第19話 「ミチとのそうぐう」
21年、加筆修正
――合流した辺りまで時間は進んで――
「そういえばクロよ。なんだかずっとこちらを見ていた怪しい2人組を捕まえたぞ」
「何それ?」
先ほどは気がつかなかったが、確かにエミーの後ろには縄で縛り上げられた男と、傷だらけの子供がいた。
「こっちの男のほうは薬師じゃろうな。薬品の臭いで鼻が曲がりそうじゃ」
「ふ~ん・・・」
ちなみにこの男、初心者狩りのボスだった男である。が、それを2人が知ることになるのは暫く先のことであった。
「・・・で、そっちの子供は?まさかそいつの連れか?」
「そのようじゃが・・・レベルは低いし、装備もままならん。愛玩具というわけでもなさそうじゃし・・・」
確かにそうだ。装備といえるほどの身なりをしていないどころか、外見は最悪、入り口で見かけた孤児たちよりも酷い。見て取れる場所だけでも、火傷のような傷跡が多々見られる。レベルも2とかなり低いらしく、何か特別な理由がないとこんなところに連れて来た意味が分からない。
「だがこのガキは賢いぞ。私との実力差が分かるのか、先ほどから一切抵抗をしないからな」
「そりゃまぁ、そっちの縛られてる奴みたいにはなりたくないだけじゃねぇの?」
元の顔を知らないが、少なくとも原形は留めていないほどにボッコボコにされている。腕と足も片方ずつもがれており、衣服の下では、傷口という傷口に蛆が沸いているようだ。
「何をしたのかは知らんが、エミーに見つかったのが運の尽きだったな・・・ナムー」
「なんじゃ、これでも加減したほうじゃぞ?」
「とりあえずお前は加減の意味をもう一度調べ直して来い。さっきの魔法といい、お前という奴は・・・」
規格外の力を持った、常識はずれな魔王の力はこうも恐ろしいのか。改めて実感し、少しだけ感動した。
「まぁ、この程度なら貴様でも治せるじゃろうて」
「いや、そうなんだけどよ・・・」
「・・・!」
「うおっ!?」
今まで特に何もする素振りを見せなかった子供が、いきなり抱きついてきた。
「・・・えっと、こいつを治すなってこと?」
「・・・」
子供は首を横に振っている。
「というかお前、なんで喋らないんだ?」
「よく見てみろ、この様子ではどうせ喉も潰れておるのじゃろう。炎の煙でも吸いすぎて焼け爛れたか、それとも薬でも飲まされたか」
「・・・」
子供は首を縦に振っている。
「治すったって・・・お前の秘薬でも飲ませるか、治癒魔法でもかけてやればいいんじゃないか?」
「この阿呆が。あの薬は普通の人間には効きすぎるからそもそも駄目なんじゃよ。それに、私の使える治癒魔法はほとんどが炎と闇じゃぞ?光か聖の治癒魔法ではないと、人族の外傷の治癒はできんわ」
「えー・・・お前、光の治癒魔法使えないのかよ」
エミーの魔法属性は、無・炎・水・氷・風・雷・土・邪・光・闇。聖はともかく、光の治癒魔法を使えないということはないだろう。
「魔族相手に光魔法を使えというのか、この阿呆が!」
「あっ、そっか」
魔族に対して光・聖魔法は毒も当然。そりゃあ覚える必要がない魔法を覚えているはずがない。
「それじゃあ俺がやるか・・・ちょっと待ってろよ」
そう言い、空気中のマナを集め、操作していく。周囲のマナが共鳴し合い、光を燈しだす。ちょっと幻想的かもしれない。
「おい、まだか」
「ちょっと待ってろ・・・これ久しぶりにやるからちょっと梃子摺ってて・・・よし、できた」
手元で魔法が完成したことを確認し、子供の額と喉に手を当てる。抵抗すると何かされると思っているのか、一切抵抗しようとしない。エミーがどれ程恐ろしいことをしたのかは知らないが、かわいそうなことをした気がする。
「えっと・・・まぁすぐ終わるからちょっとじっとしててな?」
「・・・」
子供は頷いているようだ。
「・・・第3位人間魔法、再生の煌き」
魔法を唱えると、周りのマナが集まりだして、俺の手元に集まってくる。そして、そこから俺の魔力が人体に害のないようにマナを変換し、子供の傷口から体内へと入っていく。光っていてよく見えないが、傷口も新たに皮膚ができあがることで見えなくなっていっている。この調子なら、喉のほうも大丈夫だろう。
――パリンッ――
「・・・ん?」
「どうした、クロよ」
「いや・・・なんか、契約っぽいのも壊しちゃったっぽい?」
「・・・は?」
この魔法は「治癒」ではなく「再生」なのだ。「治す」ではなく「戻す」に近い。よって、契約系の魔法も解いてしまうことがあるのだ。尤も、多少の知識があるものであればそのようなことにはならないのだが。
「何故貴様はそういう肝心な部分が抜け落ちておるのだ!普通そんなことにはならんじゃろう!」
「うっせぇなぁ!俺だって久しぶりだったんだよ!具体的には人生2度目にして10年ぶりくらいには久しぶりだったんだよ!コツとか忘れてて当たり前だろうが!」
「えぇい、もう我慢できん!言葉が通じぬのであれば、肉体言語で分からせてやるわぁ!」
「おうやってやろうじゃねぇか!後衛職が前衛職に勝てると思うなよ!」
勇者と魔王の本気の取っ組み合いが始まる今、まさにその2人を止めた英雄が現れた。
「あ、あり。が。とう、ござい、ます。『ユウ、シャサマ』」
「・・・ん?」
「・・・は?」
クロの正体を見破られてしまったようです。この子供、やはり一般人ではないな!?




