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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
72/88

幕間

第3章、ついに完結です!

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます(✿´꒳`)ノ°+.*

そして、今後ともよろしくお願いします!!

 故ルナヒスタリカ王国、そこから少し離れたところには森や川、動物たちといった自然に囲まれたセルジューク=メナス地方統制長官の納める土地がある。


 時は夜、仄かに大地を照らす月光が窓から差し込み、真っ暗な部屋の視界を少しだけまともにする。


 天井まで届く本棚がズラリと並び、その本棚には無数の本が僅かな隙間すら許さないと言わんばかりにぎっしりと詰められている。


 床には色はわからないが装飾を見る限り高級そうであるマットが敷かれ、それらに囲まれた中に執務机が置かれている。


 その机には書類が積み重ねられ、羽根ペンが立ててある。


 ここはセルジューク=メナス伯の執務室。


 僅かに開けられたカーテン、そのすぐ側に置かれた椅子。


 月明かりが照らすその椅子に、1人の男が腰をかけている。


 金と黒が交互に入り混じった不思議な髪、それを腰まで伸ばして左眼を隠している。


 背丈は180後半ほど、座りながら組まれた足がスラリと長い。


 身を覆うのは貴族らしいスーツの様なもの、その旨部分に薔薇のような形の造花が飾られている。


 何も映さない漆黒の瞳、それが月を眺めている。


「ん〜、テオドア帝国での戦争は一旦終わったみたいだね〜。」


 1人暗い部屋にいるにしては妙に明るい声と口調、それが静かな部屋の中で響く。


「まあ、サリアとレミーナは大丈夫だよね〜、自慢の娘とメイドだもの〜!」


 男は自慢げな表情を浮かべ、耳に掛かった髪を後ろにかきあげる。


「それに……万一のときは私の太陽サンがいるしねぇ〜!」


 今度は少し怪しげな笑みを浮かべる男。


天命予知魔法テイレシアース通り……私の夢を託した彼がこれからも導いてくれるといいねぇ〜!」


 左の掌を見る、そこには青白く輝く魔法陣がある……途轍もないほど莫大な魔力の込められた……。


「……と、ふぅ……。もう……止められないね〜……いや、この話し方も……必要ないか……。」


 先程までの陽気な声とは打って変わって、低く冷たい声が鳴る。


 にこやかであった表情も、感情を欠片も映さない冷たいものへ変わる。


「私……俺の仇……復讐……仇討ち……なされる日が近い……。」


 憎しみに満ちた言葉、にも関わらず男の顔にそのような表情は映らない。


 その言葉だけ残し、男はカーテンを閉じ再び真っ暗となった部屋から出ていった……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「海神様、ただいま帰還いたしました。」


 薄暗い洞窟の中におちゃらけつつも畏まった声が鳴り渡る。


 声の主は190もある身体を曲げお辞儀をしている。


 全身を覆う真っ赤な軍服に紫のかきあげられた髪、そして人相を隠す山羊のような見た目の仮面。


 何よりも、背中から生えた漆黒の蝙蝠の羽が特徴的だ。


 ひれ伏す男、そんな彼に向かって歩いてくる音が聞こえる。


 洞窟の奥、そこからゆっくりと固いものを軽く叩くような音を何度も響かせている。


 待つこと数分、彼の前に姿を現したのは1人の女性。


 見た目は若々しく、背丈は150ほど。


 長く伸ばした黒い髪に全身を包む深い青のローブが歩くたびに揺ら揺らと動き可憐である。


 少し幼さを残したその顔は美少女と形容するのにふさわしい。


 そんな彼女は、男のすぐ前まで迫り顔を上げさせる。


 小さく可愛らしい唇が開かれると、そこからは小鳥のさえずりのようなこれまた美しい声が鳴り響く。


「お帰りなさい。あと、海神様はやめてっていってるでしょ?」


「では、〈海〉の枢機卿と……」


「それもやめて、アカリでいいって言ってるのに〜!」


 妙に畏まった物言いをする男に、少女は顔を膨れさせる。


「……それで、あの子達の無事は確保できたの?」


 膨れっ面を真面目なものへと一変させ、アカリと呼ぶように求めた少女は、緊張をもたせたトーンでそう言った。


「ええ、そちらは抜かりなく。」


「そう、ならいいわ。んー癪だけど天命予知魔法テイレシアースの情報に頼るしかないか……。」


「ほぉ……教皇の。」


「うん、あの人の言ってた通りなら……プロバトン、あなたの力がまた必要ね!」


 そう言って少女は、プロバトンと呼んだ男に向かってウインクをする。


 多少なり頬を染めたプロバトン、それを見て少女はニヤニヤと笑った。


 ここはとある国の鳴滝の洞窟と呼ばれる場所。


 そこには善なる魔女が住むと2000年前から語り継がれている……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 サザンカ、そこは故ルナヒスタリカ王国の街の一つ。


 夜の帳が下りたその街に二つの人影があった。


 一つは背丈の低い獣族のもの、もう一つはこれまた背の低い人族のものであった。


「今入った情報だ。テオドア帝国の首都ラルトが陥落したらしい。」


 背の低い人族、声の質的に少年だ。


 その少年の力強くも幼い声がサザンカの路地裏に小さく聞こえる。


「え!?……じゃあアタシの……」


「残念だけど……」


 少年の報を聞き、獣族の(声的に)少女はすすり泣きする。


「そこで、だ。俺と一緒に行かないか?」


「……………どこに?」


「奴らを根絶やしに……。俺だってライバル的なやつが殺されたんだ、黙っていられねぇよ……。」


 少年の言葉に静かに頷く少女。


 2人は街を出て遥か東、故テオドア帝国を目指す。


 月明かりが少年たちを照らし、少年の腰に下げられた雪のような紋章の入った剣が美しく輝いた……。


 まるで、少年たちの今後を哀れむかのように……。

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