集う猛者
カルデア王国闘技大会、それは年に一度開催される腕自慢たちが集う戦いの祭典。王直属の軍所属の兵士やここ近年だと悪魔神教会の神兵、国中の冒険者や傭兵といったあらゆる人々が参加する大会だ。
そこで王国最強の座を巡って争う。この国に住む血気盛んな者たちの誰もが夢見る祭典だ。参加条件はただ一つ、この国の国民であることだ。
「それにアイツが出るってぇ!?」
ミノスで最もスクープを求めるガタイのいい男、ガルムは叫ぶ。それもそのはず、神出鬼没でめったに人前に出ない英雄級冒険者、全身鎧が出場を決めたのだから。
毎年、大会の上位入賞者や優勝者を予想し、賭けが行われるがおそらく今年ほど荒れる年はないであろう。それほどの衝撃だ。
「え、本当に出場されるんですか!?」
あまりの出来事に思わず聞き返してしまう冒険者ギルドの美人受付嬢のルイジェリー。勿論のことではあるが全身鎧は無言で首を縦に振る。
それから一分ほど経過した頃だろうか、ようやく状況が飲み込めたギルド内で飲めや騒げやしていた冒険者たちが歓声を上げた。
「全身鎧が闘技大会に出るって!?」
「こりゃあ今年はアイツに全財産つぎ込むかな」
「いや、これに乗じて威光のやつも出場しねぇかな?」
「確かにこのままこの国最強の座を奪われるのを黙って見てるなんてありえねぇよ」
「もちろん、僕的には神兵の方々に勝ってほしいですけどね」
様々な思惑が飛び交い始める。賭けに出るものや夢の対決を望むもの、また教会の勝利を信じてやまないものも。
「たしか、去年の優勝者は王国の兵長さんだったよな」
「ああ、ルーズ・ドッグ兵長か。あいつもかなりのやり手だからな」
そんな冒険者たちの騒ぎをよそに、全身鎧は受付を済ませるとまっすぐにギルドから出ていった。それを見送るルイジェリー、彼女の脳裏をよぎるのは一抹の不安であった。そしてその不安はほんの数日後に的中してしまうのであった。
そう、全身鎧の闘技大会から二日後に再びギルドを沸かせる出来事が起こった。【トロイの木馬】の闘技大会参加だ。
これにて夢のカードが実現しようとしていた。散々議論されてきた最強対最強、英雄対英雄。全身鎧対【トロイの木馬】が。
ギルド中がその話題で盛り上がっている中、一人だけ浮かない顔をしている者がいた。それがルイジェリーだ。【トロイの木馬】の参戦、それはペルセースの闘技大会も意味している。
お世辞にも彼は強いとは言えない。いくら最強のパーティに勧誘されたとはいえ、それ自体たった一月前の話だ。そんなわずかな期間で何が変わろう。彼が大会に参加する腕利きたちにやられるのは目に見えている。
「ぺ、ペルセース君。無理してあなたまで出場することはないのよ?」
「大丈夫だよ、ルイジェリーさん。ほんの腕試しさ、危険になったらすぐに棄権するよ。優勝が目的じゃないんだから」
白髪の少年、ペルセースが自信に満ちた表情でルイジェリーにそう言い放ったのはほんの数刻前だ。それからというもの、ルイジェリーはペルセースが調子に乗って痛い目に見るのではと気が気でなかった。
「あ、あの、ルイジェリーちゃん?」
恐る恐る彼女に話しかけてくるのは三つ編みにされた長い青髪が映える少女だ。歳は18、背丈は小柄なルイジェリーよりもさらに小さく140㎝ほどしかない。茶色の三角帽子や黒く短いマント、その風貌が彼女が魔法使いであることの証左だ。
「あら、ジェルナさん......」
ルイジェリーはあまりにも唐突な好意を寄せる相手の危機に、受付の業務にすら集中できないでいた。だが、これほど気の抜けた返事をしたのは、ルイジェリーにとって二つ年上のこのジェルナこそ数少ない相談相手だったのも要因である。
「き、聞いてたよ。ぺ、ペルセース君がと、闘技大会に出るって」
「そうなんですよ......夢を語る子ではあったけど調子に乗ってあんな無茶するような子じゃなかったのに」
「う、ううん、ル、ルイジェリーちゃんの考えは、ま、間違いじゃないと思うよ。」
「その通りだぜ嬢ちゃん、男子三日会わざれば刮目してみよ、だ。」
ジェルナにかぶせるように響く野太い声、ガルムもペルセースの大会参加に肯定的なようだ。受付カウンターで二人が話しているのを見かけて混ざりに来たのだ、面白そうと。
「どうしてですか!?いくら一月【トロイの木馬】で修業してたといっても」
ルイジェリーは理解できなかった。なぜこれほどまでに二人がペルセースの危険を無視することができるのかと。他の冒険者たちならまだしも、ペルセースと特に交流のあったこの二人がどうして。
「一つ間違いを正してやる。英雄級冒険者ってのは俺ら一般人の物差しじゃ測れねぇ」
「そ、それに、ぺ、ペルセース君をし、信じてあげたい」
信じろ?どうやって?彼女は知っているのだ、クエストをこなすたびにボロボロになって帰ってくる彼の姿を。そしてそのクエストもF級程度のモンスターしか出てこないことも。
下から二番目のランクの魔物にすら苦戦してたのだ、英雄級冒険者クラスが出場する闘技大会でどうして彼が痛い目に合わないと言えようか。
「そもそも本当に実力不足なら、あの威光が許すと思うか?」
その一言が彼女を納得させた。確かにそうだ、悪魔神教を崇拝していない異教徒であるにもかかわらず教会から信用されるほどの人格者として名高い威光が許したのだ。
きっと何か秘策があるに違いない。
「そ、それに、ル、ルイジェリーちゃんが信じてあげなくちゃ」
その言葉も彼女をハッとさせた。好きな人を信じる、それすらできないなら想うことなど許されまい。ジェルナの一言で我に返ったルイジェリーは何があっても最後までペルセースを応援すると決めたのだ。
「そういや、お前さんは出ないのか?蒼海の魔術師さんよ」
「あ、あたしは、い、一応出るよ」
「まあ、出ないよな。魔法の腕以上に臆病さでお前の右に出るものはいねぇ......って出るのか!?」
これは驚きだ。その証拠にガルムは思いっきり飛び上がっていた。飛びすぎてカウンターから少し離れたところの椅子を吹っ飛ばしてしまったほどだ。
「こりゃまた荒れるな。」
「そ、蒼海の魔術師として、フォ、炎獄には、ま、負けらんない!」
気合は十分であった。彼女、ジェルナ・ブルウは蒼海の魔術師だ。その名が示すようにこの国きっての水魔法の使い手である。
もともとは王宮魔術師であった彼女だが、その性格が戦争に駆り出される王宮勤めに向いておらず2年ほど前に冒険者へと転職した。
彼女はこの年にして既に究極級の魔法を使いこなす。だが、彼女の強さの根源はそこではない。それは圧倒的なまでの補助呪文、そして応用力だ。
そんな彼女を象徴するオリジナル魔法こそが蒼海だ。
その魔法を引っさげて数々の高難易度のクエストをこなした彼女はミノスの冒険者たちの中でもトップクラス、1級冒険者へと上り詰めた。
もしも彼女が普通の冒険者並みに好戦的であったならばおそらく英雄級冒険者になっていたであろう。それほどの天才魔術師だ。
「これは面白いことになりそうだぜ。もちろん俺はジェルナを応援してるぜ、果たせよジャイアントキリング!」
「も、もち!」
普段大人し気なジェルナだが、どうやらやる気十分だ。そんな彼女を見てガルムも覚悟を決めた、そんな顔をする。
「おれも、一旗揚げるかあ!!」
「「無理!」」
そんなガルムの決心は一瞬にしてルイジェリー、ジェルナ両者に否定されるのであった。




