勧誘
「威光……!?」
驚かずにはいられなかった。
今目の前にいる男こそ、ペルセースという男が冒険者を目指したきっかけのような存在なのだから。
この男こそがペルセースを構築しているといっても過言ではないのだから。
そんな憧れの冒険者、威光はいつも遠くから眺めていたものと全く変わらぬ格好をしておりペルセースの驚愕など気にもとめていない様。
だが、その平然とした態度がさらにペルセースに本人だという実感を与える。
思えばいつも彼の逸話を聞いていた。
街の近くに現れた龍種をたったの1パーティで倒した話。
ミノスにある『永遠の迷宮』の踏破階層記録をB50階からB70階へと大幅に更新した話。
悪魔神教に仇なす異端者を駆逐した話。
さらには、あのラルト戦役に参加していたという話まで挙げだしたらキリがないくらいの逸話の数々。
どこまでが本当かは眉唾ものではあるが、ペルセースは全て信じている。
いや、本当でなければならない。
その伝説の数々、それがペルセースの生き様を決定づけたのだから。
自分もそうなろうと決心させたのだから。
だからこそ、この邂逅が運命的なものにペルセースには思われた。
羨望の英雄とのこの出会いを必然的に感じていた。
「あれ、僕を知ってるのかい!?」
対する英雄は、すっとぼけたかの様な返事をしてくる。
自身に名声など微塵も宿っていないと思っているかのごとく。
「そりゃあ知ってるよ!なんたってアンタは英雄級の冒険者なんだから!」
「そっかぁ……僕も有名になったもんだねぇ」
「そりゃあもう!……つかのことを聞くが、あの化け物を倒したのって……」
邂逅の喜び、いつまでもそれに浸っていられるわけではない。
先ほどの不可解な死、それがこの男の仕業でなければ一体誰の仕業だというのか。
ペルセースの中で答えがすぐに導き出されていた。
だが、威光の答えはそれに異を唱えるものであった。
「えっ……僕じゃあないよ」
笑い声を交えた返答、それがますますペルセースを困惑させる。
「だってあいつは……」
威光がそう言いかけたときだった、草原の奥から3人の人影がこちらに向かって走っているのが見えたのは。
背丈は違えど、3人とも同じ格好……いや、4人ともといったほうが正しい。
つまりは……
「僕のパーティメンバーだよ、おぉぉぉいこっちこっち!」
必死に走ってくる3人、その人たちがペルセースたちの元に辿り着くのにさして時間は有しなかった。
「では、改めて僕は【トロイの木馬】のリーダー役を務めてる威光だ!」
「私は戦華、よろしくね!」
「ボクは炎獄っていうんだ、名前の通り火魔法が得意なんだ!」
「……幻刃」
そう自己紹介されたが、声質から威光以外の3人が女性であることがわかった。
特に戦華に至っては、黒い外套から美しい金髪が顔を出していて女性であることが分かる。
炎獄は小柄なペルセースよりもさらに一回り小さい。
一番わからないのは幻刃だ。
身体は全身外套に覆われて、顔も仮面で隠されてる。
挙げ句の果てには声もほとんど出さない、と秘密主義的な雰囲気を醸し出している。
だが、そのいずれもがよく知った人間だった。
この【トロイの木馬】こそ世界にも数少ない英雄級のパーティの1つだからだ。
特にパーティメンバー全員がここまでレベルが高く、その上少人数というのは珍しい。
ミノスを拠点とする他の英雄級パーティ【鉄血団】とは大違いだ。
【鉄血団】はリーダーのキボオル=ガナハはともかく、その他のメンバーは雑兵に過ぎない数でゴリ押すパーティだ。
そんなものはペルセースの抱く英雄像には当てはまらない。
だからこそペルセースは思う。
出会えたのが【トロイの木馬】でよかった、と。
そして最初の疑問に戻る。
「さっき君を助けたのは幻刃なんだ!」
その威光の一言にペルセースは再び驚いた。
何せこの4人の中で最もそういう感情を持ち合わせていなさそうな人物の名が上がったからだ。
「ーって君は思ったかな?でもそれは間違い!」
戦華が続いて
「そうよ!幻刃はすっごくいい子なんだから、見た目で判断なんかしないでよね!!」
若干怒り気味の戦華、腕を組んでペルセースの方へ顔を近づける。
「いやいや、ごめん。俺もそんなつもりは……あったけど、今後は気をつけるよ。そしてありがとな幻刃」
ペルセースの感謝の言葉、だが幻刃は応えてはくれない。
「幻刃はシャイだからね、ボクたちにもそんな話してはくれないんだよぉ〜」
炎獄のフォローになっていないフォローが入るも、場は和んだ。
「ところで、君の名前はなんていうのかい?」
威光から尋ねられてようやく気がついた、ペルセースは自身のことを紹介していなかったことに。
「ああ、俺はペルセース、12級の冒険者をやってる」
「そうか、よろしくねペルセース君!」
威光がそう言って握手を求めてきてそれに応じる。
そして、その後も他のメンバーと挨拶を交わしたのだった。
そうしてひと段落ついたときだった。
「さて、ペルセース君!」
「はい、えっと、威光でいいんだったよな?」
「そうそう、それでいいよ!見たところ君、ソロ見たいだけど、僕たちのパーティに入ってくれないかい?」
威光からの突然の提案、それはペルセースからすれば願ってもいないことであった。




