第36話 「ふるいマゾク」
昼食が終わったタイミングでエミーから、ギルドへ用事を済ませに向かおうと提案された。
理由は何となく分かる。脅し・・・もとい、クエスト報酬の確認と受け取りのために行くのだろう。アイナのほうは、発行していた冒険者証をついでに受け取りに行く。といった感じだろうか。
スクトゥムとクリスの2人とは別行動になった。そのことをエミーにさりげなく聞いてみたところ
「先日、奴隷少女をギルドに登録しにきた2人が、今度はまた違う人族を連れてきて登録しにきた。などとなってみろ。瞬く間に噂は広がり、悪目立ちするぞ」
との答えが返ってきた。悪目立ちすることに関しては同感だ。これ以上変に目立って、厄介ごとに巻き込まれたくはない。しかし、気になることが2つ。
「そういうことだと、この2人を冒険者として登録させることは確定なのか?」
「ダメっスか~?」
「いや、駄目というわけではないと思うが・・・」
魔族も冒険者をやっている。ということは、先日の話に出てきた辺りで確定事項だった。だから、冒険者ギルドに登録すること自体に、別に問題はない。問題はないのだが・・・。
そこまで考えていたところで、エミーから再び返答がきた。
「今の世では、この冒険者証が無い方が動きづらいのだというぞ。何でも一般の者は、冒険者ギルドか商業ギルドに登録しておかない限り、国から出入りするたびに審査や検査がしつこいのだそうだ」
「えっ何それ」
何でも、冒険者ギルドや商業ギルドに登録されていること自体が、個人の安全性やら情報やらが証明されるのだとか。
「・・・この国に入るとき、検査とか受けなかったよな?」
「さあな。単に審査が面倒だった、などという理由かもしれん」
「職務怠慢じゃねぇか!」
そんなでいいのか、冒険者ギルド。
「と、忘れるところだった。結局この2人は同行させるのか?」
ここも気になったところだ。先ほどエミーは、「違う人族を連れてきて登録しにきた」と言った。つまり、この2人を連れて行く気満々なのだ。
「なんじゃ、そんなに大所帯で移動するのが嫌なのか?」
「いや、そういうわけでは・・・」
元々の時代では、6人のパーティーで行動していた。なので、大人数での行動自体には抵抗が無い。しかし、それ以上にこの2人を連れまわしても大丈夫なのだろうか。という不安のほうが大きい。
「そもそも、2人はいいのか?明日は何をするかも決まっていないような連中についてくるのは」
仮にも2人は魔族の幹部クラス。何かやるべきことや、目標などがあるのだと考えたからだ。約1000年の時が過ぎているとはいえ、夢や願望が無いとも限らない。
「元々仕えていた主様は、すでにお亡くなりになったとお聞きしました。それ以上に貴男方2人に敗れ、死んだ身です。となれば、僕らの命は貴男方のものです」
「都合のいい、使い捨ての矢と盾として使ってくれっス!」
思ってた考えの、斜め上を突き抜ける答えが返ってきた。マジかこいつら。助けを乞うようにエミーに視線を向けたが、やれやれ。といった感じに首を振られた。
「魔族とは元々、こういった種族じゃ。強い者が絶対で、弱い者には価値が無い。もっとも私の代でも、古い考え方だと見直され始めておったがな」
言われてから思い出してみれば、魔界にはそんなような奴らも多かったような気もする。忠誠心の塊みたいな男かと思えば、ころっと主人を変えていたり。話し合いがまとまらなかったら、殴り合いで解決したり。良くも悪くも、分かりやすい連中だった。
「ちなみに言っておくと、こやつらは私たちに付いてくるか、自害するかの2択しかないそうじゃぞ」
「えっ、なんでそんなに両極端なの?」
思わず、2人のほうに目を向けた。スクトゥムはアイナに今の流れを説明しているようで、クリスは肉を注文していた。まだ食うのか。もうすでに、4人前は出てきていたはずだぞ。
「もちろん、私が倒されれば乗り換えるようじゃがな」
「えっ?」
そんなに軽い感じで乗り換えるの?魔族怖ぁ・・・。
冬季の亀よりも遅いペースですが、ちゃんとお話は進んでいる・・・はず。




