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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter4:伝説の幕開け
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参戦理由

 少し前、全身鎧(スクリロ)が闘技大会参加を決める前のことだ。


 【魔人商会】の調査の依頼を受けた【トロイの木馬】一行はまずはその足取りを掴むところから始めた。二人一班で主に調査を進め、威光(ポース)、ペルセースのA班。戦華(アントス)炎獄(フォティア)のB班に分かれる。


 A班はミノス内を、B班はカルデア王国三大都市のひとつ、タロスで聞き込みをすることになった。


 A班は班の二人は人でにぎわうメインストリートでの調査に乗り出した。この通りは冒険者通り、その名が示すようにこの大通りは冒険者ギルド本部に直結している。


 にぎわっているのも各地から多くの冒険者たちがこぞってこの町に訪れるからだ。通りの両端には様々な露店が立ち並び、そのさらに外側には冒険者御用達の店舗も多く建っている。


 街の景観を良くするためか建物は赤レンガ造りが多く、道は石畳で統一されている。街を歩けば様々な種族が行き来している様を見れ、耳をすませば冒険者たちの噂や、積極的な客寄せ、果てには金属を打つ音が聞こえてくる。

 噂、商売、鍛冶、この三つがミノスを盛り上げる三大要素といっても過言ではないだろう。


 そしてなんといってもそれらが盛り上がるために必要不可欠なもの、それがミノス名物の『永遠の迷宮』だ。誰が何時、何の目的をもって建てたか分からない地下迷宮。一体何階層まであるのかすら未だ解明されていない。その上、迷宮内には数多くのモンスターが生息しており危険極まりない。


 そんな迷宮に挑戦する者が後を絶たないのには理由がある。それは何と言っても迷宮内に存在する数々のお宝が人々を引き寄せるからだ。宝石から武具、そして魔道具(マジックアイテム)、それらを手に入れて一山当てようという冒険者が大勢いるのだ。


 さらに不思議なことに迷宮内の構造は毎日変わり、毎日新しい財宝が生成される。その不思議な特性も相まって毎日毎日繁盛しているのが、このミノスという町である。


 そんな人の往来が激しく、噂話も盛んなこの町は情報収集にはうってつけだ。それ故にA班は期待に胸を膨らませながら街を飛び交う噂に耳を傾ける。


 行き交う人々の話に注意を向けながら調査をしている最中、ペルセースは不意に威光(ポース)に尋ねてみた。


幻刃(プセマ)さんは調査活動には参加しないんですか?」


「彼女は戦闘以外では極力参加させないようにしてるんだ」


 一月の間、このパーティでクエストをこなしてきたペルセースはその点だけが疑問であった。どんな事態であろうと戦闘以外で幻刃(プセマ)がクエストに参加することはなかった。


 もちろん彼女の声を聞いたことは一度もないし、人柄だって分からない。ただひとつわかるのは、彼女の一挙一動が絶望の淵にいる人間のそれだということくらいだ。そのことを威光(ポース)に告げると


「さすが、だいぶ観察眼の使い方が上手くなってきたようだね」


 と褒めるようにごまかされてきた。


 そんな幻刃(プセマ)がなぜ戦闘以外参加しないのか、それを一月経ってようやく尋ねることができた、いや尋ねる勇気が出てきた。それもこれも修行のかいあってかある程度仕事ができるようになってきたおかげだ。


「彼女の心は壊れてしまっているんだ」


 その語りだしはあまりに重々しかった。いつもにこやかな威光(ポース)がどこか遠い過去に思いを馳せているかのような表情を浮かべるほどには。


「今の彼女は戦うことしかできない。それ以外のことを考えることができないんだ」


「そ......それはどうして?」


「大切な人の死、それが彼女を変えてしまった......その人は僕や他の二人にとっても大事な仲間だった。でも彼女はそんな彼を人一倍想っていたんだ」


 大切な人の死、それがいかにつらいことなのかペルセースには分かるつもりだ。彼も天涯孤独の身。3歳の頃に一族郎党皆殺しに合い、姉と彼の二人だけが逃げることができた。そんな姉もすぐに人攫いによって攫われた。

 幼すぎて断片的にしか記憶にないということが、彼の性格に影を落とさずに済んだ理由だ。


「そう、なんですね......じゃあ、俺たちがその分も頑張らなきゃ!」


「うん......そう、その意気だよペルセース君!」


 無理やり暗くなった雰囲気を吹き飛ばして【魔人商会】の情報を得るべく奔走する。相当注意しているはずなのだが、なかなか彼らに関する情報は飛び込んでこない。


 あまりに情報が得られないため、別行動でさらに足を延ばそうという作戦になった。威光(ポース)は大通りの調査、ペルセースはそれ以外と分担し情報の入手を図る。


 正直雲を掴むような話ではあった。何せ情報通のガルムですら仕入れていないようなレア情報を追い求めているのだから。


 二手に分かれてから二時間くらいたっただろうか。あまりの困難さと終わりの見えない作業に対する鬱屈に威光(ポース)が途方に暮れ、いったん道端で休んでいるときだ。


「やりました!掴んできましたよ!」


 彼の耳にペルセースの喜びに満ちた声がすごい勢いで飛び込んできた。途端に威光(ポース)の体に元気が戻ってきた。


「よくやった、ペルセース君!」


「ミノスの役所が当たりでした!」


 ペルセースが嗅ぎつけた情報がこうだ。今年開催されるカルデア王国闘技大会にどうやら暴拳王ティタンが出場を決めたらしい。暴拳王ティタンは【魔人商会】の幹部とされている人物だ。そんな彼との接触の機会を無駄にするわけにはいかない。


 その夜、【トロイの木馬】メンバーはミノスの冒険者向け宿屋で緊急会議を開いた。


「みんな、カルデア王国闘技大会に出場するよ」


 ペルセース以外の全員が即座に承諾した。そう、彼だけが反対したとも言える。


「待ってください、俺もですか!?無理ですって!」


「そんなことはないよ。ここ一月、僕たちと特訓してきたじゃないか」


「そうだ意気地なし!ボクなんてこんなちっちゃい女の子なのに出場するんだぞ!」


「いやいや、炎獄(フォティア)さんは神撃(メシア)級の魔法使いじゃないですか、一緒にしないでくださいよ!」


 確かに、と少し褒められたように感じ炎獄(フォティア)は喜びながら食い下がる。


「いい腕試しじゃない。それに剣だって水剣流に関して言えば奥義以外は使えるようになったんでしょ?」


 適当な炎獄(フォティア)と違い、理詰めしてくる戦華(アントス)にはどうも言い返せない。普段は二人して馬鹿してるのに、こういうときの彼女は聡明さを見せてくる。そうして何も言い返せないでいると、どうだと言わんばかりに長い金髪をなびかせてくる。


 顔こそヤギの頭蓋骨の仮面で見えないが、おそらく得意げな顔をしているに違いない。何よりも仮面越しに片方だけ見える紅蓮の瞳が普段にもまして輝いているようである。


「ペルセース君、危険だと思ったら棄権すればいいし、そのときは僕が行かせない。君のレベルアップを試すにはうってつけの機会だと思うんだ」


「そ......んなもんですかねぇ?」


「そんなもんさ、それに優勝は僕らの誰かにきまってるから!」


 やけに自信満々な威光(ポース)、しかしそれを裏付ける強さを彼らが有しているのはこの一カ月で散々見てきた。だからそんな彼らの言葉なら信用に足る。


 それに大会まではさらに一月ある。それまでにさらなる修業を積めばいくらかはマシになるだろう。そう信じる、信じることが大事だ。


「じゃあ、さっそく今日の訓練をしようか」


「はい!」


 元気よく返事をする。これが一番の意思表明だ。ペルセースは気を引き締めて鍛錬に向かう。

 カルデア王国闘技大会まであと一カ月、歴代でもっとも熱い最強の座をかけたトーナメントまでのカウントダウンが始まった。


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