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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter4:伝説の幕開け
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貧乏からの脱却!?

 蒼華……もとい、食人植物アンスロポス・トロゴがいた場所から最も近い小さな町。


 田舎ながら蒼華観光のため訪れる旅行者のおかげで発展を遂げたこの町を夕日が包んで赤く染める。


 その中に何故か二軒立ち並ぶ宿屋、片方は見るからに豪華な高級宿、対するもう一方は明らかに材木がところどころ朽ちているみすぼらしい宿屋。


 つい先日のことだ、ペルセースが後者のオンボロ宿に宿泊したのは。


 今回は依頼の帰りである、当然のごとくペルセースが入るのはボロい宿……


「って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「どうした、ペルセース君?」


 突如として大声を上げるペルセース、それを珍奇に思った道行く人々はペルセースをちらりと見てクスクスと笑い声をあげて通り過ぎて行く。


 そのような一緒に行動している者なら誰しもが逃げ出したくなる状況下において、威光ポースはごく自然にペルセースの奇行に疑問を浮かべていた。


「いや、だってこんな高いところって……いや、俺みたいなのが入ってもいいのかなぁ……って」


 前半は勢いに任せて声を荒げていたものの、途中で我に帰り先ほどの自分の行動を恥じて萎縮する。


 そんなペルセースを見て、威光ポースの後ろで戦華アントス炎獄フォティアが必死に笑いをこらえている。


 それがより一層ペルセースの羞恥心を煽り立てる。


「大丈夫、ペルセース君が気にすることはないよ!なんたって今の君は僕たちの仲間、パーティ【トロイの木馬】の一員なんだからさ!!」


 少しばかりボリュームの上がった威光ポースの声、それを聞きペルセースの心に若干の自信が戻ってくる。


 そう、経緯はどうであれ英雄級のパーティに加入できたのだ。


 これが夢への大きな前進でないわけがない。


 ペルセースは先ほどのことを思い出し、噛み殺せないほどの喜びを感じた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「見たところ君、ソロみたいだけど、僕たちのパーティに入ってくれないかい?」


 唐突な威光ポースからの、英雄級の冒険者からのパーティ勧誘、ペルセースの頭は現状を把握できず思考を停止していた。


ーーーーーーえっと、「パーティに入ってくれない?」てことは俺は【トロイの木馬】に誘われてるってことか?

 でも、12級って後ろから2番目の底辺みたいな奴だぞ!?

 まあ、いずれは大英雄になる男ではあるけど、まだその域には達していないと思うんだけど……

 いや、実は既にとんでもない能力を開花させちまってるとか!?

 ないない俺にはそんな力はまだないよ、てことは勧誘じゃないってこと!?

 なら「パーティに入ってくれないかい?」とはどういう意味なんだ?

 【トロイの木馬】以外のパーティに入れということかな?

 「(弱くて野垂れ死にそうなお前はどこかの)パーティに入ってくれないかい?(じゃないと助けたのに夢見が悪いからね)」ということなのか!?

 そういえば、威光ポースたちは悪魔神教に協力はしてるけど信徒ではないって聞いたことが……

 異端者ってことは、超悪人ってことなのか!?

 いや、それはないない……それなら教会側が許すわけもないし、何よりさっきみたいに俺を助けたりもしないはず……


「えっと……ペルセース君?」


 呆けているペルセースを威光ポースの呼びかけが我に帰らせる。


「あっ……その、俺が……12級の冒険者なんかが入ってもいいのか?」


 現状を、抱えた苦悩を思い出し俯き、上を向いた銀髪が夕日に輝く。


 ペルセースの問いかけ、それを聞き一度場の時が止まった……だがそれは


「ふっ……はははははははははは」


 威光ポース、いや幻刃プセマを除いた【トロイの木馬】メンバーの笑い声で掻き消された。


「ったく、ペルセースだっけ?そんなこと気にしてるようじゃいつまで経っても12級のままよ!」


 戦華アントスが俯いたペルセースの頭をポンポンと優しく叩く。


 それに続けるように


「そうだぞ!それに、ボクたちは行き当たりばったりでメンバーを誘ってるんじゃないんだからね!」


 ペルセースを勧誘したのが適当でないことを炎獄フォティアが伝える。


 それらを聞き、俯いていたペルセースが再び顔を上げる。


「それ……本当……なのか!?」


「うん、ホントさ!」


 長い間ペルセースを縛り続けていた悩み、同期の冒険者が次々と昇級して行く中、1人取り残されることへの劣等感、それを威光ポースはたったの一声で払拭した。


 そこらのアドバイザー系冒険者とはわけが違う、英雄級の冒険者の言葉なのだから。


「僕が君を誘ったのにはわけがある。まぁ、今はまだ話せないんだけどね……でも1つ言えることがある。その辺の12級、いや下手したら2級冒険者でも食人植物アンスロポス・トロゴと遭遇したら2分ともたない。」


「えっ!?」


「それぐらいの強敵だよ。君の受けた依頼、異様に報酬がよくなかったかい?」


 威光ポースの言ったこと、それにペルセースはハッとさせられる。


「確かに人々の失踪の原因は不明だったけど、その話を耳にした教皇が食人植物アンスロポス・トロゴではないかと予想を立てていたんだ。」


 それにもペルセースは驚いた、なにせ今回の依頼を受けたもう1つの要因が依頼主が教皇であったからだ。


 教皇の目につくような活躍をすれば英雄への道に大きく近づくに違いないという思惑だった。


「だから報酬金を予め高く設定しておいて、低級冒険者も警戒するであろうと思っていたんだけど……君がこの依頼を受けたってミノスで聞いて、ね。」


「そう、ボクたちが勧誘しにいこーって決めた途端にペルセースがこんな難しい依頼を受けてるんだから!」


「私たちが急いで追いかけてきたってわけ。」


 ペルセースの行動に不満があるかのように炎獄フォティア、次いで戦華アントス威光ポースの言葉に重ねて言った。


「まあまあ2人とも……と、いうわけで僕たちもかなり焦ってここまで来たわけなんだけどそこで目にしたのは君の異様なまでの回避能力だったんだよ。」


「回避能力?」


「そう、実はもっと早くに助けられたんだけど君の戦う姿が興味深くてホントに危なくなるまで観戦してたんだ……ごめんね。」


「いや、助けてもらったんだ。俺がとやかく言える立場じゃないよ。」


「ありがとう、話を戻そう。君の回避能力についてだ、あれは12級の冒険者のものじゃない。もしかすると2級……いや1級クラスかもしれない。敵のわずかな動きを見切って攻撃のコースを予測して最小限の動きで避ける……普通の人に出来る芸当じゃないよ。」


 それには思い当たる節があった。


 昔からペルセースは人の動きがなんとなく読めた、それがよく一緒にいる人であればあるほど。


 孤児院での鬼ごっこでは無敵だった、なにせ鬼がタッチできないのだから。


 自分が鬼のときも相手の逃げ道を予測できるため最短で追い詰められる。


 実のところペルセースは孤児院の中でも運動が突出してできるわけではなかった、だがこの力のおかげで鬼ごっこなどのゲームで覇者となったのだった。


「僕が思うに、君はある種の特殊能力を有しているんじゃないかと思うんだ。ただそれは余りに回避特化すぎるんだ、だから……」


「だから?」


 突如溜めだした威光ポース、それにペルセースが続きの催促をする。


「うちのパーティに入って欲しい、そして僕たちがペルセース君の攻撃能力の強化をしたい、そう思ってるんだ!」


「分かった、稽古をつけてくれ!」


 もちろん、ペルセースは二つ返事で了承した。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 時は現在、ペルセースは触れてはいけないような獅子の装飾が施された黄金のドアノブを握り扉を開けた。


 ペルセース的に言えば8人は一度に寝れそうなシングルベッド、腰をかければ窒息死するのではと思うほど深く沈むソファ、華美なシャンデリアに派手すぎない詩集を施された白いカーテン、差し込む夕日で一層美しい出窓。


 そこに広がっていたのは、扉の豪華絢爛さとは異なって適度に飾られた気品に満ちた客室であった。


「すっ……すげぇぇぇぇぇぇ!!」


 あまりの豪華さにペルセースは興奮の色を隠せない。


 その品性のない叫び、それも隣の部屋に届くことはない。


 一室一室が高い防音性を備えており外の音とは全て遮断する仕組みになっている。


 庶民には決して宿泊することの許されない高級宿、それを2部屋もとっているのだから流石英雄級の冒険者というところだ。


 この部屋には男組、すなわちペルセースと威光ポースが宿泊することになった。


「毎度のことだけど、僕の家がどれほど裕福で贅沢だったのかが身に染みるよ……」


「ん、何か言った?」


「なんでもないよ……」


 どこか遠いところを見ている、ペルセースには威光ポースがそう見えた。






「う、美味ぇぇぇぇぇぇ!!」


「ペルセース君、流石に食事中に叫ぶのは僕もどうかと思うよ!」


「うっ……ごめんなさい」


 宿の従業員が運んできた夕食、牛のソテーが特にペルセースの舌を唸らせた。


 孤児院で食べてきた質素な食事とも、貧乏だったこの頃食べてきた安価な食事とも全く異なる食事。


 正直、この世にこれほど美味いものがあるとはペルセースは思ってもいなかった。


 人生をかけたフルコースを作っていようものなら、危うくそれが崩れそうなほどには衝撃的な美味さだった。






 食後、ペルセースはソファに沈みながら体の疲れを癒す……間は無かった。


「さて……ペルセース君、早速君に稽古をつけようじゃないか!!」


 ペルセースが出会ってから最も意気揚々とした威光ポースの声が部屋に響いた。



 

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