は何とかなるだろの精神で使った魔道具だったが、流石にオーバーすぎたのだろう。魔法の本職であるエミーは、すぐに分かってしまったようだ。
「問題はそこではない。あれは龍域と召喚、どちらの第何位じゃ?」
「そこって重要なの?」
「今後の話の流れに関わる。一番重要じゃ」
そんなに重要なのか、そこって・・・。
「えっと確か・・・龍域の5位だったはず」
「ほう、龍域のほうじゃったか。なるほどなるほど」
エミーはそう言いながら、うんうんと頷いている。・・・少し機嫌がいい気がするのは何故だろう。
「よし、私のほうはもうよいが、クロのほうから何か聞きたいことはあるか?」
そう言われたものの、別に今聞きたいようなことは特にない。その旨を伝え、そのまま部屋に戻った。
――ギルマスの部屋――
「さて。こちらの話は終わったぞ」
「あぁ、それはよかった」
センラは先ほどから変わらず、ずっと椅子に座ったままだった。
「して、報酬のほうは別の物で代用する。ということでどうでしょう」
これでセンラのほうの考えは、何となくだが分かった。情報規制のほうはやはり難しいのだろう。「俺は悪くないけど、一応こっちで我慢してね」みたいな流れにして、なあなあで済ませたいのだろう。
「いや、その必要はない」
そう言ったのはもちろんエミーだ。ちなみにセンラは、呆気にとられたような顔をしている。俺のほうも似たような顔をしているだろう。
「要するに、あの水をどうにかすればよいのじゃろう?なに、そこは任せてもらおう。」
そう言って、不敵な笑みを浮かべた。・・・なんか、あっちの方が主人公っぽいよね!
勇者(奴隷)ちゃんの台詞が全く出て来ないのは仕様です。人見知りと無口のレベルがMAXなのです。テンションが上がったり、人に慣れてくると勝手にしゃべりだします。もうしばらくお待ちください。




